第6話 生きてる意味
「......んんっ?」
あたしは目が覚めた。時計を見ると深夜帯で、まだまだ寝れる時間だ。
「変な夢を見ちゃったな」
もう一度眠ろうと思い目を瞑るが、何故か眠ることが出来なかった。
そして、徐々に不安が湧いてきた。
彩月がもしかしたら捨てるかもしれない、そんな恐怖が。
そしてまた辛い日々が帰ってくるのではないかという不安が。
1度幸せになってからまた地獄に落とされるのは、とてつもない苦痛だから、そんなの味わいたくない。
そんなことを1度考えてしまうと、心がざわついて眠る気になんかなれなかった。
(あんなに安心する言葉を言ってくれたのに.....あたしは....)
ダメだ、どんどんネガティブな思考になってしまう......とまで考えた時、横の部屋から音が聞こえてきた。
(もしかして起きてる?)
彩月......彼は優しい。あたしにいちいちご飯をくれるくらいには。
今まであってきた人の中で、いちばん安心する人だ。彼もホントのあたしを知ったら軽蔑してしまうのだろうか。
そう考えるとどんどん怖くなってきてしまい、部屋を出て、横の部屋へと向かう。
「あれ......?寝れないのか?」
「.....うん」
彩月は心配そうな目であたしの事を見てくる。
(......これだ、この優しい瞳)
この瞳こそがあたしがこの人たちついて行こうとした理由でもある。
だがもしこの瞳が変わってしまうかと思うと、元の生活に戻るんじゃないかと思うと、すごく不安になる。
怖くて怖くて、思わず涙が零れてしまう。
「あっ、ごっ、ごめ」
「とりあえず落ち着け.....何があったのか言ってくれ、最後まで聞くからさ」
寄り添ってくれる、まるで自分のことのように不安そうにしている。
そんな人と巡り会えたのが奏星にとっての唯一の幸運だっただろう。
「彩月には、感謝してる。ご飯も家も何もかもをくれて、すごく感謝してるっ.....」
「.....あぁ」
「ここにいたら、すごく安心できるの。この日常を失いたくないの、だから、だから」
自分で何を言いたいのか、よく分からなくなってしまう。頭ではわかってるのに、感情がごちゃごちゃになってよく分からなってしまう。でも、それでもただ、言いたいことだけは伝える。
「───あたしを、すてないでっ!」
涙が出すぎて、きっと今のあたしは顔がすごく不細工だろう。
彩月はそんなあたしを見かねて、ティッシュを持ってきて、それであたしの事を目を拭いた。目線を上げると、変わらず優しい瞳であたしの事を見つめていた。
「捨てないさ、絶対にな」
「本当に......?」
「言ったろ?俺がお前の行動に責任をになってやるって、一緒に居てくれってさ」
ジッと見つめ合う数十秒間。
彩月が嘘を言ってないと、奏星は理解した。
完全にでは無いが、少しだけ嬉しさも安心感があたしを包む。
「夜泣くと、明日の朝顔晴れちゃうんだよな」
彩月はあたしの涙を吹いたティッシュをゴミ箱にすて、私に近づいてくる。
「奏星、俺は何があってもお前のことを捨てないし、たとえ何か重大なことが分かっても、捨てることなんてしない、ハッピーエンドを迎えるまでな」
「......エンドを迎えたら捨てちゃうの?」
「いや、そういうことじゃないんだが......そこに俺は居ないというか」
「.....やだ」
「え?」
奏星は何故か涙のせいかなんのせいなのか分からないが顔が赤くなっており、俺の腕に抱きついてきた。
「奏星?」
「......ねぇ、彩月」
「なんだ?」
「彩月がこの世界で生きようと思ってるのは、何故?」
「......はい?」
「答えられる?」
「うーん.......」
いきなりそんなことを言われると、答えれない。でも、なんでいきなりそういう話になるのかが全く分からない。
「これはあたしの自論だけど、殆どの人間は死にたくないから生きてる、生きてる意味なんてそんな程度だと思うの」
奏星からは既に涙なんて消えており、ジッと俺の事を見つめてきていた。
「夢なんてない、けど死んだら何があるのか分からない。だからこそ生きてるんじゃないかな?」
奏星からは瞳にハイライトが少し消えかかっており、まるで「狂愛」の時の、いやそれ以上の何かを感じる。
「あたしもそう、君があたしを生かしてくれるのであれば、あたしは死にたくないから生きてるの」
「生きてる意味なんて、そんな程度......ねぇ、もう一度聞くけど、あなたが生きてる意味は何?」
────このゲームをハッピーエンドに導くこと。
だけど、そんなこと言えることなくて、そして今自分が生きてる世界をゲームだと思ってしまっている自分を彩月は反省した。
「そうだな.....お前の言う通りかもしれないな、うん、きっと俺も同じで死にたくないから生きてる」
「.....まぁだよね、そうだよね」
────彩月が生きてる意味を、あたしと言わせたい。
彩月に慰められてからずっと収まりきらないこの感情。
奏星には既に正体がわかっていた。
(あははっ......まさか、あたしが惚れちゃうとはね)
奏星はもう既に彩月のことを愛してしまっていた。
だからこそこんなことがスラスラと出てきてしまう。
「まぁだから、彩月があたしを捨てるならもう生きてる意味なんてない。だからこそその時は潔く死を選ぶよ」
「おいおい.......」
彩月には奏星がゲームの時のように俺に惚れているのか、それとも、救ってくれた俺に対して忠誠でも誓ったのか、それは彩月には分からなかった。
(これ、ちょっとやばいかも......)
ハッピーエンドへのルートが大きく外れてしまったと、彩月は確信をした。
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