第4話 俺は仲のいい幼なじみがほしいんだよっ!
「どうして.....私を引き取ろうとしたんですか?草薙彩月さん」
奏星は急にそんなことを聞いてきた......小学生なのか本当に疑う目で。
まぁそりゃそうだろうな......彼女にとって親が憎しみの対象でしかないのだ。
自分のことを化け物だと罵ったのは彼女の両親で、そしてそれを広めたのも紛れもない彼女の両親なのだから......。
そんな人と俺の父は関係を持っている......決めつけるのは良くないと分かってそうだが、どうしても不安は拭えないんだろうな。
(さてまぁ.....なんと説明するべきか。ここは母さんと父さんがいるから話しにくいんだよな)
ここで俺の好きなメインヒロインだから......と言うのは簡単だ。
でもそんなこと言ったところで何言ってんだこいつとしかならないし、意味なんてないだろう。
とまぁ、色々と考えていると、父さんが急に口を出してきた。
「そうだね......僕からすると君の父にお世話なんてなってないし.....なんなら嫌いだったよ、僕は」
「.......っ」
奏星は何となく予想をしていたのだろう......父が会社でもそういう人であることを。
だからこそあまり驚いてはいない様子だった。
「まぁでも.....娘の君にはそんなことどうでもいいことなんだよね。だからこそ僕は彩月の提案を承諾したし、母さんだってそうだ」
「私の愛する夫を粗末にしたのは少し許せないけれど.....娘のあなたには関係ないことだものね〜」
父さんと母さんは俺よりも先にその答えを口にした.....でも、俺に次は聞いてくるだろうな。
「では.....彩月さん、何故あなたはこのようなことを提案したのですか?」
俺はその質問に対して.....こう答えた。
「色々理由はあるけど.....俺の方がアイツらより幸せにできると思ったから」
「でもそれでも赤の他人を引き取ろうだなんて発想には───」
「まぁ他の理由を言うなら.....幼なじみが欲しいから.....かな」
「幼なじみ......?」
奏星はよく分からないといった顔をしていた。まぁ急にこんなこと言われてもそうなるだけどよな。
(でもしょうがないだろ?昔から憧れてたんだよな〜.....仲がいい幼なじみ。現実の幼なじみは次第に疎遠になるけど、俺が目指すのは心が通じあってる仲がいい幼なじみだ.....)
そう.....色々と考えた結果、俺は原作ストーリーをぶち壊し、メインヒロインを幼なじみにすることにしたのだ。
「俺、仲のいい友達がそんなにいないんだよ.....だからこそ仲のいい幼なじみが欲しいと思った」
「なる、ほど......?」
「あぁ、ダメか.....?俺、君みたいな可愛い幼なじみが出来たら舞い上がれる自信があるぜ」
「かっ、かわっ.....!?」
おそらく可愛いと言われたことは今まで全くなかったみたいで.....奏星はクールな表情を崩し、赤くしてしまった。
「あらら.....」
「ふふっ.....流石私の息子ね〜」
父さんと母さんがニヤニヤした顔でこっちを見てきた.....あぁもう!こっちだって恥ずかしいんだわぁ!
「なぁ、握手しないか?」
「へ?」
「君が握手をしたら君はもう俺の幼なじみだ.....でもしないんだったら他の親戚の家に行けばいいさ」
俺はそんなことを言い出した。
まぁ俺の幼なじみになんなかったら親戚の家という選択肢を与えた訳だが......流石に酷すぎるか、これ。
奏星は絶対他の親戚の家に行きたくないだろうからな。
「その選択肢はズルくないですか.....?」
「さぁ?なんの事やら」
「うふふっ......いいですよ、幼なじみになりましょう」
奏星は今までの無表情を辞め完璧で満点の微笑を俺にしてきた。正直......マジで可愛い。
「あ、あと」
「.......?」
「敬語、無くしてくれよ」
「え......?」
「敬語ありじゃ堅苦しいだろ?.....頼むよ」
奏星は少しだけ顔を固まらせ、どうしよう.....という顔をしていたが、どうやらかくごをきめたらしい。
「わかりっ.....わかった。あたしもこれからタメ口でいかせてもらうよ?」
「あぁ、それでいいぜ♪」
差し伸ばされた小さい手......俺は自らの腕を伸ばし、その手を掴んだ。
俺はその瞬間......彼女の周りにある『ナニカ』に目を向けた。
姿は見えない......だが確かに存在しているはずだ.....だって、それが彼女が畏怖される所以だから。
(でもいつか......お前とも仲良くしてやるよ、絶対にな)
今はまだ無理......だけどな。
△△
「.......」
あたしはさっき彩月に案内された部屋のベットで横になっていた。
理由は特にない......ただこうしていたかっただけだ。
『どう思う?』
『奏星の予想は合ってると思いますよ......彼は本当にただの善意で、そして幼なじみが欲しいという思いもほんとですよ』
『まっ、だよね〜......不思議な人だね』
『そうですね.....まぁ、まだ月日がたってみないと分かりませんが』
『それもそうだね.....っと!』
あたしはベットから起き上がる。
「さて.....このなけなしのお金で何かお腹を満たせるものでも買ってきますかね」
部屋を出て階段を降りる.......と、そこには彩月がいた。
「おっ、どうしたんだ?」
「お腹すいたから.....何か買ってこようと思って」
「あぁ、なるほど......ほら」
彩月はおにぎりを私に見せてきた.,....ん?これを、あたしにくれるということ.....?
「どうした?」
あたしが固まっていると、彩月は不思議そうにした顔をして聞いてきた。
「これ、貰ってもいいの......?」
「そうだけど......あぁ、そういう事か。ほんとに何もしてくれなかったんだな......これ、朝の残り物だから、遠慮しなくていいさ」
「そ、そう.....?じゃあ貰うね」
本当に美味しそうなおにぎりだった......今まで、もやしとかしか食べさせて貰えなかったせいだろうか。
そんなことを思いながら、あたしは部屋へと戻った。
『びっくりした......』
『ほんとにびっくりしましたね.....こんなものを貰ってもよろしいのでしょうか』
『わかんない.....でも貰ったからには食べないと失礼だよね』
『でしょうね......じゃあ、食べちゃってください』
『うん』
あたしはおにぎりに手を伸ばす.....そしてそのままかじりつく。その時、過去の思い出がフラッシュバックした。
何も世話をしてくれない両親。
寂しくて泣いてしまうあたし。寒くて、時には暑い日に苦しむあたし。普通に生活をしたい、そんなことを幾度となく願った。
普通と愛情がほしいと。
でもあたしはこの能力自体を恨んではいない.....だって、この子も今となっては大事な存在だから。
昔はまぁ.......うん。
でも、今ようやく普通に手が届いた気がした.....それに、薄らと涙が浮かんでしまうが、あたしは我慢する。
(絶対にこの能力をバラしちゃいけない......この普通を、守り抜くために)
あたしはそんなことを思い、空になった皿を返しに行こうと再びリビングへと向かった。
「あ......」
だがそこで彩月とお母さんが何かを話していた......割って入るのは良くないと思い、その場で待機をするわけなのだが......何やら声が聞こえてきた。
「あの彩月が珍しいわね〜?......お母さんびっくりしちゃったわ」
「なにがだよ」
「だってあれ朝の残り物などではなく.....彩月が作ったおにぎりでしょ〜?」
あたしが聞いていたことと違うことを喋っているお母さんにあたしは思わず
「え.....?」
と、反応することしか出来ないのだった。
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