第3話 どうしてこんなに妹が可愛いんだ...っ!

俺が月詠奏星を引き取ると決めてから数日、俺は部屋でゴロゴロしながら彼女が来るのを待っていた。

冷静になって今考えてみると......本当に何をしてんだという気持ちである。


「どう、接すればいいんだろうな......」


正直どう彼女と接すればいいのかが分からない。

ゲームでは他にもヒロインがいたが......月詠奏星は最難関なキャラであり、バグのようなキャラだった。

まず奏星は......他のヒロインにはないとある特徴があるのだ。


「でもゲームで見た時はもっとギャルぽかったような......」


誰に対してもあんな丁寧な言葉を使うような人では無かったのだが.....まぁ別にそれはいいか。

誰もが彼女に感じる何か......あれこそが奏星の持つ能力だ。

どうやら作者側からするとその異能によって圧倒的恐怖を植え付けたい.....との事らしい。


「でも流石に怖すぎなんだよやアレは......相当グロいしなあれ。ていうか奏星のルートに進んでいったら1つでも選択をミスったら殺されるんだよな」


1回でも何かを間違えればすぐそれによって殺される.....だからこそ、あの母さんですら不気味に思ったんだろう。


「.......にぃに?」

「莉里?」


とまぁ奏星について考えていたら俺の妹───草薙莉里が俺の部屋に入ってきた。

髪は栗色で肩にかかる位の長さだ。

年で言うと俺は小6で莉里は小5だ。

性格は母さんと同じで温和でふわふわした感じだ。

普段の会話からはあまり頭いい感じではないのだが......天才だったりする。


(俺の周り天才多すぎな.....?)


授業なんて聞かなくても.....莉里には映像記憶能力があるため、見たら絶対に忘れないのだ。

もはやチートである。


「どうしたんだ?莉里」

「ちょっと話があって.....」


莉里からはいつもはあまり見せない焦りが見える......一体どうしたと言うのだろうか。


「にぃにが引き取るって決めたあの子.....本当に私たちと同じ人間?」

「......え?」

「言葉じゃあまり表現出来ないんだけど.....他の人と違う何かを持ってる気がする.....」


莉里は少し体を震わせながら言った。


(流石だな......やっぱり何かを感じ取っちゃうんだな、莉里は)


人間じゃない......それはあくまで莉里の能力の正体な訳だが、ノーヒントでよくもまぁそこまで分かるものだ。


「まぁ大丈夫だろ......アニメじゃないんだからな」

「......まぁ、そうだよね」


莉里は少し納得してない様子だったが気にしないことにシフトしたようだ.....それが正解だよ、莉里。俺たちでどうにかできる代物じゃないからな。


「じゃあ.....ギュ〜〜〜っ」

「おっと.....」


莉里はいきなり俺に飛びついてきた。

手は俺の背中に回され、足も俺にまとまりついている......どうやら俺に甘えることにしたらしい。


「頭撫でて〜〜?」

「はいはい......」

「〜〜〜〜ふふーん♪」


莉里はよく俺に甘えにくる。

甘えられるのは全然構わない......むしろウェルカムだ。

妹が兄の俺に甘えてくる.....前世では絶対にありえないことである。

だがいつまでこうやって甘えに来るのかという不安もある。


(反抗期は誰にでも来るものだ......だがだからといって『死ね!嫌い!』とか言われた暁には死んでしまうかもしれない)


世のお父さん方はそれに耐えて生きてるんだろう.....?いやぁ、とんでもないな。

俺だったら不可能である。


「にぃにに包まれてる感じがして落ち着くぅ......♪」

「そんなに落ち着くか?これ」

「なんとも言えない安心感があるんだ〜......えへへっ♪」


え?なに?可愛すぎんがうちの妹。

何をどう頑張ったらこんな可愛くなるのか気になるものである。

いやまじこれから妹が彼氏を連れてくる......そんな日が来てしまうのかもしれない。


(もしかしたら俺はそいつを殺してしまうかもしれない......)


いやわりかしガチで、本当にそう思ってます。


「んー.......」

「ん?」


俺がそんな兄の宿命を呪っていた時に、すっかり莉里は寝てしまったらしい。

まぁ天才とはいえ小学生だしなぁ。


「まったく......可愛いヤツめ」


俺は仕方なく莉里を彼女の部屋へと連れて、ベットに寝させてあげる。

本当に安心しきった顔で寝ている......本当はずっとこのまま寝顔を見ていたいが、そうは言ってられないため、部屋から出ようとドアを開ける。


「いい夢見ろよ......」


俺はそれだけを言ってその場を立ち去った。


「.......♡」


莉里が目を開けてこっちを見ていたのを知らずに。


△△

どうやら俺が莉里を寝かしつけてるうちに奏星が我が家に到着したらしい。


「彩月、こっちだよ」


父さんに呼ばれた方に顔を向けると奏星が玄関の方に既にいた。


「いらっしゃい、えと、月詠さん.....?」

「こんにちは.....奏星で大丈夫ですよ」

「あー.....わかった。俺も彩月でいいから」

「はい、分かりました」


どうやら緊張自体はしていない様子だ......。

でも、少し俺たちを怖がっているようにも感じる。


「奏星さん、遠慮しないで入っていいよ」

「そうよ〜、どうぞどうぞ〜」

「ありがとうございます」


奏星はもっと砕けた話し方をするはずなんだが.....お世話になるということで切り替えて話しているのだろう。


そして奏星にはリビングにあがってもらい、そこで一旦落ち着いて自己紹介をすることにした。



「私は......月詠奏星です」

「僕は草薙月斗.....奏星の父だよ」

「私は草薙彩葉よ〜、彩月の母でもあるわね〜」


ここで俺は場を盛り上げる挨拶でもした方がいいのかと思ったが辞めることにした。

.....だって下手に滑ったら嫌だし。


「俺は草薙彩月だ、よろしく.......あとこの場には居ないけど妹の草薙莉里もいるから」

「分かりました、丁寧にありがとうございます」

「あぁ、よろしく.....この家、俺が言うのもあれだが好きに使っていいからな」

「......」


俺がそんなことを言うと奏星は黙ってしまった.......一体どうしたというのだろう。

そんなふうに困惑をしていたが.....奏星は瞳を真っ黒にし、この世に何も期待してかのような目で聞いてきた。


「どうして.....私を引き取ろうとしたんですか?草薙彩月さん」


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