第2話 化け物だから

『狂愛』というゲームを俺は遊んだことがある。このゲームは要するに主人公とヒロインの恋愛シミュレーションゲームなのだが......ただのそれじゃないのだ。


『あっははは♪あたしが逃がすわけないじゃんか』


そう......最終的にヒロインの愛が暴走して監禁するというゲームなのだ。

だからまぁ要するにヤンデレの女の子がいる恋愛シミュレーションゲームということだ。

だがストーリーや設定、そしてヒロインがとてつもなく可愛いためかなりの話題性があったのだ。

かくいう俺もよく昔は寝る間も惜しんでゲームをしていたものだ。


「まさかあそこまでハマるとは思わなかったよなぁ.......」


何故俺がこのゲームをプレイしていたのかと言うと、それはたまたま友人が俺に紹介をしてきたのだ。

正直最初は全く興味はなかった......が、うざく感じるくらいにはオススメされ、まぁ小さい経験も必要だと思いやっていたのだが......キャラの一人一人の葛藤や、魅力的なボイスや、圧倒的な可愛さをもつ挿絵に俺はハマってしまったのだ。


「まぁ、全部前世の話なんだがな......」


そう、どういう訳か俺は転生してしまい、ヒロインの両親の葬式で記憶を取り戻したのだ。こんなことが起こるのかと思ったが、俺は直ぐにヒロインを引き取ることに決めた。


理由は単純だ......月詠奏星の親戚はろくな奴が居ないのだ、本当に。

奏星を引き受けても、放逐。

部屋に閉じ込めてまるで腫れ物のような扱いをするのだ。

原作ストーリーが始まる高校までは親族間を点々とする訳だが、常にこういった扱いを受けているのだ。


「そんなの俺が認めるわけがないだろう.....?」


そんなこといいはずがない......だから俺が引き取る。それだけの話だ。



△△


後ろから子供の足音が聞こえてくる。それがどんどん近くなり俺のところまで届いた。


親戚たちが月詠奏星に話しかける。


「話は聞いていたわよね?」

「はい、聞いていました」

「どうするかしら?」


綺麗な声が響き通る......だけど、どこが冷めていそうな声だった。


「.......」


月詠奏星は悩んでいる様子だった。

まぁそりゃいきなりどこの誰かわからんやつの家にいけと言われても困るよなぁ。


(......ちょっと話しかけてみるか)


このままじゃ埒が明かない気がするので俺から話しかけてみることにした。


「な、なぁ.....俺は別に君たちを悪いことに利用したりとか考えていないぞ?俺の家族はすごく暖かい.....1回、俺らと住んでみないか?」


やっべぇ.....自分で言うのもあれだが怪しさ満点だぞこれ.....これ断られたらどうしようか。

どうやって説得するか。

色々なことを考えていると......


「......わたしは、それでもいいと思っています」

「「え?」」


話を静かに聞いていた親戚たちから驚きの声が上がる......もちろん、俺も声はあげていないが内心結構驚いている。


「ほんとにいいのか?」

「はい......あなた方の家に住まわせて貰いたいと思います」

「わかった.....父さん、母さん、莉里。いい?」

「問題ないよ」

「大丈夫よ〜」

「何がなんだかわかんないけどいいよ!」


家族全員も大丈夫らしい。

だったら今すぐにでも──と、思っていたのだが。


「でも、今日はホテルで過ごしたいと思っているのでこれで失礼します」

「おおう......俺は何時でも歓迎するぞ」

「では.....荷物は後々送りますので、連絡先を」

「あぁ」


連絡先を交換すると、奏星と再び目があう。彼女は深くお辞儀をしてホテルに向かって行った。

何故だか分からないがあっさりと決まってしまって拍子抜けしてしまう。


「.....これから大変だよ、彩月」

「そう、だね.....」


そう、これはまだまだ物語が始まったばかり.....彼らをハッピーエンドへ導くために、俺が頑張る必要がある。

ゲームでは既に高校生になってからの物語だったが......今と昔じゃこうも違うんだな。


「う〜ん.....私はちょっと怖いわね〜、あの子」

「え?なんで?」

「瞳に光がないのよね〜......相当辛い過去を耐えてきたんでしょうね」


いつも適当な母さんが真面目な顔をしてそんなことを言った......確かに、ゲームの月詠奏星を見ていなかったら怖く感じるか。



(ゲームじゃあ、もっと怖いんだけどな)


だって笑顔で人を解剖するようにまで仕上がるのがゲームの状態だぜ?.....恐ろしいわ。


△△



「......奏星、何を考えているのですか」

「.......」

「よくわからないですね....忘れたのですか?裏切られるということを」


......奏星に、謎の何かが話しかける。

奏星はその謎の何かに言われた疑問に少し考えてから口を開いた。


「.....目が、違った」

「目......ですか?」

「ほかの人たちは......見下したかのような、差別的な目をしてくる。でもあの人だけは何故か.....愛情のある目をしてたような気がしたから......行くことにした」

「........」

「まぁでも、親戚の家に行くよりはいいでしょ」

「ですが......彼は私のことを知りません。もし、知ってしまったら」

「でも、あたし達にとってあの人にすがるのが最善だったと思う。だから、バレない様にすれば良いんじゃないかな……と思う」

「そうですか......わかりました」


彼女たちはこれ以上話すことをやめた。

もしばれて親戚の家に行く......それは避けなければならないことなのだ。


化け物と言われることが確定しているから



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