第1話 ここから俺たちの物語は始まった

「誰が、あの子を引き取るの?」

「私の家は嫌よ.......」

「無理に、きまってんだろ......」


​───とある場所で、葬儀が行われていた。

それは、月詠九祖野郎という男の葬儀だった。

その男はかなりの嫌われ者であった。

仕事では不機嫌な時は新入社員にあたったり、飲みの誘いを断ると色んなことを言う。

とまぁ様々な要因からその男は嫌われていた。


だが、そんな男にも妻と娘がいた。

だが家庭環境は最悪だった。父は夜の街に出かけまくり、そして母はそんな父を見かねて家を出ていったのだ。

そんな矢先に​───────父と母は一緒に出かけていたところ、交通事故で無くなったのだ。


そしてそんな葬儀に.......草薙家は参加していた。なぜ参加しているのかと言うと、単純に父の会社の上司が月詠九祖野郎だったからだ。


「さて、そろそろ僕たちも帰ろうか」

「そうね〜......彩月、聞いてる?」

「.......」


彩月の母親が彩月に声をかける......が、彩月は不思議と足が動かなくなっていた。

それは何故なのか......それは、親戚の話を聞いたからだった。


「誰が育てるんだよ.....化け物だぞ」

「おい、それは」


おそらくあの子の親戚だと思われる高齢の夫婦が何かを話していた......しかし、あの子が化け物というのは.....一体なぜなんだ。



『その少女』はその親戚.....の側に寄る。

肩に当たるくらいの髪の長さで、色は銀色の目が赤色の少女は、背丈から草薙彩月と同年代ということが読み取れる。


「......この後、どうすればいいんですか?」

「......もう、今日はいいわ。ホテルに戻ってなさい」

「.....はい、分かりました」


化け物を見るような恐怖と差別を感じさせる瞳に見られた少女は、特に何も言わずに去っていった。


「やはり、私たちには無理よ」

「.....あまりにも、歪すぎる」


親戚たちは、大きな声でそれを話す.....というよりも、こんなに大きかったら聞こえないなんてありえない......いや、もしかしたらわざとなのかもしれない。


「......にぃに?」


妹が俺に話しかけてくる.....が、彩月にはそれがまるで聞こえなかった。

彩月は......何かを思い出そうとしていた。


(なんだこれ.....?見たことあるぞ、この『イベント』.....あ?イベントってなんだ?こんな記憶知らねぇぞ?)


『なぁなぁ、このゲームやってみろよ』

『あぁ?......なんだこれ。恋愛シミュレーションゲームじゃねぇか』

『ただの恋愛シミュレーションじゃねぇ.....ヒロインはなんとヤンデレらしいぜ』


その時俺の頭は.....爆発したかのように色々な記憶が流れ込んでくる。

自分の知らない記憶.......いや、忘れられてた記憶が。


「ほんとに大丈夫かい?彩月?」


父さんが言う前に俺は......親族たちの前に向かった。親族たちは俺に気づいてなんだなんだと不思議に思っている様子だった。


俺は、ここにいる人たち全員に聞こえるような、大声で言った。


「俺が.......あの少女を引き取っちゃダメですかっ!!??」


この声はきっと......ここを出ていこうとする少女にも聞こえただろう。

正直恥ずかしい......だが俺はこの後起こる未来を全て知っているから、絶対に逃す訳にはいかない。


「あのっ!僕はこの人の会社の後輩の子供ですっ!それで、話は変わりますが、僕にあの少女を引き取らせてほしいんですっ!」

「急に一体何を......」

「急に変なことを言っているのは自覚しています!でも、皆さん迷っているんだったら俺が......」

「彩月っ!急にどうしたの!?」


母さんと父さんが急いで俺の傍に寄ってきて手を掴む。

妹────草薙莉里は何が起こっているのか理解していない様子だった。


「父さんっ!母さんっ!このままじゃあの子が可哀想だよっ!いいでしょっ!?」

「別に私は構わないのだけど......」

「僕は不思議だね.....なんで急にそんなことを?」


父さんが心底疑問のように思っているようで、俺から聞き出そうとする。

だがここで原作知識───だなんて言えない.....一体どうすれば。

──あ。


「父さんなら.....分かるんじゃない?」

「.....??」

「見知らぬ家も何も無い子を助けたい気持ちが」


これは俺と父さんと母さんしか知らない秘密.....だが、この秘密は説得するには十分じゃないか?


「......そうだね、それもそうだ。あとは父さんに任せなさい」


どうやら俺の言いたいことは繋がったらしい。


「.......お願いします、先輩の意志を、僕たちが継ぎます。ですので」


親戚たちは困っている様子......だったが、次第に構わないと思ったのか。


「まぁいいんじゃないかしら......別に」

「そうだな......こいつらに押し付けてしまおう。責任感がある顔をしておる」


全部、全部聞こえてんだよクソ野郎共が.......俺の推しを馬鹿にするだなんて、いい度胸してる。


「コホン.....とりあえずは、あの子の意志を聞いてから、話はそれからにしましょう」

「ありがとうございます......彩月、これでいいね?」

「うん......上出来だよ、父さん」

「それにしても......雰囲気が変わったね彩月。大人びているというか....」

「きっ、気のせいだよ父さん」



危ねぇ危ねぇ......相変わらず、勘が鋭いな父さんは。流石、あのめちゃくちゃな母さんに毎日付き合わされてるだけはあるぜ。


そして親戚共はおそらく俺の話を聞いていたであろう少女のことを読んだ。

ホテルに行くはずだったけど話を聞いて足を止めていたのだろう。

徐々に少女の足音が近づいて来る気がした。


「.....ここからは、彩月次第だよ」

「わかってる......」


この日が、俺───草薙彩月と月詠奏星の出会いであり、この日から運命は変わり始めたのだった

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