第10話 そそのかす声

”     誘惑     ”

暗い気持ちで居るとき気をつけないといけないことがある。誘惑だ。といっても、毎回誘惑されるというわけではない。ただ、弱っている所に漬け込んでくるやつが居る、そういう人にそそのかされると、人はつられてしまう場合がある。


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「……なんで、鬼の貴方がここに居るわけ……。」

思いもしなかった。自ら祓い屋に近付いてくるなんて誰が思う?少なくとも僕はないね。あいにく刀を置いてきてしまったから武器なんてない。術も上手く使えるとは言えない、そんな詰みの状況でこの鬼を祓えるかと言われたら答えはノー。


「はっ。別にお主と戦いに来たわけではない。そうかりかりするな、うっとおしい。」


鬼はそんな僕の心読んだかのようにそう述べては鼻で笑い見下ろしてくる。正直不愉快だ。

「なら、なんで来たの。」

睨み、いつでも攻撃できるような体勢になってはいつもは出せないようなくらい低い声で話した。



「そうさのう、。お主の加護、そして他のものは気付いておらぬお主の本来の力に興味があったからだな。」



鬼は顎をさすりながら品定めするかのように見てくる。見下すのか品定めするのかどっちかにしてほしい。そして不愉快だ。

「加護は確かにあるけど、僕にそんな貴方が思うような力なんてもってないから。」

事実、兄様たちに勝てない、力が劣っている。僕の唯一の取り柄は加護を持っていること。ただそれだけに過ぎない。だから、この鬼の言っていることは間違えている。はずなのだが……


「はっ。まさか、お主自体も気付いていなかったのか。なんともまあ、無知で愚かな人間よのう。」

鬼はけらけらと嘲笑うかのようにして腹を抱えわざとらしく笑ってきた。

「……力があるというのなら妖力が少ないわけ、、、。」

そこではっとなった、夢の話で水神様に言われた言葉。僕の力は強く美しい、しかしそれを操るための力が、妖力が足りない、そう水神様は言っていた。そこまで考えると、鬼の言っていることや水神様が言っていることは一致する。まさか、そんなはずはない、そう考えるもふと思い出す。



水竜家に代々伝わる伝承の裏話を。


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裏話曰く、初代水竜家当主はかつて最弱だった。しかし、水神を助け、契約を交わしたその日以降、妖力が増え、今まで弱い術ばかりしか使えなかったのが幅が増え高度なものを使えるようになったそうだ。以降の子孫には、最初からその力が備わっているそう。だが、極稀に初代当主のように弱く、すぐには力が出ないそう。


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という、裏話なのだが、もしかすると自分はそうなのかもしれない。もしそうだとしたら、あの二人の言うことも納得がいく。でも、、、


「幼少より増えたのになんで使えないの、。」


「そりゃ、お主が必要としていないからであろう?」

鬼は何を当たり前のことを、とでも言いた気に見てくる。

必要としていない…?そんなはずはない、力があれば兄様たちの役に立つ、父様に認めてもらえる、存在していいと思える、それなのに思うわけ……



「力があれば役に立つ、だからほしくないわけ……!」



「……お主、とんだ大嘘つきだな。」



______本当は役に立ちたいとか思っておらぬのだろう?


             むしろ、失敗することを望んでいるだろ。



……否定、できなかった。鬼の言う通りほんとはそんなこと思っていない。今の兄様の役に立ちたい?思うわけない、そう心のどこかで考えてしまう。

いやだな、この鬼はどこまで僕の本心を知っているのだろう、どのくらいわかっているのだろうか。

鬼は何も答えないのを肯定と捉えたのだろう。僕の前まで歩いてきては顎を掴み無理やり顔を向かされる。なんとなく、この先言われる言葉が分かってしまった。



「なあ、愚かな祓い屋よ。力の開放を手伝う代わりに……」




お主の家族を滅ぼさぬか____________________

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