第7話 思い出

”    大切な記憶    ”


皆にはなにか忘れたくない記憶ってある?僕には今ではもう忘れてしまいたい記憶ばかりかな。あれも、これも、虚像で裏では皆きっと……そう思ったから。でも、それは違ったのかもしれない、兄様との記憶は僕にとっては大切なものなんだ……


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「ほら、着いたぞ。」

診療所の門まで連れてきてくれた。移動中、一言も話すことはなかったけども、繋いだ手だけは暖かく懐かしさを感じた。そしてこの手を離したくない。そう思ってしまった。そんな気持ちは届くはずもなく兄様は手を離そうとする、離したくないそう思ってしまったからか手を少し強く握ってしまった。

あと、もう少しだけ、少しだけでいいからこの時間を終わらせたくない____!

「……叶葉、?離してくれないか。」

「あっ、す、すみません、。」

ため息をつき呆れ顔で離すよう、言われた。ああ、また呆れられてしまった、。

僕は離したくない気持ちとは裏腹に出てくる言葉は謝罪だけで本心を伝えることが出来なかった。

「いや、大丈夫だ。」

俺はもう行くからと踵を返し、帰ろうとする。


その時だった。


叶斗兄様の行く先に鬼の姿が見えたのだ。鬼もまた、こちらをじっと見ている。

叶斗兄様が行くのを止めた方がいい。そう思った僕は叶斗兄様の手を引き後ろにやっては鬼の方へと駆け寄り、兄様たちよりは拙い水術の一つ、水刃で攻撃した。


はずだった。水刃は鬼に当たることはなく空を切った音がする。鬼はいつの間にか姿を消していたのだった。

「……。」

逃してしまった。鬼の討伐依頼自体は終わっていないのに、まただ、僕が弱いばかりに……。これでは一緒に依頼をしている叶斗兄様の評判にも関わる。兄様の足を引っ張ってしまう、。

そうもんもんと考えていくうちに気持ちが沈んでいくのが分かる。そうなってしまうと僕は自分を制御することができない、わかっている。昔からの癖で親に否定されたあの日から僕は気持ちが沈むとどす黒い何かが渦巻いて抑えることができなくなる。

そういうときは小狐君が一緒に居てくれるのだが今はどこかに行っていて居ない。

だんだんとその場に立っているのも辛くなってきてその場にしゃがみ込む。


苦しい、痛い、怖い___


暗い気持ちに沈んでしまったとき不意に思い出したことがある。

これは、きっと兄様との記憶……?

わからない、今はもう落ちてしまおう、そうして僕は意識を手放した。


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意識を手放す中、夢を見た気がする。

暗闇の中に居た僕を誰かが手を差し伸べて明るい方へと引っ張ってくれる夢。

その手は温かくて安心する、どこか懐かしさを感じるそんな手だった。


僕はこの手の温もりを知っている。

遠い昔、といっても10年前とかの話だった。そのときにこの手と同じ感覚を感じた気がする。


誰だったかは思い出せない。


それでもこの温もりは落ち着いて大好きなものだといううことだけは分かる気がした。

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