6話
「あっ、おーい天華。おはよう」
「あら、彰人おはよう」
今日は偶然彰人と登校中に会った。まだ眠そうで目を開けたら閉じたりしている姿は、いつも戦いに集中している彰人とは違い、すごく微笑ましい。
そんな彰人を見て、私は冗談混じりにこう言った。
「朝、苦手なの?」
「ん…得意じゃないけど、昨日は夜遅くまで訓練してたからな」
と言うと、彰人はまたあくびをして涙目になった。
「訓練?夜遅くまで大変だったでしょ」
「まあこれも強くなるためだしな!それに昨日、武器が配られたばっかだし」
「ありがとう、でも、まだ上手く使えられるか分からないなぁ…」
「それは俺もだよ。俺とお前はパートナーなんだから、一緒に練習しようぜ」
「ありがとう彰人、それもいいわね」
「だろ、今度一緒にやろうな!」
彰人はあくびをしながら両手を上に伸ばし、にやりと笑って私の方を向いた。
「じゃあ、眠気ざましにちょっと走るか!」
「えっ、今から!?」
そして私を置いて、「先行くぞー!」と言って彰人は走り出した。
「もう、彰人ったら…」
私は彰人の後ろ姿を追いかけて走った。
◇
昼休み、私はいつも通り美月と雑談をしていた。
「あー!そういえば今日から一年生も訓練場が使えるんだって」
「そうなの?」
そんな時美月がこの話題を出した。
訓練場とは、その名の通りあやかしを倒すために様々な訓練を行い、身体能力や戦闘知識を強化できる場所だ。
「訓練場かぁ、色んな装置が揃ってるってきいたことある。どんなところなんだろう?」
「うーん行った事ないからわかんないなぁ」
「そうだね。それにしても美月は色んな情報知ってるね。今日の放課後彰人誘って行ってみようかな…美月たちはどう?」
「わたしも颯太君誘って行こうかなって思ってるんだ!それにほら、武器も配られたばっかりだし」
「たしかに、そうだね。私もなかなか武器を試せる場所がなかったから、ちょうどいいかも」
私がそう言うと美月は頷き、「私もなんだよね」と同意した。
「じゃあ、私たちと天華たち4人で一緒に練習しない?!」
「うん!いいね。じゃあ、後で彰人たちに伝えに行こう」
◇
「…うー、やっとおわったー!」
「あはは、美月は理科苦手だもんね」
「そうなの!1番最後の授業が理科だなんて…知らなかったよー!」
そう言って机で丸まる美月は同い年なのになんだか年下のように感じてしまう。
「でも、美月が待ちに待った放課後だね!早く2人を誘いに行こう」
「うん!いこっ!」
私たちは教室を出て隣のクラスをのぞいた。
巫や神司は危ない仕事のため、志願する人が少なく、2クラスしかない。
「あつ、彰人いた」
彰人は教室の1番後ろの席で鞄に教科書を詰めていた。私が「彰人」と呼ぶと気づいたらしく、急いで準備を置いてこちらにやってきた。
「どうしたんだ?」
「急にごめん。今日から1年生も訓練所が使えるらしいから、美月たちと一緒に行かない?」
「訓練所か…分かった!俺も行く」
「ほんと?ありがとう!」
美月は颯太くんを見つけてただろうかと横を見るとすごく笑顔で美月が手を振っていた。
「颯太くーん!」
「…美月、どうしたの」
「えっと、今日から訓練所が使えるらしいから、私たちと一緒に行かない?」
「訓練所、か…」
颯太くんは少し考えるような仕草をして、美月の方を向いた。
「そっちの人は、友達?」
「あっ、はじめまして。私は神楽天華」
「俺は天城彰人だよろしくな」
「天城…神楽…、」
「颯太くん、知ってるの?」
「ああ、模擬戦の時すごく強くてみんなから噂されてた」
噂されてたんだ…まぁ、彰人は有名だし、噂されるのも納得だ。
「そうなんだねぇ〜それで、颯太くんどうする?行く?」
「いいよ一緒に行こう」
「ほんと!?やったー!」
美月は両手をあげて、とっても喜んでいて、その姿がとてもかわいい。 颯太くんも、そんな美月を見て微笑んでいるように思えた。
「よーし!じゃあ行こっ!」
「あっ、美月、そんなに走ると転んじゃうよ」
◇
「ここが訓練所かぁ、思ってたよりも広いね」
「そうだな、色んな訓練ができそうだ」
私が感嘆の声を上げると、彰人が目を輝かせながら門をくぐった。その先には広々とした敷地が広がり、様々な訓練用の設備が整っていた。
「へぇ、あそこには射撃用のターゲットもあるのか」
「こっちは体力測定かな?」
それぞれが好奇心を抱いて設備を見る中、私は一週間前に配られたばかりの自分の武器を見つめた。
−『
この武器には秘密があって、霊力を流すと弓から細身の長い剣に姿を変える、すごい武器だ。
けれど、私はまだこの弓を自分のものとして扱えていない気がして、少し不安だった。
「…?天華、どうかしたか?」
彰人が私の様子に気づいて声をかけてくれた。
「ううん、ちょっと緊張してただけ」
私は笑顔を作りながら答えた。すると彰人は私の肩を軽く叩き、にこっと笑う。
「大丈夫だって、天華1人じゃなくて俺もいるんだから、なんとかなるさ!」
「…そうだね、ありがとう」
彼の前向きな言葉に背中を押されたような気持ちで、私はしっかりと花弦を握りしめた。
幽玄の花篝 双葉想 @rlx1l_s
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