不景気戦隊ウレンジャー

裏道昇

不景気戦隊ウレンジャー

 今日、いきなり博士に呼び出された。それも、前に怪人と戦った荒野に俺一人だけ。

「突然、どうしたんですか?」

「うむ、今日は新装備の実験をしてほしいのじゃ」

「……はあ、また作ったんですか? 予算も少ないのに」

 俺たちは少ない予算で平和を守る――ウレンジャーだ。

「べ、別によいではないか。もともとわしのお金だ! 名前を売りたいお前らに協力を……」

「はいはい。で? 何を作ったんですか?」

 こう訊くと、必ず機嫌を直してくれる優しい中年――博士は言う。

「なんと! 今回は四つも作ったのだ。早速、変身してくれ」

「……」

 正直、だるい。だが、貴重な金づ……スポンサーだ。彼がいなくては平和を守ることも英雄として名前を売ることもできない。それは困る。

「分かりましたよ」

 そうして俺は右腕の端末に、

「変身! パスワードは『愛と正義』!」

 いつも思うのだが、パスワードって叫んだら意味ないよな……。でも前に緑の奴が言ったら、博士は気持ち悪いくらいの癇癪を起こしたし。黙るしかない。

 服装が入れ替わり、全身が赤のコスチュームに変わる。

 いつもは素手なのだが、今日は違った。右手には剣。左手の甲には盾。そして腰には銃が備わっていた。

「さあ、怪人を倒すのだ!」

「ええ!? 怪人いるんですか! 実験でしょ、都合良く怪人がいるわけ……」

「問題ない。捕獲してある」

 博士は物陰から捕縛された怪人を引きずってくる。どうやら下っ端のようだ。見た目は全身黒タイツの人間と変わらないが……

「問題あるわっ! 人道的にまずいでしょう⁉」

「わしが問題ないと言ったらないんだ! やれ」

 肩に、ぽん、と手を置かれた。

 え、なにこれ。俺は無抵抗の怪人を倒さなきゃ無職になるの……?

「分かりましたよ!」

 腰の銃を引き抜き、怪人へと向ける。それは未来的な形をした、変わった銃だった。

 怪人の恐怖に歪んだ顔へ謝りながら引き金を引いた。

 びびびー、と光線が飛び出す。

「!?」

 訳が分からない。本当に意味不明だが、銃が小さくなっていった。最終的には、全長三センチほどのガラクタへと変わる。

 そして、怪人は爆発した。

 怪人について、詳しいことは解明されていない。分かっているのは、彼らの体力がなくなると爆発するということだ。

「動けない怪人を倒しちゃったよ!」

「うんうん」

「頷いてる場合じゃないですよ! 国際法とか大丈夫なんですか!?」

「うむ」

「だから頷いてる場合じゃねえよ! そして、なんでこの銃小さくなったんですか?」

「それは、この銃は使えば使うだけ小さくなるからだ」

 ちくしょう。装備の説明だけはしっかりするのかよ。

 しぶしぶと銃を戻す。ちゃんと小さいホルダーもついてた。

「……なんで小さくなるんです?」

「軽量化だ! 使い終わった武器が邪魔にならないよう、軽量化したのだ!」

「そこかよ! 技術は凄いのにそっち行っちゃった。敵を小さくしたほうが早いでしょう?」

「それじゃあ、軽量化できないじゃないか」

「なら、使い捨てにしろ!」

 帰ります、と礼をして背を向ける。

「待ちなさい。まだ終わってないよ。その剣と盾は飾りじゃない」

「でも実験相手がいないじゃないですか……」

 博士を実験相手にしたいと思いながら振り返る。

 その博士が別の怪人を陰から出していた。

「何体捕獲してるんですかっ。つーか、あんた自分で怪人倒してるじゃねーか!」

「まあまあ。まさか、ここまでやって……ねえ?」

 目は全く笑っていなかった。

「分かりましたよ。やりますよ」

 内心で罵詈雑言を撒き散らしながらも頷いてしまった。

「さあ、怪人を倒すんだ!」

「……無抵抗ですけどね」

 次の怪人は下っ端ではなかった。コートをまとった、普通……というより結構強い奴だ。以前は苦戦してから追い返した。確か、腹から光線を出したはず。……しっかりと腹には覆いがしてあった。縄の拘束もそうだが、自衛は完璧なんだ、この人。

「でも、この剣はどう使うんですか?」

「スーツで擦るんだ」

「……? こうですか?」

 左手首の辺りで剣を擦る。すると、剣が輝きを増した。擦れば擦るだけ輝くようだった。やがて眩い光を放つ剣を握り締め、怪人に走る。

「さあ、放つんだ! その剣の名は……」

 暴れる怪人が逃げようと、足だけで立ち上がる。

 それを左肩から袈裟に斬りつけた。

 バチ、という音に続いて怪人の悲鳴。

「サイレントエレキソード!」

「静電気かよ!」

 しかも、英訳は多分違う。

「なんで電池とかにしなかったんです!」

「いや、省エネとか流行ってるし」

「流行ってるとかじゃないでしょう……」

「え? エコとか嫌いな人? まあ、考え方は人それぞれだけどね」

 俺が節電してないみたいに言われた。博士の無駄な研究を減らすのが一番のエコだと思う。

 ふと、物音が聞こえて振り返る。

 怪人が立ち上がっていた。先ほどの一撃で縄が切れたようだ。一緒に腹も自由になったらしく、光線を放とうとしている。

「た、たすけてくれぇ」

「自業自得ですよ。動かないでください」

 しかし静電気とは言え、あの一撃で体力が尽きないとは……。やはり強い怪人だ。

 怪人がコートの前をはだけ、光線が放たれる。

 俺一人なら逃げられるが、博士は無理だろう。ここは、使うしかない……心もとないが。

 左手の甲についた盾を構える。

「ぎゃあぁ、痛いです! 死ぬ、死にます! 助けてぇ!」

 相変わらず理解に苦しむ装備だ。何故か『盾』が絶叫していた。

 今まで気付かなかったが、盾の裏側……俺の側が顔の形になっている。その顔は苦痛に歪みながら泣いていた。

「……これは?」

「気付いたか。盾に人格を付与したのだ」

「なんで……? なんで盾なんですか! 苦しむだけじゃないですか!?」

「これには、いくつか理由がある。まず、相手の攻撃力が分かる。この攻撃はなかなかだな」

 盾の性能だけはいいのか、怪人の光線をしっかりと防いでいた。この悲痛な叫びの元凶を、完全に守っていた。

「冷静に分析しないでください。……ならどうして裏側なんですか?」

「ふふふ、それがもう一つの理由だよ。この表情から盾の耐久度が分かる」

 盾がいつ壊れるかが分かるということか。

「ならもう限界ですよ! こんなに苦しんでる」

「いや、逆だ。リアクションが大きければ大きいほど、安心だ」

「リアルすぎる!」

「ちなみに人格は普通のサラリーマンから頂いた」

「もっと精神的に強い人もいたでしょう!? ……もういいです。それで、どうしたらいいですか? 俺一人じゃ勝てませんよ?」

「問題ない。新装備は四つあると言ったではないか」

 いったん盾を置き、絶叫の中で作戦会議をする。

「スーツに新機能をつけておいた。端末に『スペシャルモード』と伝えるのだ!」

「分かりましたよ……『スペシャルモード』!」

 光と共にスーツが少し変化し、変わりに力がみなぎってきた。

「これは……!」

「どうだ、どんな敵にも負ける気がしないだろう!」

「ええ、ですが。なんでこんなにキツキツなんですか?」

 その変化とはスーツがものすごく縮むことだった。

「パワーとスピードが二倍! 表面積が半分!」

「どうして表面積に手をつけた!」

「何事も代償が必要なのじゃ!」

「……この性能を出すのに必要だったということですか?」

 それなら仕方ないかもしれない。なにせ、二倍だ。それは大きな力に――

「いや、無関係じゃよ。むしろその表面積にするための材質に気を使った」

「うん言ってやる、馬鹿か! こんな状態で戦えるわけ……」

「大丈夫! 絶対破けないから」

「その技術で防御力上げろ!」

 叫んで、置いた盾から横に飛び出した。怪人が俺へと標的を変え、光線で襲い掛かる。だが、そんなものが当たるはずもない。何度もかわしながら接近し、

「はああ!」

 気合いと共に、今度は右肩から斬り下ろす。

 今回こそ体力が尽きて、怪人は爆発した。

「これで終わりですか?」

「ああ、後は臨床実験だけだ」

「臨床実験?」

「一週間、そのスーツを着るんだ!」

 一週間後、周囲からの視線でやっと気付いた。

 売れるわけねえよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不景気戦隊ウレンジャー 裏道昇 @BackStreetRise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ