テレビ座談会(ポトフ4兄弟)
○司会
こんばんわ、テレビ日日の『歴史人物の真相を探る』です。
今日はポトフ4兄弟についての座談会を企画しました。
ポトフ王朝については、どうしても始祖ライアン一世と正室ベアトリス、寵妃シャーリーが話題になりがちですが、次代を引き継いだ4兄弟の役割も見逃すことはできません。
偉大な親が作り上げた新たな国家をどう守り育てていったか、激動する国際情勢の中、我が国の今後の方針にも役に立つことがあると思います。
今日は4兄弟に焦点を当てた議論をお願いします。
では、ご専門の教授からお願いします。
○ヤンクン教授(ポトフ王朝史専門)
まず私から通史を紹介しよう。
王権はライアン一世の創業からベアトリスによる専横を経てアシュリー一世に継承された。
(異議あり!ベアトリス一世と訂正して!と叫ぶ者あり)
雑音はさておき、ベアトリス専横時代からアシュリーが兄弟と連携を密にして、母親へのクーデターを考えていたことは確かだ。
彼らは、父の創業と母の引き締めから得た利益を享受し、それを協調して引き継いだと言える。
○司会
クーデターとその後の政権はアシュリーが牛耳ったのでしょうか。
○教授
母に怯えるアシュリーを動かしたのは、姑と仲の悪かった妻と、兄弟をまとめていた姉のネラだったと言われる。
まあ、アシュリーは女の争いに右往左往していた感はある。
(笑い声と女を馬鹿にするな!の声あり)
しかし、母を排除した後のアシュリーの政権運営は堅実だった。
ライアン時代のような目立った人材抜擢はないものの、賢臣を確実に使い、佞臣を用いず、粛清もなくなり家臣は安心した。
激動の王朝成立期を終わらせて、次代以降の安定政権を築いたと評価できる。
○パッタイ氏(在野の歴史研究家)
私からは最近の研究成果を披露する。
その観点からは、アシュリー一世よりもネラ女辺境伯を評価したい。
ベアトリス女王の粛清は国政の不安定分子を排除したと思うが、末期に企てたネラとテッド姉弟の排斥は明らかに行き過ぎだ。
明晰だった頭脳も歳には勝てずに判断に衰えが見られる。
また、寵妃シャーリーへの嫉妬もあったのかもしれん。
ネラはベアトリスの動向を察知し、弟妹に連絡をとり、クーデターにこぎつけた。彼女こそがこの首謀者。
アシュリーが主役のように書かれているのは、その後の国王という立場を考えたのことだろう。
また、ライアンの指示で本来の本拠であるポトフ領を有し、ライアンとシャーリーの墓を祀り、氏の長者は辺境伯家が継いでいる。
王都での国王主催の国を挙げてのライアンの祭りの他に、辺境伯領の墓で一族だけの祀りが行われており、それを主催するのはネラの子孫だ。
これは私の新説だが、ポトフ王朝の秘密は王家と宗家の二枚看板だったのではないか。国王が専制したり、暗愚であれば、ポトフ家の宗家としてそれを引き摺り下ろす。表の権力の王家と裏の権力の辺境伯家が牽制と協力をして、政治に緊張感が保たれたと考えている。
それはライアンが考え、子供が実行したのだろう。だから国王こそアシュリーだが、一族の長はネラであり、彼女が睨みを効かせてきたからこその王朝初期の安定があったのだ。
○司会
いきなり驚くような新説が発表されました。
今日は当代のポトフ家当主の公爵様にも来てもらっています。4兄弟について一言よろしいですか。
○クリフォード・ポトフ公爵(ポトフ記念財団理事長)
公爵と言っても、特典もなく、称号と高い税金のかかる城を持っているだけだけどね。(苦笑)
私の血には4兄弟すべてが入っているから評価は難しいが、先ほどの話に出なかったテッド大公について述べたい。
国王のアシュリー、長女で美貌と強気で兄弟の音頭をとったネラ、帝国に輿入れし、周囲の冷たい目をものともせずに国母として思うがままに振る舞ったジュリア、彼らについてはよく聞くことがあるが、次男のテッド大公は目立たない。
しかし、兄弟の緩衝材となり、また旧敵国で火薬庫となりかねない共和国をうまく収めたその手腕はもっと評価されるべきだと思う。
○司会
テッドと言えば、母の血を引いて凄い美男で有名ですね。現代のテレビゲームでも抜群に美男に描かれて、若い女子からは大人気です。
ライアンが「オレに似てなくて良かったな」と冗談を言ったら、生涯で唯一、シャーリーが声を荒げて怒り、
「この子はれっきとした旦那様の子です!」
と叫んだという逸話が有名ですが、他に何かエピソードがありますか。
◯ナナリー(歴史好きアイドル)
私もテッドの大ファンです!
この国で一番のイケメンですよ!
誰の子でもいいですが、ライアンに似なくて良かったと歴オタ女子の総意です。
○ヤンクン教授
はっはっは。
ライアンが貞淑で名高いシャーリーを疑うはずもないが、彼女が真面目すぎたのだろう。
子供に厳しく当たることのなかったシャーリーが唯一テッドにだけは
「お父様の子供なのだから武勇に励みなさい」
と激しく訓練させていたという話もある。
むしろテッドは自分の美男ぶりを父に似ないと恥じていて、戦場では傷を恐れず先頭に立っていたと言われている。
また、彼は腹も座っているぞ。
彼の妻は粛清されたジャレビの娘で旧王家の血も引いていたために、ベアトリスから強く離縁を迫られたが、それを断り、妻を守り抜いた。
しかし、それもあって、ベアトリスは反乱を疑ったのかもしれんな。
ついでにそこの娘さんが好きそうな話をすると、テッドの結婚は妻の方が一目惚れして猛アタックしたようだ。
困ったテッドが父に任せると言うと、ライアンは娘の結婚を頼み込んだジャレビに対して、難攻不落の敵城を落としたら応じようと冗談を言ったそうだ。
するとその娘が男装して先頭に立ち、見事に落城させて嫁になったという言い伝えがある。本当とは思えないが、新婦からアプローチしたことは間違いない。
面白いことに母や姉で美貌に食傷していたテッドは平凡な容貌の妻に満足して、夫婦仲はよかったという。
◯ナナリー
その話は女の子ならみんな知ってます。
平凡な女の子でも努力次第で格好いい王子様と相思相愛になれるなんて素敵だわ。
○ロティ国会議員(ベアトリス党党首)
そこのあなた、格好いい王子様とか、そんなことを言ってるから女はダメと言われるのよ!
ちょっと私にも話させなさい!
座談会への招待、ありがとう。女性の立場から言わせてもらいたい。
(政治力を使って無理に参加してきたくせにとの声あり)
まずは、ベアトリス様の業績を認めて、きちんと女王として位置付けることが必要だ。
そもそもライアンの功績と言われているものの大半もベアトリス様の仕事だと我々は考えている。
男尊女卑の歴史家に改竄されたのだ!
(しかし実際に軍を率いて戦勝したのはライアンだぞとヤンクン教授が呟くが無視される)
4兄弟の話ではネラとジュリアはもっと高く評価されるべきだろう。
ネラについては先ほどパッタイ氏が述べたが、第一子であり、ベアトリス様からも可愛がられた彼女は親たちの王朝草創の苦労を一番知り、兄弟を束ねてポトフ王朝を守った。
また、女当主としてポトフ領を栄えさせたように治国の才もあった。
ジュリアは、夫の皇帝亡き後の後継戦争においてアシュリーの援軍を得て、反王国派の担ぐ王弟軍を破り、我が子を皇帝にしている。その後、後見として帝国の実権を握り、姉ネラの娘を我が子の嫁に迎えいれ、帝国=王国同盟を確固たるものとした手腕は素晴らしい。
総じて、ポトフ家は女が男より優れていたのだ、夫に隷属していたシャーリーを除いて。
それに鑑みれば政治はむしろ女性が担う方が良いというベアトリス党の主張の正しさがわかる。
(シャーリーこそすべての女が見習うべきだ、逆差別反対という観客席からの怒号あり)
○司会
政治的な発言はやめてください。
パッタイさん、4兄弟の関係は良好と考えて良かったのですか。
○バッタイ歴史研究家
基本的には良好だったが、個別には対立もあった。多くはアシュリーやテッドが折れる形で解決した。
例えば旧共和国の沿岸地域はテッドからネラに返還要求が出されているが、拒否されている。
ポトフ領の銀山は新たな製錬法で再び採掘量を増してきていたので、テッドは海岸地域を返して欲しいと言ったようだが、ネラは鉱山の全てを秘匿とした。
その後、テッドには財政支援をしているようだが、勇猛公と敵に恐れられたテッドも姉には勝てなかったようだ。
ネラはベアトリスに銀山の情報公開と財源拠出を迫られた時も、
「これはお父様が血と汗で築いた遺産であり、ポトフ領の為のもの。欲しければ膨大な血と汗を流す覚悟でかかって来なさい!」
と啖呵を切ったと言われている。
ジュリアは帝国が他国と争う時や飢饉の時には王国からの支援を要請し、それによって自らの立場を上げている。
アシュリーは妻の皇女からも頼まれていたのだろうが、妹の望みに応えてよく支援していた。
型破りな姉妹に比べて、アシュリーとテッドの関係が一番普通だろう。国王と大諸侯として、命令があれば討伐に赴き、兄弟たけどだからと甘えることもなく、適切な立場を保っていた。
時折、王宮にテッドを呼んで酒を飲んでいたようだが、父や母を偲んでいたのか、姉妹や妻の愚痴を言っていたのか。
夫婦仲は良かったが、アシュリーの妻は皇女の誇り高く、テッドの妻は嫉妬深いので有名な上に、一族を滅ぼされた恨みを持っていたようだからな。
先ほどの議員さんのご発言については、ポトフ家の女性が優れていたのもあるが、私は男が寛容に譲っている面が大きいと思う。
そう言えばネラの夫はライアンの親友サモサ伯爵の次男だが、ライアンが見込んだ通り優しい性格ですっかり尻に敷かれていたようだ。
ベアトリス党の皆さんもさぞや旦那さんを尻に敷いているのでしょう。私は女権論者の妻でなくてよかった。ハッハッハ
(揶揄されたと激怒したロティ議員がパッタイ氏に掴み掛かり、退場させられる。場内騒然となる)
○司会
みなさん、冷静にお願いします。
(小声で)
ポトフ家の人々にはそれぞれファンがついていて面倒臭いんだよ。
ポトフ公爵、その後のポトフ家についてまとめていただけますか。
○クリフォード・ポトフ公爵
みなさんご承知の通り、ポトフ家は王家と大公家と辺境伯家を御三家として続きました。
どこかの家の直系が絶えれば他の家から養子を迎え、始祖ライアンの血筋を途絶えさせることはなかったのです。
また、帝国とは時に協調し、時に対立するも、外敵にはともに盟友として戦い、その後もしばしば婚姻関係を結んでいます。
時代の流れとともに、王国は徐々に産業や商業が振興して、領主や騎士は没落し、大商人が台頭し、それと結んだ王宮の力が増しました。
時勢を見た御三家は話し合いを重ね、中央集権国家とする為に、大公と辺境伯は王家に領地を譲渡して宮廷貴族に転身し、それを見た領主貴族も後に続きました。
これは中興の名君と名高いライアン8世がシナリオを書いたと言われています。
同時に国王の権力を議会に一部を渡し、ブルジョア層を味方につけることに成功しました。
この時期に権力に固執した王室は革命で覆っているのを見ると、ポトフ王国が上手く時勢を乗り切ったことが伺えます。
更に資本主義と民主主義が進展してきて、帝国と王国それに諸国が合併したカイツの統一国家の実現が迫ると、その時の国王アシュリー3世は国内の権力を議会に、新たな王位は帝国皇帝に譲り、自らは公爵となって国王から退きました。
○教授
お話中、恐縮ですが、無血革命と言われているこの時に、ポトフ一族での話合いで、始祖ライアンの築いたものをみすみす明け渡すのかという強硬派を説得するために、ライアンの遺訓を見せたという話を聞きましたが、本当でしょうか?
○公爵
子孫のみしか見ることは許されていないのでお見せはできませんが、それは事実です。
始祖はいつか王権を失うことを覚悟し、惨めな最期とならないように時勢を見て自ら速やかに王位を退くことを遺されていました。
○教授
それはポトフ一族がポトフ領に帰ったことにも関係しますか?
○公爵
始祖は故郷を深く愛されていました。
辺境伯領であっても、そこは一族すべての故地です。王都を去れば故郷に帰るべしとはライアンが残した言葉です。
そしてポトフ領民も我らとともにあることを喜んでくれました。
我らはポトフ領で農業に、工業に、公職にと様々な分野で職についています。
◯バッタイ歴史研究家
待ってください。いくつかお聞きしたい。
ポトフ家は王位は去りましたが、その蓄えた財産でポトフ財閥を作り上げていますね。そしてポトフ地方では知事をはじめ、主要な地位を占め、王国とでもいうものを築いています。
そしてその後のカイツ帝国が外国との対立や内政の混乱で苦労したことを考えれば、沈みそうな舟をうまく逃げ出したというべきではありませんか。
また、御三家についてですが、私はあれほど父ライアンに愛された末娘ジュリアがあっさりと故郷を捨てたことが納得できなかった。
帝国史を調べると、ジュリアの産んだ末っ子が臣籍降下し、ボルシチ家を作り、その後、親ポトフ派として活動しています。
そして、そのボルシチ家はカイツ帝国樹立後はポトフ一族に合流しているのです。
実際にはポトフ四家というべきだったのではないですか。
◯公爵
歴史研究家というのは想像力が豊かですなあ。
私に言えるのは、始祖ライアンは全てを見通し、我々子孫に的確な遺言を遺してくれたということだけです。
国の為、故郷の為、一族の為に働けという始祖の教えに従い、ポトフ一族は活動しています。
○司会
公爵、ありがとうございました。
お話の通り、現在では貴族や市民としてポトフ一族は様々な分野で活躍されています。
約700年続いた王朝をあっさりと手放したことにも始祖ライアンの教えがあったことがよくわかりました。
ポトフ領から出てポトフ領に戻るというのは、故郷を愛したライアンの遺訓にふさわしいですね。
最後は4兄弟から話題が離れましたが、これで座談会を終えたいと思います。
みなさま、ありがとうございました。
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今度はテレビ番組風に演ってみましたが如何だったでしょう。
4兄弟を短めに書くつもりが、あちこちに飛んで、最後はライアンに戻ってしまいました。
これで本当に終わりです。
読んで頂き、ありがとうございました!
ポトフ伯爵の結婚の悲喜劇 @oka2258
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