コメディ小説【ショートストーリーズ】

なめがたしをみ

Episode.1 パイルバンカー・ノリオ

「パイルバンカー! おーぅぁぁぁしゅぅぅぅぅ!!」


ドビュシャアアアアッ!!


「俺の名前はパイルバンカー・ノリオ。今日も俺のパイルバンカーで、町の平和は守られた!」


決めポーズをしているノリオに、「懺悔」と書かれたキャップを被っているやび太が小走りで近づいてくる。


「ありがとう、ノリオくん!」


「あぁ、またボリジャンにいじめられたら、俺を呼べよな!」


「うん! 肉体は四散したけど、ボリジャンの魂が残ってる限り復活するんだよね!」


「そうだ。君の同級生のボリジャンは身体に永久機関を備えているからな」


「同級生なのにね! 普通の小学生なんだけどね!」


「では、またな!」


ノリオはやび太にそう告げると、パイルバンカーの勢いを利用して高々と空に舞い上がった。


「いつもありがとう! ノリオくーん!」


やび太の声に軽く手を振りながら、ノリオはドッカン公園を後にした。



「ふぅ、今日も疲れたな」


俺はノリオ、43歳、フリーターだ。普段はコンビニで夜勤の仕事をしながら、街にヴィランが出たらパイルバンカー・ノリオとして悪と戦っている。


「パイルバンカー・ノリオじゃあ一銭も稼げないからな」


「前にYouTuberになろうと動画を投稿してたけど、伸びなかったなぁ。合成とか言われたし」


「それにパイルバンカーで悪を倒すことを仕事にしようとしたが、役所で鼻で笑われて終わったし」


その瞬間、俺の部屋に荒々しいアラーム音が響いた。同時に、隣に住むやたら生活音に厳しいおっさんが「うるせぇぞ」と壁ドンッの合図を送ってきた。


「ヴィランかっ!」


俺は六畳一間のアパートのドアを蹴破り、現場に向かった。



先程までいたドッカン公園にたどり着くと、やび太が腰を抜かしているのが見えた。


「うわぁぁぁぁ!」


「またか、少年!」


「あ! ノリオくん! ヌメオが! 僕の同級生の中年全裸男性のヌメオが僕のギブソンのレスポールギターをかき鳴らして返してくれないんだ!」


「金持ちのボンボンなんだな、少年!」


「毎月のお小遣い5万だよ!」


「羨ましいぞ、少年! おいっ! ヌメオ! ギターを少年に返すんだ!」


「▲(なんか言ってる)」


「何言ってるかわからねぇ!」


「▲」


「めんどくせぇ! ぱぁいるばぁんかぁぁぁぁぁ!!」


「▲!!!!」


ノリオのパイルバンカーによりヌメオの存在がこの世から抹消された。だがヌメオはすぐに生まれ変わり、第二、第三のヌメオが現れるのは言うまでもない。


「ふぅ、大丈夫だったか、少年?」


「弁償」


「え?」


「なに、ヌメオと一緒にギターぶっ壊してんの?」


「だって、そんな細かいことパイルバンカーにはできないし」


「ノリオくんさぁ? 常識ってわかってる? 人のものを壊したら弁償、当たり前でしょ?」


「でも…」


「でもじゃないんだよ。弁償してよ。それとも今から親呼ぶ?」


「いや、親は勘弁して」


「じゃあ、いま現金で精算してよ」


「ぱ、」


「ん?」


ノリオのパイルバンカーがやび太に向けて最大出力で放たれた。大人だからといって子供に手を出さないとは限らないことを教えたかった。本音では事故に見せかけてこの問題を有耶無耶にしたかっただけだが。


「パイルバンカー! おーぅぁぁぁしゅぅぅぅぅ!!」


今までにないほどの手応えがノリオにはあった。完全にやび太を粉砕しているはずだ。ノリオの心に安心と信頼が生まれたのは人生でも初である。


だが、事態は急変した。


「なん、で?」


砂煙の中からやび太が無傷で現れたのだ。ノリオはパイルバンカーに不備があったのかと確認するが、何も異常は見られない。


「ノリオくんさぁ、それ、何回も見たことあるよ。同じ攻撃で僕を倒すつもりだったの?」


やび太が懺悔キャップを指で軽快に回しながらノリオを威圧していた。



次回予告ぅ!


かくして! パイルバンカー・ノリオはギターの弁償のために派遣の交通誘導を始めるのであった!


さぁて今日もパイルバンカーじゃんけんの時間だぞ!


最初はパイル! じゃんけんバンカー!


はいっ! お前の負けー!


次週は生放送5時間SPだ! 深夜2時からみんな見てくれよな!

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