何気ない朝

ごま油を引いたフライパン

何気ない朝

 朝、駅のホームで電車を待っていた祐一がポケットに手を差し込んだ。どうもスマホが震えているらしい。

 友人である加奈からの電話だ。

 同じ高校の同じクラス、そして同じ文芸部。どんな人にもある、ありきたりな接点からできた数少ない友達。

 そんな友達からの電話に出ないわけにもいかないというふうに思ったが、あいにくホームに電車が滑り込んできてしまった。というわけで彼は、チャットアプリに「電車降りたらかけなおす」と送って、いったん加奈の反応を窺ってみる。

 すると、電車のドアが開くよりも前にスマホの震えは収まり、メッセージが返ってきた。

「なら学校で話そう」

 てっきり、電話をしなければならないほどの急ぎの要件かと思ったが、そうでもないらしい。ほっと胸をなでおろした祐一だが、今度は自らがそわそわしてしまう。

 電話でなくても問題ない要件でありながら、なぜ電話をしてきたのか。そもそもどんな要件なのか。そんなことを考えてしまって止まらない。

 祐一がいる側とは反対側のドアが開き、車内の人が吐き出されたあっという間に車内が空になる。彼のいる駅は終点であり始点であるため、乗客がまるっと入れ替わるのだ。

[この電車は、七時二十分発、鎌倉行きです]

 朝にふさわしいさわやかなアナウンスとともに、祐一側のドアが開いた。

 電車に乗りながら祐一は思った。

 駅を出たら速足で学校に行こう。

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何気ない朝 ごま油を引いたフライパン @gomaabura_pan

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