第32話 従魔登録


 森から出て、帰りの草原でスラ君がスライムを狩ると、それを見ていたレオンが私の前を歩く。


『ミャー!』


 何かを見つけたレオンが走り出した――ああ、スライムを見つけたのね。


 レオンがスライムに齧りつき、スライムが破れてレオンの顔がビショビショになってしまい、前脚で顔を拭いている。


 ふふ、遊んでいるようにしか見えないんだけど、狩りの練習なのね。


 スラ君が、レオンが噛み千切ったスライムの残骸から魔核を持って来てくれた。


「スラ君、ありがとう」


 スラ君と私のやり取りを、レオンがジッと見ている。


「レオンおいで、綺麗にしようね」


『ミャ~』


 ふふ、鳴き声は可愛いネコみたいね。


 トテトテとこっちに来たレオンを抱き上げ『ウオッシュ』を掛けた。


『ゴロゴロ……』


 レオンを地面に下ろすと、エレナがキラーラビットをくわえて持って来た。いつの間に……。


「エレナ、ありがとう」


 キラーラビットを受け取ってエレナの頭を撫でると、エレナからも『ゴロゴロ……』と聞こえて来る。ゴロゴロと鳴かれたら嬉しいね。ふふ。


 エレナをテイムして戦力が増えたから、明日はもう少し森の奥に行こうかな。



 西門に戻って来ると、門の警備にオリバーさんがいた。


「ん? アスカ……そいつはワイルドキャットじゃないか! まさか……親子でテイムしたのか?」


「はい、怪我をしていたので親子でテイムしました」


「そうか、怪我をしていたのか……。しかし、ワイルドキャットを従魔にしている奴なんて見たことがないぞ。シルバーウルフならいるが……アスカ、直ぐにギルドで登録するんだぞ!」


 ……へえ~、シルバーウルフをテイムしている人もいるんだ。


「はい。オリバーさん、今から登録してきます」


 街の中に入ると、みんながジロジロ見て来る。中にはエレナを見て「ヒッ!」と声を上げて逃げる人もいて……エレナは大きいから怖がるのも仕方ないかな。


 レオンはキョロキョロして、どこかに走り出して行かないか心配になる。早く、エレナとレオンを登録して、従魔証明の首輪かアクセサリーを付けないとね。


 ◇

 冒険者ギルドに入ると視線を感じる……だけど、登録してないエレナとレオンを、ギルドの外で待たせる訳にはいかないからね。


 エレナも視線を感じていると思うけど、唸ったりしないのよ。エレナは賢いね。頭を撫でよう。


「エレナ、大人しくしてくれてありがとうね」


『ゴロゴロ……』


 ふふ、エレナにゴロゴロ鳴かれるたびに、少し仲良くなれたんじゃないかと嬉しくなる。


 レオンは相変わらずキョロキョロしているね。


「レオン、エレナから離れたらダメよ」


『ミャ~』


 レオンが返事をしてくれるけど、私の言葉を理解しているのかな?


【難しい言葉は理解できませんが、簡単な言葉ならレオンで80%程、エレナはほぼ100%理解しています】


 ――ワイルドキャットは賢いのね~。なるべく簡単な言葉を使うようにしよう。そう言えば、スラ君も最初から私の言葉を理解していたな。


 受付カウンターに座っていた20歳くらいの女性の職員さんに、エレナとレオンの従魔登録をしたいって言ったら様子がおかしくなった。


「えっ! ワイルドキャットを従魔にするんですか!? その毛皮、珍しいから高く売れるんですよ? 本当に従魔にするんですか?」 


 ……何この子。私のエレナを見て、毛皮になんて事を言うから睨んだわ!


「ええっ~! 子供のワイルドキャット……!? 何この子、可愛い~~!!」


 お前……レオンを見て毛皮とか言いやがったらキレたわ! ただじゃ……あっ、精神が若返るって怖いわね……。


 ――ビーさん、セーフよね?


【アスカ、口に出して言わなければ問題ありません】


 ――良かった。少し落ち着かないとね。数字でも数えようかな、1……2、3。


「あの……、私のなので、! お願いします……」


「えっ……あっ、はい、すみません……」


 私、『威圧』のスキルは持っていないのに、女性の職員が少し怖がっているように見える……まあ、謝罪は受け取るわ。


 無事に登録を終えて、従魔証明の赤い首輪を買った――目立つようにね。


「これで登録完了です。従魔には人間を攻撃しないように言い聞かせて下さい。従魔が人に怪我をさせたり物を壊したりした場合、全て飼い主の責任になります。ただし、先に人間から攻撃された場合は、やり返すことを許可されています」


 へえ~、そうなのね。この前はスラ君だったからか、こんな説明はなかったな。そうだ、この職員の前で言っておこう。


「分かりました。エレナ、レオン、人間を攻撃したらダメよ。向こうから先に攻撃して来たらやり返して良いんだって、分かったかな?」


『ガルル』

『ミャ~!』


 エレナとレオンが、私を見て頭をこすりつけるから踏ん張る……レオン、頭突きをして痛くないの?


【ワイルドキャットには、この程度の頭突きは痛くもかゆくもないのでしょう】


 ……そうなんだ。


「えっ、まさか……ワイルドキャットが返事をしたの……? 賢いのね……」


 ――ええ、うちの子は賢いのよ。ふふ。


 次は買取りカウンターの部屋に行かないとね。



 ◇

 ガタッ!


「なっ、ワイルドキャットだと……アスカ、どういうことだ?」


 部屋に入ると、買取りカウンターの奥で座っていたベールズさんが、いきなり立ち上がって腕を組んだ。


 ――眉間みけんにしわを寄せているけど怒っているの? 前にベールズさんも「強い魔物をテイムしろ」って言ってたじゃない。


【ワイルドキャットは森の奥にいる魔物で、簡単に従魔に出来る魔物ではなく、ベールズは怒ると言うより驚いているのでしょう】


 ――そっか。ベアの魔核を出したら、色々と聞かれるから先に話しておこう。


「えっと……森でエレナ、このワイルドキャットが子供を守りながらベアと戦っていたんです。それを見て、ワイルドキャットに加勢かせいしてベアを倒しました。で、ワイルドキャットの親子をテイムしたんです」


 怪我をしたエレナに『回復魔法』を掛けたことは言わないで簡潔に。


 ベアはワイルドキャットの獲物だったから、魔核だけもらって食べてもらったと正直に答えた。


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