第31話 新しい仲間

「……決めた。お母さんのワイルドキャット、あなたは可愛い名前より綺麗な名前の方が似合いそうだから、エレナ。どうかな?」


 英語で、"優雅な・上品な"って意味の"エレガント"からイメージしたんだけど……。


『……ゴロゴロ』


 気に入ってくれたみたいで、エレナは喉を鳴らしながら頭をこすりつけて来た。


 ――うっ!


 エレナの力が強くて後ろに倒れそうになるのを、片足を一歩下げて踏ん張る。


 エレナは大きいだけあって力が強いのね。うわっ~、頭を撫でるとフワフワよ~。ふふ。


「子供の君はレオン。男の子だから、百獣の王ライオンのように強くなるように――どうかな?」


 "レオン"という名前には、どこかの国の言葉で"ライオン"の意味があったはず。


『ミャ~!』


 レオンも気に入ってくれたみたいで、嬉しそうに私の足に体を擦りつけて……違う、頭突ずつきをしてくる。ふふ。


 そして、私の左足の上に前脚を乗せて……え、後ろ脚も乗せようとしているの? それは難しいと思うよ。


「ねぇ、レオン……それは何をしようとしているのかな?」


【ネコ科の動物や魔物は、遊びたい時や構って欲しい時だけ、絡んだり邪魔したりしてきます】


 ……何それ、可愛いんだけど。


 座ってレオンのフワフワの頭を撫でると、足を全部乗せるのをあきらめて、目を細めて喉を鳴らしはじめた。


『ゴロゴロ……』


「ふふ。エレナ、レオン、これからよろしくね。じゃあ、スラ君を紹介するね」


 スラ君を紹介して、みんな仲良くしてねとお願いする。


 スラ君がプルルンと返事をして、背伸びをして左右に揺れると、エレナとレオンがスラ君に鼻を付けてペロンと舐めた。


 すると、舐められたスラ君がプルプルと小刻みに震えて、レオンの目がキラキラと大きくなって、前脚をスラ君に掛けようとする。


「あっ、レオン、爪を立ててスラ君を捕まえようとしないでね。スラ君が怪我しちゃうから」


『ミャ~!』


 レオンが『分かった~!』とでも言うように私を見て返事をする。ふふ。


 そうだ、ベアを……ギルドの買取りカウンターに持って行ったら、ベールズさんに何か言われそうね。毛皮はボロボロだし……。


 ――そうだ、ビーさん。ベアをスラ君とエレナに食べてもらったら、ステータスは上がるかな?


【エレナは分かりませんが、スラ君は何かしらのステータスは上がるでしょう】


 ――よし! 食べてもらおう。


 スラ君とエレナに、ベアを仲良く食べてと言ったらレオンも一緒になって食べている。レオンはもう母乳じゃないのね。


 あ……ギルドでベアの魔核を出したら、ベールズさんに本体のベアはどうしたって聞かれるよね……うん、絶対に聞かれる!


 今日、魔核を出さなくても、後日出した時に聞かれるよね……どっちにしても聞かれるなら今日出そうか。


 エレナとレオンを従魔登録しないといけないし……ベアは元々エレナの獲物だったから、素直に食べさせたって答えよう。


 それよりも……ローザさんの宿でエレナたちも泊めてもらえるかな?


【フォレストウルフをテイムする者や、スレイプニルと言う魔物の馬を扱う商人もいるので、冒険者ギルドに紹介された宿なら大丈夫でしょう。大きな従魔の場合は、馬小屋で世話をされます】


 ――それなら大丈夫そうね。


 スラ君たちがベアを食べている間に、私も昼ご飯を食べてしまおうと、インベントリに入れてあるホットドッグと水を取り出した。


 ……ベアを食べるスラ君とエレナを見ながら食事なんて、シュールな光景よね。


 魔物を狩るのに慣れてしまったのか、ベアに齧り付くエレナやレオンに「うっ、吐きそう……」ってならないのが不思議。




 食事が終わって、エレナたちと一緒に狩りを始めようとしたら、初めての魔物ボアが出て来た。


 焦げ茶色の大きな猪で――エレナよりは一回り小さいけど、イボイノシシみたいに下の牙が上に突き出している。


 ボアに魔法を撃とうとしたら、先にスラ君が『水魔法』を撃って、エレナが前脚の鋭い爪で引っいて倒してしまった……私の出番はなし。


 いつもは私が魔法を撃ってからスラ君が攻撃するのに、スラ君にとってボアはポイズンスパイダーと同じ扱いなのかな? それともエレナがいるから?


【エレナがいるからでしょう。自分の攻撃力を、エレナに教えたかったのかも知れません】


 ――それはマウント……違う。スラ君はそんなことしないから、自分も戦力になるって言いたかったのかもね。


「スラ君、ボアはギルドで解体してもらうから、魔核を取り出さなくていいよ」


 スラ君に声を掛けてからボアをインベントリに入れる。ボアは、魔核1,000ルギ・ボア肉が3,000ルギ・牙が1,000ルギで買い取ってもらえるの。


 ん~、これからの事を考えたら、エレナとレオン用の餌をインベントリにキープしておいた方がいいよね。狩りに行く日はいいけど、休む日もあるからね。


 ――ビーさん、ワイルドキャットは何を食べるの?


【ワイルドキャットは生肉を食べます。1日に、フォレストウルフのサイズだと1体、ラットやキラーラビットなら2体分の肉があれば足りるでしょう。今日は先程のベアで十分です】


 ――分かった、ありがとう。


 今まで、ラットはスラ君に食べてもらっていたけど、エレナたち用にインベントリに2体ほどキープしよう。フォレストウルフも1~2体、買取りに出さないでおこうかな。


 その後も、魔物が出て来たらスラ君とエレナで倒してしまう。


 私が狩りに参加するのは3体組のゴブリンとフォレストウルフ、後はキラービーだけで……これで良いのかと思ってしまう。


 レオンはと言うと、私の後ろに隠れるようにジッとしているのよ。耳をピン! と立てて、顔だけ出して見ている様子が可愛くてたまらない。ふふ。


「スラ君、エレナ、レオン、街に戻るよ」


 いつもより早いけど、エレナとレオンを従魔登録しないといけないからね。



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