第30話 魔物同士の争い
【――アスカ、魔物のベアとワイルドキャットが戦っているようです。ここは森に入って直ぐの場所なので、縄張り争いではなく、スタンピードの影響で森の奥から出て来たのだと思われます】
――スタンピードの後処理で、シルバー(銀)ランクの冒険者たちが、森の中に残っている魔物を狩りに行ったって誰かが話していたのを聞いたけど、運よく狩られなかったのね。
ベアとワイルドキャット……ちょっと見てみたいけど。ビーさん、2体が戦っている間に逃げた方がいい?
【ベアは、アスカの『風魔法B』とスラ君の『水魔法』で倒せます。ワイルドキャットでしたら『風魔法B』だけで倒せます】
――えっ、私でも倒せるの?
【はい。倒せますし、アスカなら両方テイムも出来ます】
――テイム! そっか、倒すのが無理そうな強い魔物はテイムすればいいのね。
でも、今は怖い物見たさというか、ちょっと見てみたいだけなのよ。
「スラ君、ベアとワイルドキャットが戦っているんだって、ちょっと覗いてみるね」
スラ君を抱き上げて、音を立てないように気をつけて声の方に向かう。
木の陰から隠れて見ると……
『ゴアーーー!』
ベアは、動物園にいるヒグマみたいな熊で、大きくて丸々と太っている。うわぁ……森の奥に行ったらアレが出て来るのね……。
『ガルルル……』
向かい側にいるのが……ワイルドキャットね。ワイルドキャットって、野生のネコ・山猫だと思っていたけど、ライオンくらい大きくて山猫には見えない。
茶色いヒョウ柄だからトラじゃなくて、ヒョウやジャガー……違うな、前脚が太くて毛並みがフワフワだから大きなユキヒョウみたいね。
よく見たら、ワイルドキャットが傷だらけ……。
『ガガアァーー!!』
ワイルドキャットが、牙を
『グガッ……』
『ゴアーー!』
ベアが地面に叩きつけたワイルドキャットを威嚇する。
……私にでも、力の差が
『ガッハッ、ガアアアーー!!』
傷だらけのワイルドキャットは立ち上がって、ベアに向かって
【ワイルドキャットは、後ろの茂みにいる子供を守ろうとしているようです】
――えっ、
ビーさんに言われてワイルドキャットの後ろを見ると、草陰に小さなワイルドキャットの顔が見える……あのワイルドキャットは母親なのね。子供を連れては……逃げられないか。
『ゴアアアー!』
あっ! ベアがワイルドキャットの首に噛みついて、左右に振り回して放り投げた。
『ギャン! グガッ……』
勢いよく投げられたワイルドキャットは、地面を転がって……立ち上がろうとするけど、起き上がれない……。
そこに小さなワイルドキャットが草陰から出て来るのが見えた――えっ、出て来たらダメじゃない! 隠れてないと!
小さなワイルドキャットが、お母さんのワイルドキャットにすり寄って頭をこすりつけている……うぅ、野生の世界は弱肉強食で……、
『ミィ~』
も~う! このままだと子供まで……助けないと!
「スラ君、あのベアを倒すよ!」
スラ君がプルルンと返事をすると、腕からピョンと飛び出して草の間を
ベアとの距離は……大丈夫、魔法は届く。
木から体を出してベアに手を向ける――行け『風魔法B』!
ヒューー、シュルルルッー! ボワァァーー!!
竜巻がベアを囲い込んで、無数の刃がベアを攻撃する。
『ゴガッ!? ゴォガガーー!!』
竜巻が霧散すると同時に、スラ君の水の刃がベアに襲いかかる。
タプン! ヒュッー、シュババッー!
スラ君のタイミングが……上手いね。
『グガッー……』
ドサッ!
ベアが前のめりに倒れた。
……ビーさん、魔法をもう1発撃った方がいいかな?
バッコーン!
スラ君の必殺パンチの音が響き、ビーさんの文字が見えた。
【――もう必要ないです】
……はい。スラ君が止めを刺してくれたのね。
木から出てベアに近付くと、背伸びをして様子を見ていたスラ君が、スルスルとベアに乗って魔核のある辺りを包みだした。
スラ君は、相手がベアでも自分の仕事をこなしていく――頼もしいんですけど!
ずっとベアを睨んでいたワイルドキャットが、息も絶え絶えに……私に視線を移した。
『ガルル……。ハァ……、ハァ……』
母親のワイルドキャットが苦しそうに息をして、子供のワイルドキャットが『ミャ~、ミャ~』と母親のワイルドキャットの顔を舐めている。
……動けないワイルドキャットを狩るのは……子供がいるから、なしね。
でも、ワイルドキャットの怪我を治したら私が襲われそうね――ビーさん、治すならテイムしてからかな?
【はい。ワイルドキャットから見ると、人間は餌にしか見えないので、テイムする方が安全です】
……私が餌。近寄ると噛みつかれそうだからここからテイムするね。
「テイム……」
ワイルドキャットに手を
鋭い視線のワイルドキャットが、キョトンとした目で私を見る。
『ハァ……、ハァ……?』
『~?』
子供のワイルドキャットまで私を見て首をかしげる。
――あれ? もしかして、母親と一緒に子供のワイルドキャットもテイムしたの?
【アスカはワイルドキャットをテイムすると考えていましたが、"母親のワイルドキャット"と特定せずに『テイム魔法』を使ったので、両方テイムしました】
……えっ、同時に何体もテイム出来るの? あ~、レベルが『テイム魔法A』だから範囲魔法でテイム出来るのね?
【そうです。魔物を特定しなければ、アスカの視線が注がれている範囲にいる、同種の魔物をテイム出来ます】
……以後気をつけます。ビーさん、ワイルドキャットをちゃんとテイム出来ているか『鑑定』してみて。
【アスカ、テイムされています】
―――――――――――――――――――――――――――
名前 ―― [ワイルドキャット(雌)C・アスカの従魔]
HP 5/208
MP 3/21
・攻撃力C ・防御力C ・精神力B ・敏捷性B
スキル
・
―――――――――――――――――――――――――――
名前 ―― [ワイルドキャット(幼体・雄)F・アスカの従魔]
HP 9/10
MP 5/5
・攻撃力F ・防御力F ・精神力E ・敏捷性F
スキル
・跳躍 ・風魔法
―――――――――――――――――――――――――――
ちゃんと[アスカの従魔]になっている。うわっ、お母さんワイルドキャットのHPが! やばい!
「ワイルドキャットのお母さん、直ぐに怪我を治すね!」
急いで手を向けて『回復魔法』を掛けると、淡い光がお母さんワイルドキャットの体を包んで消えていく。
――ビーさん、お母さんワイルドキャットのHPは回復した?
【はい。MAXに回復しています】
――良かった。
『ガルル……?』
倒れていたワイルドキャットがゆっくりと立ち上がった。
『ミャ、ミャ~!』
子供のワイルドキャットが、嬉しそうにお母さんワイルドキャットの脚に絡み付いている。ふふ、良かったね。
お母さんワイルドキャットが近付いて来て、私の匂いを
『ガルル……』
近くで見ると大きくてカッコイイね。動物は好きなんだけど、大きいから少し怖い……大丈夫かな?
【大丈夫です。アスカを襲うことはありません】
――分かった。
ビーさんの言葉(文字)に頷いて、手を伸ばして匂いを嗅いでもらう。
子供のワイルドキャットもトテトテとこっちに来て、私の足を嗅いでいる。
テイムされたのが嫌そうだったら――ビーさん、テイムした魔物の『解除』って出来る?
【はい、出来ます】
スラ君がベアの魔核を持って来てくれた。私の肩まで登って、背伸びをしてゆっくり揺れながらワイルドキャットの親子を見ている。ふふ。
「ワイルドキャットのお母さん……怪我を治す為にあなたをテイムしたんだけど、このまま仲間になって一緒に魔物狩りを手伝ってくれるかな?」
『ガルルル! ゴロゴロ……』
お母さんワイルドキャットが、
ワイルドキャットの舌はザラッとしていて、ネコと同じだった。うん、ゴロゴロ鳴く所も……かなり大きいけどネコと同じね。喉を撫でておこう。ふふ。
『ミャ~! ゴロ、ゴロゴロ……』
子供のワイルドキャットも返事をしてくれたのか、後ろ足で立ち上がって、前脚で私の手を
見た目は子猫なんだけど、子猫って言うには少し大きいのよ。ポメラニアンやトイプードルくらいあるからね。
そうだ、名前を考えないとね……。
――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
読んで頂いてありがとうございます。
本日より、(読み直しが間に合わず……)1日1話の投稿になります。
完結するまで毎日(不定期で午前中か夜になります)投稿したいと思っていますので、よろしくお願いします。
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