第2章

第29話 丘から森へ

 ◇◇◇

 丘での狩りにも慣れてきて、たま~に現れるキラーアントを『風魔法C』2発とスラ君の攻撃で倒せるようになった。首の関節部分を狙うといいみたい。


 スタンピードの後処理が終わってから、丘には冒険者パーティーが増えて魔物の数が狩れなくなってきたの……ここって人気の狩り場だったみたい。


 今も、少し離れた所で冒険者パーティーがリザードを狩っているのが見えたから、離れようとしたら誰かが手を振って近付いて来た。


「やっぱり、アスカさんだ! こんにちは~!」


 あっ、救護テントで手伝いをしていたポニーテールの女の子だ。


「……メル。メルのパーティーだったのね」


「はい。私達、いつもは森で狩りをしているんですけど、スタンピードの手伝いを評価されて……ギルド長のベールズさんから、キラーアントの魔核を10個取って来たら冒険者ランクをブロンズ(銅)に上げるって言われたんです」


「そうなの。えっ……? 買取りカウンターにいるベールズさんはギルド長なの?」


 普通、ギルド長って執務室とかにいて、滅多に人前に出て来ないんじゃないの?


【――それは人によります。有能な秘書がいれば、ギルド長が買取りカウンターにいても問題ないと思われます。それに、彼が1日中ずっと買取りカウンターにいるとも限りません】


 ――そっか、午前中はギルド長の仕事をして、午後からは気分転換に買取りカウンターに座っているのかもね。


「はい、そうなんですよ。ふふ、アスカさんもベールズさんがギルド長だって知らなかったんですね? 誰もベールズさんをギルド長って呼ばないから分からないですよね~」


 メルも最近知ったと言う。なんでも、ベールズさんがギルド長と呼ぶなとギルド職員や冒険者たちに言ってあるとか。


 ……そう言えば、スタンピードの時、ベールズさんがギルドの受付で仕切っていたな。


「もしかして……アスカさんは、受付にいるデリクさんが副ギルド長ってことも知らないんじゃないですか?」


「ええっ、デリクさんが!? 知らない……。何で偉い人がそろってカウンターにいるのよ……」


 メルが「そうですよね~!」って、クスクス笑う。


 ……何かたくらんでいるのかしら?


【実際に冒険者たちと接して、ランク上げの評価をしているのかも知れません】


 ――あぁ! なるほどね~。冒険者が受けている依頼内容や、倒した魔物の状態で実力がどの程度か分かるものね。


「メル、冒険者ランクがブロンズ(銅)に上がるのね。おめでとう!」


「ふふ、アスカさん、ありがとうございます。でも、他にもキラーアント狙いのパーティーがいるから、まだまだ時間が掛かりそうです」


 普通、アイアン(鉄)の冒険者が、ブロンズ(銅)に上がるには1年くらい掛かるらしく、メルたちはスタンピードの貢献度が評価されて、思っていたより早くランクアップ出来ると言う。


「そうなのね。メル、頑張ってね」


「はい、頑張ります! じゃあアスカさん、また~!」


 メルがパーティーメンバーの元へ戻って行った。


 ……他にも評価された冒険者パーティーがいそうね。メルたちと同じでランク上げの条件にキラーアント狩りを言われて……獲物の取り合いにはなるけど、狩り場の危険度は下がるからね。


 あぁ、だから冒険者が多いのね。


 街に戻ったら、ギルドで他の狩り場を調べよう。



 ◇◇◇

 それで、昨日から街の西にある森に来ているの。と言っても、森の奥じゃなく草原が見える辺りでね。


 昨日、森に入って初めて見る魔物――キラービー・ポイズンスネイク・ポイズンスパイダーを狩って、スキルポイントがやっと10P貯まったの。


 ……ブーーン。


 あっ! キラービーだ! 羽音が大きいから直ぐに分かる。


 キラービーはスズメバチみたいな蜂で、サイズはすずめより大きいのよ。お尻の針には弱い毒を持っていて、刺されると腫れるんだって。昨日、初めて見た時は驚いて、後ずさりしたけど『風魔法D』で簡単に倒せた。


 音がしたら即、魔法で倒して魔核(300ルギ)を回収。売れるのは魔核だけなのよね。


 魔物を倒すのが私の仕事で、マイペースで仕事をさせてもらえているから文句を言ったらダメなんだけど……あの羽音が苦手なのよね。


 ポイズンスネイクは、丘にいたスネイクと同じくらいの大きさの黒蛇で、お腹の部分が赤いから「あ~、絶対に毒蛇ね」ってつぶやいてしまったわ。


 ギルドの資料には、スネイクより強いみたいに書かれていたけど、私の『風魔法D』とスラ君の攻撃で問題なく倒せた。


 これも魔核しか売れないんだけど、スネイクより高く買い取ってくれる。


 ポイズンスパイダーは、体長40㎝位ある大きな赤い蜘蛛で、噛みつかれると毒になるけど、資料に『回復魔法D』で治せるって書いてあった。


 これも魔核しか売れないけど、倒すのはスラ君なの。


 スラ君がポイズンスパイダー見つけたら飛びついて……モゾモゾしたと思ったら魔核を私に差し出し、そのままポイズンスパイダーを吸収しているのよ。


 ――スラ君が倒した魔物の経験値も私に入るから、スラ君の好きにさせていたんだけど、スラ君が毒持ちの魔物を食べるのが気になって、ビーさんに聞いたの。



 ◇  ◇  ◇

 ――ビーさん、スラ君に毒持ちの魔物を食べさせても大丈夫?


【アスカ、問題ありません。魔物が持つ毒も魔素から出来ていて、スライムは魔素で出来たものは何でも吸収します。気になるのでしたら、魔物の死骸をそのまま放置しても問題ありません】


 森の中なら他の魔物やスライムが食べてくれるんだって。


【ですが、強い魔物の死骸を放置するのはお勧めしません。その魔物を食べた魔物が強くなる可能性があります】


 ――あぁ、スラ君みたいにレベルが上がるのね。気を付けます。


 ◇  ◇  ◇

 昨日、ビーさんとこんな会話をした後、倒した魔物の半分近くが売れない魔物で、スラ君に「お腹いっぱいなら食べなくてもいいよ」って言ったんだけど、スラ君は全部綺麗に食べてしまった。


 ……魔素や魔力って見えないから分からないけど、スラ君の体の中でどれだけ圧縮されているんだろうと思う。


 そして今朝、ビーさんにスラ君のステータスを見てもらったら、スキルが増えていたの。

――――――――――――――――――

名前 スラ君 [スライムD・アスカの従魔]

HP 43/43→44/44

MP 61/61→63/63

・攻撃力D→C ・防御力C ・精神力C ・敏捷性D

スキル

・水耐性 ・水魔法 ・突進 ・毒耐性―New

――――――――――――――――――


 攻撃力がCに上がったのも嬉しいけど、そう、毒耐性のスキルが増えたのよ!


 スライムは毒を吸収出来るってビーさんから聞いていたけど、このスキルを覚えたのは何故? って、考えていたらビーさんが答えてくれた。


【交戦中に毒攻撃を受けた場合、毒を吸収するわずかな時間でも動きがにぶくなることがなくなりますし、猛毒を持つ魔物も通常の時間で吸収できるでしょう】


 ……え、スラ君に猛毒なんて食べさせたくないけど。



 そう朝は思ったけど、もしかしたら他にスキルを思えるかも知れないから、スラ君の好きにさせることにした。


 後、森にはゴブリンとフォレストウルフが2~3体で出て来るけど、出くわすとスラ君が強くなったのがよく分かる。


「スラ君、フォレストウルフよ。2体いるからスラ君は左のフォレストウルフをお願いね。私は右、行くよ!」


 スラ君は『水魔法』を撃った後、フォレストウルフに素早く近付いて――


 バッコーン!


 パンチで倒してしまうのよ。体当たりする時もあるけどね。


 スラ君の『水魔法』は『C』以上の威力があると思う。だって、ゴブリンを『水魔法』1発で倒してしまうのよ。


 スラ君が1体引き受けてくれるから、私は残りの1体か2体に『風魔法C』を連発して倒している。昨日でだいぶコツをつかめた。


「スラ君だけで、フォレストウルフを倒せるなんて凄いね~」


 スラ君が背伸びをして、クネクネしながら左右に揺れている。ふふ、可愛いね。褒められて嬉しそうに見えるんだけど。


『ガアアーー!!』


『ゴアーーー!』


 えっ、魔物の咆哮ほうこうが聞こえる……魔物同士で戦っている? 縄張り争いをしているのかな? 近いね……。


【この声は――】




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