第28話 教会②

 魔物を狩る為にこの世界に来たと言われたら、その通りだけど……。


「フラン司祭様、私は……神様に魔物を倒すよう言われたので、自分なりに魔物を狩ろうとは思っていますが、無理をしないで過ごせたらいいなって思っています」


 "のんびり"とか言ったら怒られそうね。


「えっ、アスカさん! 神と言葉をわしたのですか!?」


「え? あぁ、違います。交わしたんじゃなくて、神様の言葉を聞いただけです」


 あの場では声が出なくて、ただ神様の声を聞いていただけ。


 フラン司祭様が一歩近づいて「何と! アスカさん、神の声を聞いたのですか!?」と言った後、「素晴らしいですね……」とブツブツと独り言を言いはじめた。


 スラ君が少し背伸びして司祭様の方に体を傾け、じっと様子をうかがっている。


 ――ビーさん、スラ君は私以外の人が話していることも理解出来るのかな?


【今の――レベルDのスラ君では、アスカ以外の人間の言葉はほとんどど理解出来ないでしょう。ですが、アスカや自分に向ける敵意の有無は、ある程度の範囲で感知出来るようです】


 ――敵意を……あぁ、キラーアントの時に教えてくれたあれね?


【そうです】


「……アスカさんに、神の話された御言葉を聞いてもいいのでしょうか? 見習いの頃から、<渡り人>が助けを求めない限り……そっと見守るように言われて来ましたが、聞きたい……神の話された御言葉を!」


 まだブツブツ言っている。フラン司祭様ってこんなキャラだったのね……ちょっと面倒かも。聞こえてないフリをしようかな?


【問題ありません】


 ――ビーさんからOKが出たら安心ね。


「そうだ! アスカさん。折角せっかく来られたのですから、教会のことを話してもいいですか?」


 急に思い出したように言うフラン司祭様に、「お願いします」と頷くと、教会についていろいろ教えてくれた。


 教会では毎月、月初めに祭儀さいぎがあって、創造神アリラートス様への感謝の祈りが行われているそう。


 ――前にビーサンから聞いたけど、この世界の1年は日本と同じ1月から12月まであって、1ヶ月は30日なんだけど曜日がなく、1月の1日とか10日って言うんだって。因みに、今は5月だそうで、日本と変わらない感じかな。


「祭儀の後は炊き出しを振舞っていまして、その時に使う野菜を、隣の孤児院の子供たちが作っているんですよ」


「へえ~、もしかして教会が孤児院を運営しているんですか?」


「はい、そうです。街を治める領主や貴族から寄付を頂いて、教会が孤児院を運営しています。今、ここの孤児院には5人の孤児がいますが、2人のシスターが子供たちのお世話をしています」


 フラン司祭様と救護テントにいた若い司祭様が、孤児たちに勉強を教えているそう。


 教会のシスターや司祭様が育てるからか、孤児の中には『回復魔法』や『聖魔法』のスキルを覚える子供がいて、そのまま教会で治癒士や見習いの司祭になる子がいるとか。


『回復魔法』のスキルを持つ子供は毎年いるけど、『聖魔法』を持つ子供は少なくて、この国では数年に1人か2人現れるかどうからしい。


「スキル『聖魔法』を持つ者しか司祭にはなれないのですが、その殆どが孤児の中から現れるんです……アスカさん、神の慈悲じひだと思いませんか?」


「孤児の中に……」


 教会が孤児を大事に育てているなら、シスターや司祭様の役に立ちたいって思う子供がいるんだと思う。その子の願いが――あの神様に届くのかもね。


「じゃあ、女の子でも『聖魔法』を持っていたら司祭様になれるんですか?」


「はい、勿論です。司祭の半分ほどは女性ですよ。フフ」


 へえ~、女性の司祭様なんて珍しいよね。『聖魔法』を持つ女の子は……小説やマンガでは聖女って書かれているからね。


 それじゃあ、私でも司祭様になれるのかしら?


【なれますが、魔物狩りが出来なくなります】


 ――それはダメね。神様に魔物を倒すように言われているから。


「フラン司祭様、お話を聞かせていただいてありがとうございます」


「いえいえ、アスカさんに教会のことを知って貰いたくて、私ばかりが話をしてしまいました」


 フラン司祭様に「アスカさん、いつでも教会に来て下さい」と輝く笑顔で見送られ、教会を後にした。


 ◇

 スラ君をショルダーバッグに入れて中央にある公園に向かう。


 ローザさんに教えてもらったケーキ屋さんを見つけて、2階のカフェでフルーツケーキと紅茶のセットを頼んだ。


 これが1番安いセットで1,300ルギもするのよ。今の私には贅沢で、気軽には来られないわね。


 それにしても、フラン司祭様に「こちらの世界には慣れましたか?」って言われて、<渡り人>の話をされた時は焦ったけど、何もなくて良かった~。


 ……フラン司祭様、神様のことを話す時は嬉しそうで目がウルウルしていたな。ふふ、神様が大好きなのね。


 出て来たケーキは、普通のショートケーキの形をしていて、カットされた数種類の果物がケーキの上とスポンジの間に挟まっている。ちょっと大きいけどね。


 どうカットしようか悩んで、中心と縁側ふちがわとにカットした。スラ君に縁側を食べてもらって、私は中心の三角をフォークで切って口に入れた。


 ……うん、日本で食べるケーキと同じよ。生クリームが少し重めだけど、美味しい。


「スラ君、美味しいね。ふふ」


 スラ君がバッグから顔を出してプルルンと返事をしてくれる。


 ケーキを食べ終わってお会計を済ませる。財布の貨幣を数えたら――所持金は112,530ルギ。明日から頑張ろう~!



 ◇◇

 翌朝、毎朝ステータスを見るようにしているんだけど、昨日は狩りをしていないのにスキルポイントが2Pも増えていた――なぜ!?


 驚いてビーさんに聞いたら、


【データに詳しく記されていませんが、魔物を倒す以外に、行動でもらえるスキルポイントがあるようです。教会に行き、祈りを捧げたのでポイントが入った可能性があります】


 ――そう言えば、神様も狩り以外でポイントがもらえることがあるって言っていたような……寄付をしたから?


【初めて教会で祈りを捧げる+1Pと初めて寄付をするで+1P、もしくは初めての寄付で+2Pの可能性もあります】


 ――そうね、寄付をした後に水晶がキラキラしたものね。


 じゃあ、次からは……2回目以降だから、寄付してもスキルポイントはもらえなくて、水晶もキラキラしないのね。






――――――――――――――

【あとがき】

読んで頂いてありがとうございます。


この28話で第1章終了になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る