第37話 テントを買って森へ

 この体は28歳らしいけど、28歳だと言ったら詐欺なんじゃないかと思う……。まぁ、女性に年齢を聞くような失礼な人には、28歳だと言っても問題ないか。


〖アスカ、何度も言いますが、問題ありません〗


 ――ふふ、ありがとう。それよりビーさん、結界の張り方を教えて。今、ここで練習できるかな?


〖はい、出来ます。アスカ、「『聖魔法』で結界」と思えば発動し、慣れたら「結界」だけで使えるでしょう』


 ――えっ、そんなに簡単なの?


『はい、簡単です。結界の大きさは『聖魔法C』の場合、半径1メートルから最大5メートル程の結界が張れて、消費MPは1~5になります〗


 ――分かった。じゃあ、試してみる。私が入るくらいだと、身長160cmだから半径1メートルくらいの結界でいいよね。


 ベッドの中に入ったまま、「半径1メートルの聖魔法の結界!」と思ったら出来た。キラキラってしたから、人前で使ったら『聖魔法』だってバレそうね。


〖はい、教会の司祭にはバレます〗


 ――やっぱり。


 部屋が暗かったので、ベッドの頭に置いてあるランタンを付けたら……結界に明かりが反射して、私がすっぽり入る透明の丸い半円だと分かる。


 手を伸ばして結界に触ると……少しひんやりして、ガラスに触ったみたいな感じね。


〖今、アスカが触ろうと思ったので、結界に触れることが出来ましたが、アスカが作った結界なので、意識しなければ結界を感じることはありません。自由に出入り出来ます〗


 ――そうなの? あっ、手が通り抜けた。へえ~、不思議な感じ。


〖アスカ、森の奥で野営をしたいのであれば、『聖魔法A』を覚えて結界の強度を上げるか、ワイルドキャットより更に強い魔物をテイムすれば、森の奥でも野営が出来ます〗


 ――『聖魔法』を『A』に……『聖魔法』は、人前で使えないからレベルを上げる予定はなかったけど、結界が強くなるなら『聖魔法A』を覚えるのもありね。


 でも、他に覚えたいスキルがあるから、覚えるとしたらかなり先かな。


 エレナより強い魔物をテイム……今はエレナがいるから十分ね。


 明日はテントと野営道具を買いに行って、そのまま森へ行って1泊しようか。



 ◇◇

 翌朝、ローザさんに森で1泊すると言ったら、今日と明日はまだ空きがあるけど、明後日あさってから10日くらいの間、予約で部屋の空きがないと言われた。


「悪いね、アスカ……」


 お祭りでもあるのかな? でも、街の様子は普通だったけど。


「いえ、予約が入っているなら仕方ないです」


 ローザさんに明日の予約をするかと聞かれたけど、少し悩んで……やんわり断って宿を出た。


 予約は前払いになるだろうし、もし何かの理由で帰って来なかったらと思うと勿体もったいない。今の私には4,000ルギは大金なのよ。


 マントを買った防具屋に行って、(エレナとレオンは店の外で待っていてもらい)中で1人用のテントと野営道具を見せてもらうと、両方で4万ルギ近くもする。


 必要だから買うけど、かなりの出費ね……。


 お店のお兄さんに、野営をするなら魔物除けの薬はいらないのかと聞かれたけど、それはエレナやレオンが嫌がると思うのよ。


〖はい、嫌がります〗


 ――やっぱりね。スラ君は……ビーさん、スラ君は匂いを感じるのかな?


〖はい。ワイルドキャットほどの嗅覚しゅうかくはありませんが、スラ君も匂いを感じて魔物除けの薬は嫌がります。森の浅い場所で野営をするなら、アスカの結界とエレナがいるので魔物除けの薬は必要ありません〗


 ――そっか、じゃあ魔除け薬は買わないでおこう。


 道具屋を出て西門に向かい、門の警備兵に森で1泊すると伝えて門を出た。


 言わなくてもいいのかも知れないけど、西門の警備兵さんの顔はだいたい覚えたからね。


 ◇

 門を出て森に向かう。


〖アスカ、マップを使わないのですか?〗


 ――あっ! 忘れてた。マップ・オン――四角いマップの画面が右下に開いて、真ん中に私をしめす▽がある。


 前方の草原に小さな赤い点がいくつもある……少し動いていて、この赤いのが魔物なのね。


 人間は? と思うと、後ろの街のなかに白い丸い点が現れた。ビーさん(鑑定A)が賢すぎて……これが俗にいうチートね。


〖アスカ、褒めて頂いてありがとうございます〗


 ――ふふ、ビーさんの声が聞こえるのが嬉しい。ちょっと、こそばゆいけどね。


 ビーさんに、スラ君たちも表示できるのかと聞いたら、青い▼で表示してくれた。


 スラ君は? と思うとスラ君の▼が点滅するの。凄いね、これがあれば誰かが迷子になっても探せるね。



 エレナとレオンが魔物を狩って来ると、スラ君が魔核を取って売れない魔物は食べてくれる。私は魔核と魔物をポーチやインベントリに入れて、森に向かって歩くだけ。


 ……狩りが凄く楽になったんだけど、いいのかな?


〖アスカ、問題ないですよ〗


 ――ビーさんがそう言うなら、いいのね。


 森に入ると、ビーさんが近くにいる魔物を教えてくれる。


〖アスカ、もう直ぐキラービーが見えます〗


 ――了解。


 キラービーの羽音がすると、レオンが捕まえようとジャンプするけど届かないのよね~。で、私が魔法を撃とうとしたらスラ君が『水魔法』で瞬殺した。


 エレナが仲間になってから、私が担当だったキラービーはスラ君が倒しているの。私が狩りに参加するのは、今のところ3体組のフォレストウルフとゴブリンなのよね。2体組だと出番はないの。


〖アスカ、左手奥にホーンがいます〗


 ――ホーン。マップを見ても、赤い点がいくつもあって見分けがつかない。と思ったら点滅した。これってビーさんがしたのよね? 凄いね。


〖アスカ、褒めすぎです〗


 ……ビーさんが謙遜けんそんしている! ふふふ。


 立ち止まって、赤い点滅を目指して左に進むと、奥に……木々の間をゆっくり移動するホーンが見えた。


 エレナもホーンに気が付いて、『ゴロゴロ……』と喉を鳴らしながら背を低くして狩りに向かった。その後をスラ君がついて行く……もしかして、これも私はいらない系?


〖――おそらく〗


 タプン! ヒュッー、シュババッー!


『ガアアァー!』


 バッコーン!


〖終わりました〗


 ……はい。


 エレナがホーンを咥えて戻って来て、私の目の前にホーンを置くと、エレナが私を見る。


『ガルル?』

『ミャ~!』


 これは……エレナが『食べてもいい?』って聞いているみたいね。さっき、フォレストウルフを狩った時は知らん顔をしていたのにね。レオンは『食べたい~!』かな?


 その横で、スラ君が背伸びをして左右に揺れている。『食べ残しは全部吸収するよ~』って言っているみたいね。ふふ。


〖そのようです。このホーンでエレナとレオンのお腹は満たされます〗


 ――分かった。3人?がかりで来られたらダメとは言えないわね。


「うん、食べていいよ。ホーンの魔核と角はもらうね」


 みんなが食べている間に私も何か食べよう。


 ん~、久ぶりにおにぎりが食べたいな~。インベントリにあったおにぎりは食べてしまってもうないから、経験値で買わないといけないけどね。


〖アスカ、初めての【アイテム購入】購入になります。購入したアイテムは、一旦、インベントリに収納されます〗


 そう言って、ビーさんがステータスの【アイテム購入】を開いてくれた。


〖アスカ、買うなら食べたことがない、"梅おにぎり"か"昆布おにぎり"はどうですか?〗


 ――ビーさんのお勧めは梅か昆布なのね。ふふ、今までビーさんから何かを勧めてくれるなんてなかったよね。


〖はい、『鑑定B』だったので〗

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@日本のアイテム

[食べ物・飲み物]

・おにぎり100 ・梅おにぎり300 ・昆布おにぎり300

・ポテトチップス500 ・クッキー1,000

・水100 ・お茶200

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 高いけど、ビーさんが勧めてくれた梅か昆布のおにぎりにしよう……どっちにしようかな?


 鮭があったら迷わないんだけどね。



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