第36話 鑑定Aを覚える

 エレナとレオンには『ウオッシュ』と『回復魔法』を掛けて部屋で留守番してもらい、スラ君にはいつものようにショルダーバッグに入ってもらって食堂で晩ご飯を食べて来た。


 美味しかった~。


 今夜の料理はボアのシチューで、ボアの肉が口の中でけていくのよ……どれだけ煮込んだらあんなにやわらかくなるんだろう。


 パンはフワフワの白パンが2個出てきて、焼きたてだったみたいでまだ温かかった。2個も食べられないから、1個はスラ君に食べてもらったの。明日の朝のパンも楽しみね。ふふ。


「ただいま~」


 部屋に戻って明かりを付ける――この明かりは普通の電気みたいに見えるけど、魔核で発動する魔道具なんだって。


 床で寝そべっていたエレナとレオンがこっちに来て、『ゴロゴロ……』言いながら頭をぶつけて体を擦り付けてくるから踏ん張る。ふふ、「おかえり」って出迎えてくれるのね。


 スラ君はショルダーバッグから出て、用意していたスラ君用のバケツにスルスルと入ってプルプルしている。ふふ。


 エレナたちの水飲み用の桶に水を足して、さあ、私も寝る準備をしよう。



 自分に『ウオッシュ』を掛けてパジャマに着替える。


「みんな、おやすみ~」


 部屋の明かりを消して、ベッドに入りステータスを開く――ステータスって、明かりがなくてもパソコンみたいに画面が淡く光って見えるのよ。


 今日、初めての魔物――ゴブリンメイジとホーンを狩ったから、スキルポイントが18Pになった。これだけあれば『鑑定A』を覚えられる。ふふ、ビーさんがどう変わるか楽しみね。


 あっ、ビーさんの呼び方を変えた方がいいかな? "鑑定Bさん"が長いから"ビーさん"の呼び方にしたんだけど……"エーさん"とか?  うわぁ、センスなさ過ぎ……。


【そのままでも問題ありませんが、アスカの好きなように呼んでください】


 ――じゃあ、呼び慣れているから"ビーさん"のままにするね。


 ステータスにある【獲得可能スキル】を開いて、[鑑定]を選ぶ――開いた小さな画面には[A=16P]だけがあって、それをタップして[決定]もタップ――これで完了。


 特に……体に変化はない。ピコン! と音が鳴るとか、体に力が湧いて来るとか……全く何もないのよね。


 ステータス画面を見ると――18Pあったスキルポイントが2Pに減っていて、スキルが『鑑定B→A』になっている。またスキルポイントを貯めないとね。


〖【――アスカ、『鑑定B』がレベル『A』になりました。以後、よろしくお願いします】今後は直接話し掛けますが、必要に応じて画面を使うこともあります〗


 ――えええー! 何これ! ビーさんの文字が出て来たと思ったら、同時に頭の中に声が聞こえて来た……。


「……こ、声が!? びっくりした~! これ、ビーさんの声なの?」


 柔らかくて少し高めの声で、若い男の子の声だ……。


〖はい、そうです〗


「……ビーさんは男の子なの?」


〖【『鑑定』に性別はありませんが――】『鑑定A』の声は、<渡り人>より年下の異性の声に設定されています。データには同性より異性、年上より年下の声が、耳に心地よく聞こえると記されています〗


「データに? そうなの……」


〖アスカ、今まで通り、頭の中で話し掛けてください。私の声はアスカにしか聞こえませんから〗


 「あっ、声が聞こえたから、つい……」


 ……口に出して話してしまった。そっか、ビーさんの声は私にしか聞こえないのね。分かった。


〖アスカ、この声が気に入らなければ変えることも出来ますが、変更しますか?〗


 ――優しそうな声だから、そのままで。


〖――分かりました。アスカ、先日話していたマップを表示してみますか?〗


 ――うん。ビーさん、お願い。


 直ぐに、視界の右下に四角い画面が開いた。半透明のグレーの画面で、奥が透けて見えるようになっている。


〖▽がアスカで、アスカを中心にマップが表示されます。そして、従魔以外の魔物は赤の丸い点で表示されます〗


 ――真ん中に1つだけある▽が私ね。


 輪郭りんかくを線で書いた白地図で、流石に、街の中だから赤い丸はないけど、「冒険者ギルドはどこ?」って思ったら矢印が出てきた。


 これは便利ね。これがあれば迷子にならなくてすみそう。


〖アスカ、人間や動物も表示出来るので、必要な時は指示してください〗


 ――うん、分かった。表示は魔物だけでいいかも。あっ、狩りの時は人間も表示してもらおうかな、冒険者が多いようなら狩り場を移動するから。


〖分かりました〗


 このマップは考えるだけで表示エリアの拡大・縮小が出来るそう……指で操作しなくていいのね。


 そして、マップ表示に関係なく、ビーさんが危険を察知さっちしたら教えてくれるんだって。


〖マップ表示のオン・オフは、アスカが思うだけで出来ます〗


 ――やってみる。


 マップ・オフとマップ・オフを数回試した。これでいけそうね。


 スキルポイントが減ったから、またスキルポイントを貯めないとね。


 そうなると、まだ見たことのない魔物を狩りに森の奥へ行きたいんだけど、奥まで行くと門が閉まる時間に戻って来られないのよね……。


 ――ねえ、ビーさん。スキルポイントをかせぎに森の奥へ行きたいんだけど、私が森で野営って出来るかな?


〖出来ます。森の奥でなければ、アスカの『聖魔法C』で結界を張れるので、問題ありません。ですが、他の冒険者に見られる可能性があるので、テントを買うことをお勧めします〗


 ――結界! って、凄いヤツよ! 異世界ファンタジーの主人公が使えて、恋愛系の聖女とかも使えて……私が出来るの?


〖はい、出来ます〗


 ……お、おばちゃんが使えていいの!?


〖アスカの肉体年齢は28歳ですよ。おばちゃんではなく、お姉さんでしょう〗


 ……えっ、年齢を聞かれたら28歳って言って良いの?


〖問題ありません〗


 ……えっ。

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