第35話 少しだけ森の奥へ

 少し森の奥に入ると3体組のゴブリンが現れ、直ぐにスラ君とエレナが前にいる2体のゴブリンに攻撃を始めた。


『ガルルル!』


『ギャギャー!』 『ギャ!? グエッ……』


 奥にいる3体目――あのゴブリンは片手剣じゃなくて杖を持っているから、きっとゴブリンメイジね。


 ゴブリンメイジに手を向けたら、ゴブリンメイジがエレナに杖を向けたのが見えた――行け『風魔法C』!


 ゴブリンメイジが何か詠唱を始めて丸い火が見えた瞬間、私の『風魔法』がゴブリンメイジに届く。


『ΦΣ%……グギャ!』


 ゴブリンメイジの詠唱が止まって、無数の風の刃でボロボロになったゴブリンメイジにエレナが襲い掛かって止めを刺した。


 ――ビーさん、さっきのゴブリンメイジの魔法は『火魔法』よね? もしも、あの『火魔法』で攻撃されたら……私の『水魔法』をぶつけたら消えるのかな?


【ゴブリンメイジが詠唱していた魔法は『火魔法E』です。『火魔法』は『水魔法』に弱く、同レベルの魔法で相殺そうさい出来ますが、アスカなら魔法で壁を作って防げます】


 ――魔法で壁? あぁ、そんな魔法があったね。なんちゃらウォールって魔法。ビーさん、「水の壁」とか「風魔法で壁!」って思えばいいのかな?


【はい、「水魔法で防御」や「ウインドウォール」でも構いません。アスカの持つ『聖魔法C』でも――レベルCの属性魔法を持っていれば防御壁を作れます】


 ――へえ~、属性魔法の『C』で防御の壁が出来るのね。良い事を教えてもらった。ビーさん、ありがとう。


 ゴブリンを倒した後、エレナにゴブリンを食べるかと聞いたら見向きもしない。レオンも……まぁ、近寄ると少し臭いし、美味しそうには見えないよね。


「スラ君も魔核を取ってくれたら、無理してゴブリンを食べなくてもいいからね。いつも食べてくれるけど、ゴブリンは美味しくないのよね?」


 スラ君はクネクネしながら3体とも食べてくれた……スラ君は質より量なのかな?


【スライムには味覚はないと言われていて、魔素や魔力を含む物を好んで食べるようです。スラ君は、多くの魔素を取り込むことで、強くなることを理解しているのだと思われます】


 ――スラ君はやっぱり賢いのね。


 ねえ、ビーさん……神様が”魔素が溢れて魔物が増えた”って言ってたから、どの魔物にも魔素があるのよね?


【はい。全ての魔物の体は魔素で作られています】


 ――だよね。そして、魔物を倒したり食べたりすると、魔素を取り込んで強くなる。


 ビーさん、気になるんだけど……人間は魔素を吸収し過ぎて病気になったりしないの?


【アスカ、問題ありません。ただし、生まれつき魔力が多い人間は、魔力のコントロールが出来ず、体内で魔力が暴走することがあります。魔力の多い家系――貴族の子供にまれにみる症状です】


 ……生まれつき。何かそんな話も読んだことがあるな。魔力第一主義の貴族の話で、魔力のない子供がうとまれて、実はその子は『俺TUEEE……』みたいな……主人公は女の子だったかな?


【――データにありません】


 ……えっ、あ~、ビーさんゴメン。質問じゃなくて独り言よ。


 私がビーさんと話している間にも、スラ君がポイズンスパイダーを倒したり、エレナがフォレストウルフを狩って来たりするの。レオンは私のそばから離れないけどね。


 狩りを続けていると、視界にビーさんの時間を知らせる文字が見えた。


【アスカ、12時になりました】


 ――もうそんな時間なのね。ビーさん、知らせてくれてありがとう。これからUターンして街に戻りながら狩りをするから、方向を間違えたら教えてね?


【分かりました】


 戻る途中、スラ君とエレナがボアを倒したので、魔核だけ取り出してみんなで食べてもらう。私も昼ご飯にしてホットドッグを食べた。



 食後、狩りを再開すると初めての魔物に遭遇そうぐう――ホーンだ。


 見た目は立派な角を持った大きな雄の鹿で、体に白い水玉模様がある。


 スラ君とエレナであっという間に倒したけど、エレナがこっちを見る。さっきボアを食べたのに、まだ食べたいのかな?


【エレナの好物なのでしょう。ホーンは、魔核1,000ルギ・肉3,000ルギ・角2,000ルギで買い取ってくれます】


 ――角は食べないよね。スラ君は食べるけど……。


「ホーンの魔核と角はもらうね。それ以外はみんなで食べていいよ」


 プルルン!

『ガルル』

『ミャ~!』


 スラ君が魔核を取って私に渡すまで、エレナとレオンがお行儀ぎょうぎ良く座って食べるのを待っている。ふふ。


 みんなが食べ終わるまで、私も休憩ね。


 ◇

 街に戻って冒険者ギルドに向かうと、視線を感じる……少し慣れたけど、見ているのは私じゃなくエレナとレオンなのよね。


「エレナ、前も言ったけど……人間がエレナとレオンに攻撃してきたら、やり返していいからね」


『ガルル……ゴロゴロ』


 エレナが返事をしてくれるから頭を撫でる。ふふ、フワフワね。


「スラ君もね」


 プルルン! と肩の上で返事をしてくれるスラ君も撫でる……スラ君は、撫でるとプニプニするから加減が分からないのよね~。


「レオンは、何かあったらエレナか私の後ろに隠れるのよ」


『ミャー!』


 レオン……私の周りを走り回ったら歩きづらいんだけど。



 ギルドに着いたんだけど、どうしよう……。


 エレナとレオンを表で待たせるか、中に連れて入るか悩む……。


 表で待ってもらったら誰かがエレナにいたずらするかも? 子供のレオンをさらおうと考える人がいてもおかしくないよね……。


 街の中で彼女たちを守れるのは私だけで……そばにいるのが1番だよね。うん、連れて入ろう。店やレストランに連れて入るのはダメだろうけど、ここは冒険者ギルドだしね。


 ギルドの買取り部屋に入ると、イケボが響く……。


「アスカー! ワイルドキャットはギルド前で待たせておけ。テイムしているからアスカの指示には従うんだろう?」


 ……そうだけど。


「はい、エレナとレオンは賢いから私の言う事を理解できます。誰かがエレナにちょっかいを掛けたらやり返すように言ってますけど、レオン――子供を攫おうとしたら、攻撃して殺してしまうかも……」


「それは、他人の従魔に手を出すヤツが悪い。問題ないぞ」


「えっ……」


 ……問題ないの?


【昔、従魔を持つ<渡り人>が何人かいて、テイム魔法を使える者は<渡り人>の血が流れる者だと言われています。そして、子供の頃から親や教会から『従魔は、<渡り人>を通して人間に贈られた神の贈り物』だから絶対に手を出すなと言われて育ちます】


 ……<渡り人>の血。そっか、先輩たちはこの世界で家族を持ったのね。


 "従魔は神の贈り物"……うん、その通りだと思う。テイム魔法が使えたから、スラ君もエレナも仲間になってくれたからね。


 でも、離れるのは私が不安なのよ……魔物より、人間の悪意の方が怖いからね。



 今日の買取り額も30,000ルギ以上になった。エレナをテイムしてから、狩りが楽なったし買取り額も増えていいこと尽くしね。


 さあ、宿に戻ろう。


 今日は2食付きにしているから、晩ご飯が楽しみね~。ふふ。

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