第38話 森の奥へ

 経験値で昆布おにぎりを買うと、インベントリに【昆布おにぎり×1】の文字が現れて取り出した。


 コンビニで売っているのと同じフィルムに包まれた三角のおにぎりで、中央に"こんぶ"の文字のシールが貼ってある。


 裏面の成分表示のシールは貼ってない……原材料名や製造者が書かれていたら面白いのにね。ふふ。


 フィルムを剥がしておにぎりに齧りつく。


「モグモグ……ん~! 昆布が美味しい~。最高ね! ふふ、声が出てしまう」


 お茶も欲しいけど、経験値が200もいるから我慢して、生活魔法でコップに水を出して飲む。


 さっき買った野営道具に、魔道具のコンロや鍋やフライパンの他に、お皿やコップ・カラトリーまで入っていて、食材があれば普通に料理ができるのよ。


 インベントリのトートバッグに、市場で買った調味料と卵・醤油・お米を入れてあるから、夜にでもご飯を炊いてみようかな……それにしても昆布のおにぎりが美味しい。モグモグ……。


 おにぎりを食べて、エレナたちの食事も終わったので、森の奥へと進む。


 ――ビーさん、もう少し奥に進むけど、今日も午後の3時になったら教えて欲しいの。森の浅い場所まで戻って、野営できそうな場所を探すから。それと、森の奥に入り過ぎたら教えてね。


〖分かりました。アスカ、少し離れていますが――右斜め前方に、初めての魔物シルバーウルフが4体います。最初に『風魔法C』でをして、続けてエレナやスラ君が攻撃していないシルバーウルフに向けて魔法を撃つと、楽に狩れるでしょう〗


 ――シルバーウルフが4体? えっ、範囲攻撃って……ビーさん、範囲魔法と思って撃てばいいのね?


〖そうです。アスカは『風魔法B』を覚えているので、『風魔法C』の無数の風の刃タイプの範囲魔法が撃てます。竜巻タイプの魔法だと、移動するシルバーウルフ4体全てに攻撃が当たらない可能性があります〗


 ――分かった! 『風魔法C』を範囲魔法で撃つね。ちょっとドキドキしてきた……。


 先にスラ君とエレナに、前の方にシルバーウルフが4体いて、私が魔法を撃ってから攻撃するように声を掛けると、スラ君はプルルン!と返事をして、スルスルと茂みに隠れるように前へ進んで行く。


 エレナも身をかがめて、音を立てないようにゆっくりとシルバーウルフの群れに近寄って行った。


 ふうー……。


 私も軽く深呼吸して、いつもは持たないナイフを片手に、ゆっくりシルバーウルフに向かって進む……。


 群れの中の1体のシルバーウルフが、私に気が付いたと同時に"範囲魔法で"と思いながら『風魔法C』を撃つ――直ぐにスラ君が『水魔法』を撃ち、エレナが飛びかかった。


 私も2発目の『風魔法C』を撃とうと、残り2体のシルバーウルフを狙ったら、既にスラ君とエレナはそれぞれのシルバーウルフを倒し終えていて、残り2体に襲いかかって終了。 ふうー……早いね。ナイフを持って構えたけど使わなかった。


 シルバーウルフは、名前の通り綺麗な銀色の毛を持つ狼で、口の左右にある鋭くて大きな犬歯が目立つ。


 フォレストウルフより大きい個体が多く、森の奥で4体~6体位で行動しているけど、群れのリーダーが強くて賢いほど群れが大きくなるって、ギルドの資料に書いてあった。


 倒した4体のシルバーウルフをインベントリに入れる。シルバーウルフは、魔核が5,000ルギ・毛皮が10,000ルギ・牙が2,000ルギの合計17,000ルギで売れるの。


 解体手数料を引いても、この4体でかなりの金額になるね。


 あっ、もうテントと野営道具代を回収できたじゃない……やっぱり、強い魔物を狩ると稼げるのね。


 そうだ、エレナたちの予備の食事を、ラットやフォレストウルフからシルバーウルフに変えようかな。ビーさん、こっちの方が美味しいのよね?


〖はい。種類にもよりますが、肉は強い魔物の方が美味しいと言われています。ですが、エレナはウルフ系の魔物よりボアやホーンの方が好みのようです〗


 ――そう言われると、そうね。じゃあ、ラットはスラ君に食べてもらって、フォレストウルフとシルバーウルフは売ってしまおうか。それで、ボアをキープして、ホーンが狩れたらホーンもね。


 それにしても、ビーさんが近くにいる魔物を教えてくれて、初めての魔物だったら倒し方まで教えてくれるなんていたれりくせりで、ビーさんを『鑑定A』にして大正解ね。


〖アスカ、さっきも褒めて頂きましたよ〗


 ――だって、レベルアップしたビーさんが凄いんだもの。ビーさん、これからもよろしくね。


〖はい、よろしくお願いします〗


 しばらくして、初めての魔物ホブゴブリンが出て来た。


 ホブゴブリンはゴブリンの上位種で、肌はゴブリンと同じ褐色なんだけど、背が高くて180㎝はある。


 特に、ビーさんから狩り方のアドバイスはなく、HPが少し多い大きなゴブリンですと言われた……なるほど。


 大きな片手剣を持っていて、配下のゴブリンを2体引き連れていたけど、エレナがホブゴブリンに襲いかかって、スラ君と私がゴブリンを攻撃――エレナが問題なくホブゴブリンを倒した。


〖アスカ、午後の3時になりました〗


 ――もうそんな時間なのね。ビーさん、ありがとう。


 街の方に引き返して、森の浅い場所で野営出来そうな場所を探す。


 少し開けた場所を見つけて、「聖魔法で大きな結界」と思うと、透明のドームが現れた。


〖アスカ、半径5メートル程の結界が張れました〗


 ――それだけ広ければ十分ね。


 光の反射で結界が分かるけど、透明だから外から丸見えで……テントは必要ね。


〖アスカ、『土魔法D』を覚えたら土の壁を作れて、いらなくなったら消すことも出来ます。『土魔法C』ならこの結界と同程度の丈夫な壁を作ることが出来ます〗


 ――目隠しに壁を……それもいいね。


 でも、スキルポイントが溜まったら『風魔法A』を覚えて、次に『回復魔法A』。最初に覚えた4つのスキルを全部『A』にしたかったんだけど、他にも覚えたいスキルが増えてしまった。


 結界を強化する為に『聖魔法A』と目隠しに『土魔法D』か『C』……ポイントが貯まってから考えようかな。覚えたいスキルがまだ増えるかも知れないからね。


〖そうですね。欲しいものと必要なものは、必ずしも同じとは限りませんからね〗


 ……ビーさん、哲学者みたいね。


「スラ君、エレナ、レオン、今日はここで野営をするからね。結界を張ったから、ここから出ないようにね……分かるかな?」


〖結界からアスカの魔力を感じられるので、スラ君とエレナは理解しているでしょう。レオンは――微妙です〗


 ……レオンは子供だからね。スラ君とエレナが分かっているなら大丈夫かな。レオンはエレナから離れないと思うからね。


 そうだ、ビーさん、私は自由に結界の出入りが出来るって言ってたけど、スラ君たちも出来るのかな?


〖はい、結界を張ったアスカと、アスカの従魔は自由に出入りが出来ます〗


 ――それは良かった。


ただし、外から――魔物は勿論ですが、人間もこの結界の中に入ることは出来ません〗


 ――人も? それは嬉しいかも。突然、知らない人が結界の中に入って来たら困るものね。盗賊だったら怖いし。


〖アスカ、ステータスの高い者が、結界を壊そうとすれば壊れます〗


 ……そうなのね。


〖それと、結界を張った時点で中にいた人間は、結界から出ることは出来ますが、再び入ることは出来ません。アスカが張った結界を自由に出入りできるのはアスカとその従魔だけです〗


 ――ふむふむ、分かった。


「みんな、結界は自由に出入りできるけど、危ないからなるべく出ないようにね」


 プルルン!

『ガルル!』『ミャ~!』


 みんなこっちを見て返事をしてくれる。ふふ。


 インベントリからテントを出して、張ろうとしているんだけど……悪戦苦闘あくせんくとう。紐を引っ張り過ぎるとテントが傾いて、緩いと倒れそうで……難しい。


 時間は掛かったけど何とかテントを張り終えた。うん、初めてにしたら上出来よ。


 そうだ、スラ君たちにお水を出しておこう。スラ君用に野営用のスープ皿を出して水を入れて声を掛ける。


「スラ君、お水飲むかな?」


 プルルン! と返事をしてスルスルとこっちに来た。エレナも寄って来たので、もう1つお皿を出して水を入れる。


 スラ君がスープ皿ごと体に取り込んだので慌てた。


「スラ君! お皿は食べないでね。中の水だけよ……」


 スラ君が、スープ皿を体内に取り込んだままプルルンと返事をするのよ……吸収される前で良かった。スラ君用にバケツを買わないとね。


 エレナが水を飲んでいると、レオンも来たから水を足しておこう。うん、スラ君のもね。


 さて、ご飯を炊いてみようかな。インベントリには買い溜めしたサンドイッチやホットドッグがあるんだけど、こんな時じゃないと試せないからね。


 上手く炊けたら卵かけご飯を食べよう。失敗しても卵かけご飯にするけどね。ふふ。


 お鍋にコップで計ったお米を入れて洗い、水を入れる……お米に対して、水はだいたい1.2~1.5倍なのよね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る