第42話 部屋を借りる
翌日、冒険者ギルドに行くと、受付に座っていた副ギルド長のデリクさんに手招きされた――午前中だから受付にいるのかな?
「アスカ、ベールズから話を聞いたが、ワイルドキャットをテイムしたんだって……しかも、シルバーウルフを狩ったらしいな」
デリクさんがエレナを見ながらそう言ってくる……話が筒抜けね。
「はい、スラ君とエレナが優秀なので……」
肩にいるスラ君を撫でながら言うと、デリクさんの視線がスラ君に移る。
「ほお~、スライムのレベルが上がったのか。スライムは、レベルアップする前に死なせる奴が多いんだが、アスカは育てるのが上手いんだな」
「えっ、そんなことないですよ……」
育てるだなんて、私は特に何もしていない。
〖デリクの言うとおり、スライムは他の魔物に比べて、ステータス値が低いので育ちにくい魔物になります〗
――そうなんだ。
〖はい。テイマーの殆どはスライムを無理に戦わせ、傷ついたスライムにポーションを与えて回復しません〗
――あ~、そっか。テイマーで『回復魔法』を持つのは<渡り人>くらいで、キラーラビットを倒して、スライムにポーションを飲ませたら赤字になるものね。
今、スラ君のステータスの防御力は『C』だけど、それはスライムの中でCランクの防御力であって、他の魔物の『防御力C』とは同じじゃないんだって。
そして、スラ君やエレナのステータスが『A』になると上限がなくなって、格上の魔物以上に育つこともあるって言うの……ステータスに『S』はないのね。
〖はい、ありません〗
――マンガや小説には、レベルやランクの『S』が出てくる話は多いのにね。
「あの、デリクさん、従魔と一緒に住める部屋を借りたいんですけど、紹介状って書いてもらえますか?」
「ああ、いいぞ。直ぐに書いてやるからちょっと待て」
デリクさんが引き出しから書類を出して、何か書き込んで封筒に入れた。
「アスカ、この紹介状を商業ギルドに持って行ったら、ちゃんと従魔と住める部屋を紹介してくれるぞ」
……デリクさん、早いですね。
「ありがとうございます」
◇
その紹介状を持って商業ギルドに行ったら、直ぐに担当の女性職員さんが出てきた。
「部屋の広さはどれくらいを希望されていますか? それと、1ヶ月の家賃の予算を教えてください」
風呂付きの部屋があるのか聞いてみたら、風呂付きは一戸建ての家しかないらしい。そんなの絶対に家賃が高いよね。
部屋は広くなくていいけど、予算は……1ヶ月は30日で、ローザさんの宿で素泊まりしたら、4,000ルギ×30日として120,000ルギになる。
「私と従魔だけなので、寝室1部屋と台所・トイレがある部屋で、予算は……1ヶ月12万ルギくらいで」
「それだけ出せるのでしたら、ダイニングやリビングが付いた部屋でも借りられますよ」
「そうなんですか?」
――1DKや1LDKを借りられるなら広々として嬉しい。エレナは成獣だからあれ以上大きくならないだろうけど、レオンはそのうち大きくなるからね。
〖アスカ、エレナのレベルが上がると、もう少し大きくなります〗
――えっ、そうなの? じゃあ、なるべく広い部屋がいいね。
「じゃあ、ダイニングやリビングが付いた部屋を見せてもらえますか?」
「勿論です。今から案内しますね」
女性の1人暮らしだからと、歓楽街のあるエリアを外して、お勧めの部屋を3つ見せてくれた。
1つ目の部屋は、市場の近くにある古い1DKの部屋で、家賃が1ヶ月8万ルギ。
――3階建ての古い建物の2階で、部屋の中もかなり古かったけど、家賃が安くて市場が近いのは嬉しい。ただ、1階に酒場があるから夜は
2つ目が、中央公園の裏通りにあるまだ新しい建物の1LDKの部屋で、家賃が1ヶ月13万ルギ。
――築1年くらいの4階建ての3階で、部屋はとても綺麗。予算オーバーだけどね。
3つ目が冒険者ギルドの裏側、教会があるエリアの1LDKの部屋で、家賃が月に11万ルギ。
――かなり古い3階建ての2階の部屋で、部屋は1番広いけど……古いね。あちこちにシミがある。ビーさん、この部屋に『ウオッシュ』を掛けたら綺麗になる?
〖はい、綺麗になります。アスカの『ウオッシュ』には消毒効果があるので、新築のようになりますよ〗
――それは嬉しい。じゃあ、この部屋で決まりね。
「いかがですか? 他の部屋も見ますか?」
「いえ、この部屋にします。あの……この部屋、今日から借りられますか?」
無理なら、これから食料を買い出しに行って森で野営かな。大通りの宿は広くて良い部屋だったけど、素泊まりで1泊2万ルギなんて勿体ないからね。
「来月ではなく今日からですか? それでしたら、日割りで今日から月末までの7日分と、来月分の家賃を先払いで頂きますがよろしいですか?」
問題ないので、商業ギルドに戻って直ぐに契約した。敷金や礼金がいらなくて、今月分は日割り計算してくれるなんて良心的よね。
部屋の家賃は前払式で、来月もこの部屋を借りるなら、月末までに翌月分を商業ギルドで支払わないと強制退去になるから注意するように言われた。
家具や魔道具のレンタルもあって、ベッドやテーブルセット、コンロに冷蔵庫、洗濯機まで借りられるんだって。
――『ウオッシュ』が使えるから洗濯機はいらないけど、コンロは野営道具のを使って、ベッドとテーブルセットは買おうかな。冷蔵庫は……使うかな?
〖インベントリに、時間停止が付いているので使わないでしょう〗
――そうよね。夏になって冷たい飲み物が欲しくなったら、冷蔵庫をレンタルするか買おうかな?
〖アスカ、<フェス>は一年中温暖な気候で、夏・冬はありません〗
――そっか。じゃあ、冷蔵庫はいらないね。
女性職員さんに、因みに風呂付きの一戸建ての家賃はと聞くと。
「今ある物件だと――小さな庭付きの家で、家賃は40万ルギになります」
「うわっ、イイ値段ですね……」
こういう家は、この街に交代で常駐する騎士団の貴族や、上級冒険者のパーティーが借りるらしい。
エレナとレオンがいるから庭付きの家は魅力的だけど……高いね。
森の奥で狩りが出来るようになったから、借りられそうな気もするけど……レオンが大きくなったら考えようかな。
〖アスカ、先程エレナのレベルが上がったら大きくなると言いましたが、レオンも、半年もしないうちに今のエレナと同じ大きさになります〗
――ええ! そんなに早く大きくなるの?
〖はい。レオンはテイムされた魔物で、毎日、魔力のある魔物を十分に食べているので、通常の森にいるワイルドキャットの幼体より早く育ちます〗
――そっか、レオンは直ぐに大きくなっちゃうのか……可愛いままでと思ってしまうのは、私のエゴね。
◇
商業ギルドで契約が終わって部屋の鍵をもらい、おすすめの家具屋を教えてもらった。今日から部屋に住むから、ベッドとテーブルセットが必要なのよ。
後はスラ君用のバケツと、エレナたちが食事をする時に餌を置くシートみたいなを買おう。エレナたちの水を入れるお皿もいるわね。
思いついた最低限必要な物を買って、借りた部屋に戻って来た。
部屋の玄関でブーツを脱ぐ――日本人なら、やっぱり土足厳禁よね。
エレナたちを玄関で待たせて、部屋中に『ウオッシュ』を掛けて回る。
最後に、スラ君・エレナ・レオンに『ウオッシュ』を掛け、自分にも掛ける。
「みんな、今日からここに住むからね」
『ガルル』
『ミャ~!』
スラ君も肩でプルルンと返事をしてくれる。ふふ。
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