第40話 翌朝

 翌朝、起きたら体が痛い……野営道具に入っていた寝袋で寝たんだけど、 ブーツは脱いだけど、装備を付けたまま寝たからかな?


 寝ている間に強い魔物が近付いて来たら、ビーさんが知らせてくれるだろうけど、初めての野営でパジャマに着替えて寝るなんて出来なくて……ふぁ~。


〖アスカ、おはようございます。体が痛いのでしたら、自分に『回復魔法』を掛けると痛みは取れますよ〗


 ――ビーさん、おはよう。うん、そうする。


 自分に『回復魔法』を掛けると、綺麗に痛みはなくなった。頭もスッキリして、凄いね。


 近くに置いたショルダーバッグから、スラ君が顔を出しているのが見える。


「スラ君おはよう。スラ君はそこで寝たのね。ふふ」


 プルルン! と返事をするスラ君に笑みがこぼれてしまう。


 起きてブーツを履き、寝袋をインベントリに入れる。


 スラ君が入ったショルダーバッグを肩からげてテントから出ると、エレナとレオンが出迎えてくれた。


「エレナ、レオン、おはよう~」


『ガルル』


 レオンが、私のひざのあたりに前足を乗せて『ミャ~! ミャ~!』と鳴くと、結界の端へと振り返りながら走って行く……どうしたのかな?


 レオンが止まったその先に、茶色い何かがある。


「それは……何? 寝る前はなかったよね……」


〖エレナが夜中、結界の近くまで来たフォレストウルフを狩っていました〗


「えっ……エレナ、夜中に狩りをしたの?」


『ガルル!』


 何となくYes・Noは分かる。


「そう、エレナが狩ったのね……凄いね。もしかして、レオンも狩ったの?」


 レオンが『ニャ~』と鳴いて、こてん、と首を傾げる。それは……可愛いだけで、何を言いたいのか分からないね。ふふ。


〖アスカ、レオンは寝ていました。寝ていたので、「自分はしらない」もしくは「起きたらあったよ」とでも言いたいのでしょう〗


 ――なるほど、ビーさん、通訳ありがとう。ふふ、レオンは寝ていたのね。


 茶色い塊に近づいてみると、フォレストウルフが積み上げられていた。


 ビーさんが、〖アスカが寝ている間に、アスカの経験値は増えていました〗って言うの……それっていいの? って、思うけど、いいんだって。魔物が1体でも少なくなる方が、この世界には良いのかもね。


「エレナ、いっぱい狩ったのね。ありがとう」


『ガルル!』


 エレナの頭を撫でながらお礼を言うと、私を見て返事をしてくれた。『どういたしまして!』かな? ふふ。


 フォレストウルフをインベントリに入れていくと、8体も狩っている。昨日、インベントリのマスを買っておいて良かった~。


〖アスカ、昨晩作った玉子の焼きめしを食べたら1マス確保出来ます〗


 ――あ、そうね。朝から焼きめしはちょっと重いけど、食べようか。


 後、サンドイッチやホットドッグの入った紙袋を、調味料を入れているトートバッグに入れよう。



 朝ご飯を食べてテントを片付けて、結界を解除する。


「さあ、みんな狩りに行くよ!」


 プルルン! 『ガルル』『ミャ~!』


 みんなが返事をしてくれる。ふふ。


 ビーさんに魔物を教えてもらいながら森の奥で狩りをして、昼になったので街に戻ることにした。ここから街まで、3時間以上掛かるからね。


「みんな、街に戻るよ」


 今日は新しい魔物は出てこなかったけど、ビーさんがホーンを見つけてくれて、エレナとレオンの食事も終わったし、シルバーウルフとフォレストウルフでインベントリがいっぱいなの……。


 足りなくなったら、インベントリに入れてあるホーンの角を出して、そこらに生えている植物でしばって手に持とうかな。持ちにくかったら処分で――スラ君に食べてもらおう。



 草原に出ると、レオンがどこかへと走り出し、しばらくしてキラーラビットを咥えて意気揚々いきようようと戻って来た。


 何……あれ……微笑ほほえましいってこういう気持ちかな? レオンをずっと見てられるんだけど。ふふふ。


 あっ、咥えたキラーラビットを踏んづけて、こけそうになるのが可愛いくて……ふふ。


 レオンが、私の前にキラーラビットを置くと、耳をピン立ててお座りをする。


『ミャー!』


 ふふ、『狩ってきたよ! 褒めて!』って言っているのね。どこかのテレビ番組で、子供は褒めたら伸びるって言ってたわ。


〖魔物の強さには個体差がありますが、<渡り人>が――アスカがテイムした魔物はレベルAまで強くなります〗


 ――へえ~、エレナもレオンも、レベルAまで強くなるのね。それは楽しみね。


「レオン、キラーラビットを狩れるようになったの? 凄いね~。レオン、ありがとうね。ふふ」


 頭を撫でて褒めると、レオンが大きな目を細めたと思ったら一鳴きして、また走って行った。


 次は何を狩ってくるのかな? ふふ。




 ◇

 街に戻って、ハンターギルドの買い取り部屋に行くと、今日もギルド長のベールズさんがいた。


「こんにちは。ベールズさん、買い取りお願いします」


「おう! アスカ、またワイルドキャットを連れて来たのか……」


「ベールズさん、早い時間で人が少ないからいいでしょう? エレナもレオンも大人しいですし、子供のレオンに何かあったら嫌なので……レオンが大きくなったら外で待ってもらうようにします」


 普通のお店なら外で待っててもらうけど、冒険者ギルドは……何となく不安なのよ。


「仕方ねえな……」


 ポーチに入れている魔核と、狩った魔物をカウンターに出していく。


「アスカ、今日は獲物が多いな……何、シルバーウルフだと! 2・4・6……12体もいるじゃねえか! アスカ、森の奥まで行ったのか?」


 ベールズさんの低音ボイスが部屋に響いた……大声を出さなくても聞こえますよ。


「はい。森で1泊だけ野営をして、少し森の奥まで狩りに行ったんです。スラ君とエレナが優秀なのでシルバーウルフを狩れました」


 嘘をついても、ろくなことないからね……言いたくないことは言わないけど。


 スラ君は私の肩で少し首を伸ばしてカウンターを見ていて、エレナは"我関せず"な態度で私のそばで寝転がっている。レオンは、チラチラとこっちを見ながら部屋の中をウロウロしているの。


「そうか……。野営の時はワイルドキャットが見張りをしてくれるのか、なるほどな。ん、ホーンは何で角だけ……また食べさせたのか!」


「はい、エレナが頑張ってくれたので。それにエレナはホーンが好物こうぶつみたいです」


「まあ、シルバーウルフを喰わせるよりは安上がりか……」


 そうね。ホーンは魔核・肉・角が売れて6,000ルギで、シルバーウルフは魔核・毛皮・牙で1体17,000ルギにもなる。


 私の場合、そこから解体手数料を引かれるけど、私が狩った魔物の中では、ベアの次に高額な魔物なのよ。


「これが明細だ。アスカ、頑張ったな!」


 ベールズさんが差し出した明細書を見ると、合計で321,280ルギと書かれている……!


「えっ! す、凄い!」


 エレナたちの食事として、ボアを2体インベントリにキープしているのに……。2日分の買取り額だけど、日割りにしても自己最高額よ!


 今の手持ちが34万ルギと少しで……総額がほぼ2倍の67万ルギになった! 嬉しい……ふふ、かなり稼げたから明日は休みにしようかな~。


「アスカ、ギルドに口座を開くか? 10万ルギ単位だが、かねを預けられるように出来るぞ」


 あっ、そう言えば、最初の頃ビーさんが教えてくれたね。10万以上の取引をするようになったら、ギルドで口座みたいなのを開けるって。


〖はい、国が変わると通貨が換わって使えなくなりますが、金貨と白金貨はそのまま使えます〗


 ――うん、神様もそう言ってた。


「どこの国でも、どの街のギルドでも、1万ルギ単位で引き出しが出来るようになるぞ」


 今のところ他の国に行く予定はないけど、1万ルギ単位で引き出せるなら預けておいてもいいかもね。


「……ベールズさん、取りあえず10万ルギ預けます」


「おう、そうしとけ」


 冒険者カードに自分の血を垂らして、冒険者カードでお金の出し入れが出来る人を限定するんだって。お金を引き出す時、カードに登録された魔力と個人の魔力を照合するとか……ハイテクね。


 今日の買取り額から10万ルギをギルドに預けて、残りは貨幣でもらった。


 あれ、ベールズさんが私の冒険者カードを持ったままで返してくれない……?


「アスカ、冒険者カードをアイアン(鉄)からブロンズ(銅)にランクアップするぞ!」


「えっ……」


 確か、冒険者ランクアイアン(鉄)がブロンズ(銅)に上がるには、1年くらい掛かるって聞いたけど……。

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