第20話 スタンピード③ 1日目西門―2日目

 西門に近いテントの前には、シルバーのプレートアーマーの騎士様が数人見える。


 ……凄いね。中世のヨーロッパ映画に出て来るみたいな騎士様で、こっちの人は体格が良いから立っているだけでカッコ良く見える。


 ヘルムは、フルフェイスじゃなくて顔が見えているけど、もう1人の騎士様はマスクみたいなのを下ろしている。


 ……あぁ、あのマスクみたいなカバーは上げ下げが出来るのね。カバーを下げても、視界をさまたげないように、目元だけ見えるようになっているのか。


 あっ、騎士様がいる手前のテントにデリクさんがいた。


「デリクさん! ベールズさんからポーションを預かって来ました。10箱――100本ありますけど、どこに置いたらいいですか?」


「ポーションか、100本だな! このテントの後ろが救護用のテントだから、そっちに持って行ってくれ。ああ、アスカ、ベールズに伝言を頼む! "予想以上に魔物が多い"と伝えてくれ!」


「えっ……はい、分かりました」


 それってスタンピードが長引くってこと? それともポーションがもっと必要になるってことかな?


【アスカ、両方正解です】


 ……ビーさん、正解しても嬉しくない。


 ◇

 言われたテントに行くと、中は広くて……テントを2つ繋げているみたいね。


 椅子が間を開けて並べてあって、30~40人くらい座れるようになっている。


 既に怪我をした冒険者が何人も座っていて、2人の白いローブを着た人……教会の司祭様かな? と冒険者が、ポーションを渡したり『回復魔法』を掛けたりしている――『回復魔法』を掛けたら淡く光るから分かるのよね。


【はい、白いローブを着ているのは教会の司祭です】


 ――やっぱり、海外の映画とかで見たことある服装よ。


 右側の衝立の奥には簡易ベッドが見える……重傷者はあっちで治療するのね。


「失礼します。冒険者ギルドからポーションを持ってきました。どこに置いたらいいですか?」


「「ありがとうございます」ポーションはそこの机に――」


「はい、机に置きますね」


 軽く頷いて、机に行ってアイテムバッグから出すをして箱を置いた――誰も私なんか見ていないと思うけどね。


 治療の終わった冒険者が司祭様にお礼を言い、休憩を取ったら夕方から仲間と魔物を狩りに行くと話している。


 ――みんな、頑張っているのね。


 ◇

 冒険者ギルドに戻ると、ギルドの中は朝より落ち着いている。


 ベールズさんは朝と同じ正面の受付にいた。


「ベールズさん、ポーションを届けて来ましたよ。デリクさんからの伝言で、予想以上に魔物が多いそうで、ベールズさんに伝えるように言われました」


「何だと!」


 ……そんなドスの利いた声を出さないでください。私が怒られているみたいじゃないですか。


「……分かった。備蓄しているポーションだけじゃ足りんかもな……。おい、誰か! 商業ギルドに行ってポーションの追加を頼んで来てくれ!」


「分かりました!」


 ベールズさんの声が響くと、1人の職員さんが慌ててギルドを出て行く。


「お前ら! 備蓄してあるポーションを半分ここに持って来い。それと、今すぐ街中の薬屋へ行ってポーションを買い占めろ! 中級もだぞ!」


「「「はい!」」」


 ベールズさんの声で、ギルドの中が一気にあわただしくなった……ベールズさんは、偉いさんっぽいね。


「アスカ、追加のポーションを200本、救護テントに持って行ってくれ! 必ず、デリクに声を掛けてポーションの本数を言うんだぞ。それと、向こうで使い終わった空き瓶を回収して、商業ギルドに渡してくれ。瓶が足りなくなるだろう……」


「分かりました」


 この後も、ポーションを冒険者ギルドから救護テントへ運び、空き瓶を集めて商業ギルドに持って行く。また冒険者ギルドに戻ってポーションを救護テントへ……の荷物運びを繰り返した。


 ◇

 夕方の5時過ぎに解放され、ベールズさんから「明日も来いよ!」と言われた。


「はい、来ます……」


 今日は冒険者ギルド・西門の救護テント・商業ギルドの3カ所をクルクルと、何往復しただろう……流石さすがに疲れた。


 あっ、お昼食べるのを忘れていた……私はいいけどスラ君が!


「スラ君、ごめん! お腹空いたよね。今日は、ずっと肩に乗せたままでごめんね」


 肩に乗っているスラ君が、私の頬にスルスルしてくる。お腹が空いていたのね。


「スラ君、私がまたお昼を忘れていたら、お腹がすいたって頬をペチペチとつついてね」


 インベントリからサンドイッチを出して、肩にいるスラ君に渡す。


「スラ君、これ食べててね」


 私は宿に戻ってからゆっくり食べよう。


 大通りをいつも通り屋台に向かうと、店は開いているんだけど、人通りが殆どなくて静かね……。


 市場へ向かう脇道に入ると、食堂や飲み屋も開いている……お客さんは少ないけど。


 屋台も朝と変わらず開いていた。これは助かるな~。


 ローザさんがスタンピードに慣れているって言ってたから、屋台や市場も普通に開いているのかもね。


 いつもの総菜パンを売っている屋台で、サンドイッチやホットドッグを多めに買った。


 でも、今はガッツリ惣菜パンより軽いのが食べたい気分だから、キラーラビットの塩焼きの串も買う。


「スラ君、宿に戻ったら串焼きを食べようね」


 プルルン!


 ふふ、お詫びにホットドッグも食べてもらおう。




 ◇◇

 翌朝、ローザさんに今日の宿泊代を渡して冒険者ギルドに向かう――スタンピード中は狩りに行けないから素泊まりです。


 ベールズさんから、今日もポーションを運ぶように言われて西門に来たけど、昨日とは違って緊張した空気で……門の外から聞こえる声が昨日より近い気がする。


 デリクさんにポーションの本数を伝えてから救護用テントに行くと、怪我人が多くて……騎士様もいる。今朝は冒険者の女の子が手伝っているみたいね。


「冒険者ギルドからポーションを持ってきました。机に置きますね」


「はい、「ありがとうございます」」


 2人の白いローブを着た人が、怪我人を見ながら返事をしてくれる。


 ――昨日も、ポーションを持ってくるたびに声を掛けたら、必ず2人とも「「ありがとうございます」」って言ってくれるから、「何か手伝わないと!」って思うのよ。


 机に行くと、昨日届けたポーションは……まだ残っているから慌ててギルドにポーションを取りに戻らなくても大丈夫ね。


 机の横を見ると、空箱とポーションの空き瓶が無造作に積んである――ここを片付けて、空き瓶を商業ギルドに持って行こう。


 運んできたポーションを机に置くと、白いローブを着た人――10代後半に見える茶色い髪をした若い男の子がこっちに来た。


 ポーションを一箱持って、疲れた顔で「助かります」と微笑むのよ……若いのに人格者? いい子ね。


【司祭は、見習いの頃から「感謝の気持ちを忘れずに」と教えられます。白いローブを着ているので、子供ではなく成人しています】


 ――どう見ても20歳には見えないけど成人しているのね。ビーさん、この世界の成人は何歳?


【15歳です】


 ――えっ! 中学3年で……その頃の私は、入っていたクラブを止めて帰宅部きたくぶだったな~。


 懐かしいなと思い出していたら、救護を手伝っている冒険者の女の子がこっちに来た。


 高校生くらいで、背は私より低くて155㎝くらいかな。明るい茶色の髪をポニーテールにした、大きな黒い瞳の可愛い女の子が話し掛けてきた。


「早朝にシルバーウルフの群れが出たみたいで、怪我人が多いんですよ……」


「シルバーウルフが? そうなの……」


【シルバーウルフは、フォレストウルフの上位種で、知能も攻撃力もフォレストウルフより高いです】


 ――ビーさん、説明ありがとう。その魔物は、異世界ファンタジーの話に良く出て来るのよ。


「はい……。『回復魔法』をもっと使えたらいいんですけど、私のMPはそんなに多くないんです。だから……」


 女の子は、朝の6時頃に救護テントに来て『回復魔法』を掛けていたけど直ぐにMPがなくなってしったと言う。


 ――ビーさん、MPが0になったらどうなるの?


【個人差はありますが、気分が悪くなったり意識がなくなったりします。倒れて怪我をする場合もあるので、MPの残量には気を付けてください】


 ……うん、分かった。気を付けます。


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