第18話 スタンピード①

 ◇

 スラ君を肩に乗せて冒険者ギルドに来た。


 ギルドの買取りカウンターには、目隠し用の衝立ついたてが置かれたの。これで、他に冒険者がいても気にせずインベントリからアイテムを出せるようになった。


 もしかして私の為に? って、思ってベールズさんにお礼を言ったら「違うぞ!」って耳が真っ赤になっていた。ふふ。


 でも、直接インベントリから出すのは、カウンターにベールズさんがいる時だけ(ほぼ9割がベールズさん)にしている。


「ベールズさん、買取りお願いします」


「おう! アスカ」


 ポーチやインベントリから魔核や狩った獲物を出していく。


「今日も頑張ったな~。何? フォレストウルフ……アスカ、森へ行ったのか?」


「いえ、森じゃなくて……」


 今朝、西門の警備兵さんから、北の街道でフォレストウルフが出た話を聞いて南の川の方へ行ったら、フォレストウルフが1体だけ現れたと話した。


「そうか、もしかしたら北の討伐から逃げたヤツがそっちまで行ったのかもな。フォレストウルフが1体で行動することなんてないからな」


 ベールズさんの言葉に頷く――うん、私もそう思う。


 ベールズさんが狩った魔物の状態を見て、手早く明細書を出してくれた。

―――――――――――――――――――――――――――――

【買取り明細】

・スライムの魔核(10ルギ)×20=200

・ラットの魔核(100)×6=600

・キラーラビットの魔核(100)×12=1,200

・キラーラビットの毛皮(500)×12=6,000

・キラーラビットの肉(300)×12=3,600

・ワームの魔核(100)×1=100

・カエルの魔核(100)×2=200

・フォレストウルフの魔核(500)×1=500

・フォレストウルフの毛皮(1,000)×1=1,000

―――――――――――――――――――――――――――――

 合計 13,400ルギ

―――――――――――――――――――――――――――――

【解体手数料】

・キラーラビット(300ルギ)×12=▲3,600

・フォレストウルフ(300)×1=▲300

―――――――――――――――――――――――――――――

 合計 9,500ルギ

―――――――――――――――――――――――――――――

 うわぁ~、今までで1番高額の買取り額よ!


 手取りで10,000ルギ稼げるようになったら少し余裕が出るかな。宿を毎日2食付きは贅沢だけど……2日置きならいいかもね。


「アスカ、ソロの稼ぎにしたら上等だぞ!」


「ありがとうございます。ふふ」


 ベールズさんの言葉も嬉しくて、顔がゆるんでしまうな。


 明細書にサインしてお金を受け取った。


「アスカ、フォレストウルフを狩れるなら、北の丘にいるリザードも狩れるんじゃないか? リザードの買取りは魔核が300ルギで皮が1,000ルギだが、フォレストウルフみたいに群れないから狩りやすいぞ」


「……リザードですか」


 ベールズさんが、フォレストウルフは少なくても2~3体、森の奥に行けば6~7体の群れで行動するからなと言う。


 ――スラ君と私で、フォレストウルフを6~7体狩るなんて無理ね。2体なら狩れそうだけど、3体だと厳しいかな? ビーさん、3体でも狩れそう?


【狩れます。6~7体のフォレストウルフの群れなら、アスカの『風魔法B』2回とスラ君の攻撃で倒せますが――今のアスカのMP量だと、直ぐにMPが足りなくなります】


 ……倒せるんだ。でも、MPが足りなくなるってことは、私が森で狩りをするのはまだ早いってことね?


【森の浅い場所での狩りなら問題ないです。不安なら、攻撃力のある魔物をテイムすれば、森の奥でも狩りが出来ます】


 ――そっか、強い仲間を増やせば良いのね。


 あ~、フォレストウルフをテイムすればよかったのかな……でもあの時、フォレストウルフを見て、テイムしようって思わなかったのよね。


 草原から狩り場を変えるなら森じゃなく、そのリザード狙いで北の丘がいいかもね。テイムしたくなる魔物がいるかも知れない……。


「アスカ、今回は1体だったから良かったが……アスカ、強い魔物をテイムするか、魔法のレベルがC以上なければ、森でフォレストウルフは狙うなよ!」


 ベールズさんにも強い魔物をテイムしろと言われるとは……えっ、魔法って……ベールズさんの言葉にちょっと驚いた。


 冒険者カードには私の名前と従魔しか書かれていないのに……。


 ベールズさんに、どうして私が魔法を使えることを知っているのか聞いた。


「お前な……見たら分かるだろう。ソロなのにナイフだけで剣を下げていない。そんなヤツが出した獲物の切り口が、スパッと鋭くて濡れてないってことは『風魔法』だ。それに、従魔がスライムとナイフだけじゃあ、ゴブリンやフォレストウルフは倒せんぞ」


「なるほど……言われて見ればそうですね」


 私ってけている? そんなことはないはず……。


【誰にでも気が緩むことはあります】


――えっと、ビーさん……ありがとう。


 ドカドカドカ――バタンッ!


 複数の足音がして、ドアを開ける大きな音に振り向くと――あわてた顔の冒険者たちが押し合って入って来た。30歳過ぎのベテランの冒険者に見える。


「ベールズのおやっさん! 不味いぜ、スタンピードが来るぞ!」

「いきなり森の魔物が増えやがったー!」

「おやっさん、「スタンピードだ!!」」


 入って来るなりベテランっぽい冒険者たちが大声で叫んだ。


 ……いきなりって、森へ調査に行った冒険者とは別かな?


【森で狩りをしていた冒険者たちだと考えられます】


 ――あぁ、森で。


「お前ら……魔物の異常発生じゃねーのか!? スタンピードだと……王都からは何も知らせは来てねーぞ!」


 うわっ、ベールズさんの顔が怖いです。低音ボイスのイケボが更に低くなって……ドスが利いている。ドアの向こうもガヤガヤしてきた……。


「ベールズ、執務室に来い! 調査に出ていた奴らが戻って来た!」


 ベテラン冒険者たちの後ろから声が掛けられた。


 ドアから半分体をのぞかせて叫んだのは、冒険者登録した時に受付にいたイケオジの職員で、ベールズさんに声を掛けると直ぐにどこかへ消えた。


 あの職員さんはデリクさんと言って、顔を見ると「お前、依頼を受けないと冒険者のランクが上がらんぞ」とか言って世話を焼いて来るのよ。


 「ランクは上がらなくてもいいんです」とは言い返せないから、いつも「ソロなので……」とか適当に返事をして逃げている。


「おう! デリク、直ぐに行く!」


 ベールズさんが返事をした後、じっと私を見て言うの。


「アスカ、お前はランクが低いからスタンピードの討伐とうばつには参加出来ないぞ。だが、雑用があるから明日の朝、俺の所に来い。いいな!」


 そう言って、私が返事をする前に買取りカウンターから出て行って、代わりに別の職員さんが入ってきた。


 ――言われなくても、スタンピードの魔物狩りに参加しようなんて思っていない。私には無理だって分かっているもの。雑用なら手伝えるだろうけど……明日の朝来いって強制なの?


【スタンピードが起きた場合、街にいるブロンズ(銅)以上の冒険者は強制参加で、騎士団と魔物の討伐に参加することになります。アイアン(鉄)の冒険者は、強制参加ではありませんが、街の中での手伝いや雑用があります。今の場合、ギルド職員のベールズが――少し強引ですが、アスカに雑用の手伝いをお願いしたと考えられます】


 ――うん、少し強引よね。でも……大変なのは分かるから、私に出来ることがあるなら手伝うよ。


 買取りカウンターの部屋を出たら、まだ早い時間なのに狩りから帰って来たのか、冒険者たちが入れ違いに買取り部屋へと入って行く。


 掲示板の前や食堂にも冒険者がいて、次から次へと冒険者がギルドに入って来る。


 ――混み合う前にギルドから出よう。


 ◇

 ギルドから出て宿に向かうと、街の人が……みんな足を止めて私の後ろの方を見上げて話している。中には、「スタンピードだー!」と叫んで慌てて走って行く人がいる――えっ?


 みんなの視線の先を……振り返って見たら、冒険者ギルドの屋上から赤い煙が上がっている。あれは……狼煙のろし


【はい。冒険者ギルドでは、スタンピードの前兆を確認したら、赤い狼煙を上げて狩りに出ている冒険者たちや住民に知らせます】


 ――そっか、狩りに出ている冒険者に知らせないと危ないものね。


 冒険者たちは、あの狼煙を見てギルドに戻って来るのね。





―――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

読んで頂いてありがとうございます。


皆様のおかげで、本日、カクヨムコン10『異世界ライフ部門』の週間ランキングの1ページ目に『異世界でテイマーになりたい』が載っていました。ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る