第16話 今日は南の川へ

 ◇◇◇

 この世界に来て2週間が過ぎた。


 毎日、コツコツ狩りをして経験値を溜め、やっとこの前インベントリのマスを1個増やせて11マスになったの。


 それでも収納スペースが足りなくて――安くて大きなトートバッグみたいなのを買って、スニーカーやタオル・服類を詰め込んでインベントリに入れている。これでインベントリの空きが少し増えた。


 これでマスが足りないようなら、おにぎりとペットボトル水もトートバッグに入れるつもり。お金もね。


 お金も少し貯まったので、長袖の生成きなりのTシャツと黒のチノパンみたいなのを買って、狩りに行く時はそれを着ている。


 着ていた黒のスエットはパジャマにもどして、パジャマ用のグレーTシャツは時々着ている。


 毎日『ウオッシュ』で洗っていても、同じ服を毎日着るのは抵抗がある(マントを付けているから誰も見ないだろうけど)……今までは着替えがなかったからね。


 そうそう、スキルポイントが増えたから『聖魔法C』を覚えたのよ! 


 『聖魔法C』を覚えた後の『ウオッシュ』は、それまでと違って消毒効果が追加されたせいか、体が一瞬でスッキリしたって感じるの。


 例えるなら、そうね……夏場、汗をかいて冷たいシャワーを浴びた時のような? 爽快感っていうのかな~。うん、魔法って凄いね。


 スラ君にも毎日『回復魔法』と『ウオッシュ』を掛けているけど、水に浮かぶのが好きみたいだから、毎晩、水を入れたバケツを用意している。


 朝には、バケツの水が空になっていて、スラ君はショルダーバッグの中にいるけどね。ふふ。


 水には困らないから、インベントリの空きを作る為にペットボトルの水を全部飲んでしまおうかとも思ったんだけど、貧乏性で……いざと言う時の為にそのままキープしている。何かあったらって思ってしまうのよね。


 そして、この2週間でステータスのHPとMPが増えて、前みたいにMPがギリギリになることはなくなった。


 攻撃力も『F』から『E』に上がったの。魔物を攻撃する時にナイフや剣は使っていなくても、大人なら女性でも『E』までは上がるってビーさんが教えてくれた。


 それ以上は、剣で魔物を倒したら上がるそうだけど、インベントリにある片手剣を持ってみたけど、結構重くて……あれを振り回すなんて普通の主婦には無理がある。


 両手で動かないまとなら……あぁ~、学生時代に運動系のクラブ(テニスとか)をやっていたら、腕に筋肉が付いているだろうから上手く使えるかもね。


 私より、スラ君のステータスが上がったの! 前にビーさんに鑑定してもらった時のステータスと比べたらこんな感じ。

――――――――――――――――――――――――――――

名前 スラ君 [スライムF→E・アスカの従魔]

HP 11/11→24/24

MP 20/20→32/32

・攻撃力F→E ・防御力E→D ・精神力E→D ・敏捷性F→E

スキル

・水耐性 ・水魔法―New ・突進―New

―――――――――――――――――――――――――――――


 凄いよね~。スラ君がゴブリンを吸収した翌日、『スライムF』が『E』になったの。


 それから毎日のようにHPやMPが増えて、他のステータスも上がって――そしてある日、スラ君が『水魔法』を撃つようになったのよ!


 スキルの『突進』は……スラ君が良く"体当たり"するからスキルが派生したのかもね。


 さあ、今日も狩りに行こう。


 服を着替えて装備を付け、スラ君が入っているショルダーバッグを肩から掛ける。


 マントを付けて、短い髪が見えないようにフードを深く被って準備完了。


「スラ君、狩りに行こう」


 スラ君がショルダーバッグの中でプルルンと返事をしている。


 スラ君は探さなくても、朝起きたらいつもバッグの中にいるの。ふふ。


 部屋を出て、1階にいる女将さんに今日は2食付きでお願いしますと言って6,000ルギを払う。


「分かったよ。アスカ、気をつけてね」


「はい。ローザさん、行ってきます」


 女将さんの名前はローザさんと言って、若い頃は冒険者をしていたんだって。


 食堂で料理を作っているのが旦那さんのジャックさん。無口な人で、何度か顔を見たことあるけど声は聞いたことがない。料理が上手で、食堂で出しているパンもジャックさんが焼いているそうです。


 屋台の総菜パンも美味しいけど、宿で食べるパンの方が美味しいのよね~。だから、時々2食付きにしている。


 狩りに行ったら6,000ルギは稼げるけど、余裕がないから毎日食事付きはキツいのよ。


 だから、相変わらず節約生活――と言っても、節約生活は日本にいた頃と変わらない。むしろ、日本で生活していた時に比べてストレスがほとんどどないから苦にならない。楽よ。


 それに、毎日スラ君に癒やされているからね~。ふふ。


 ◇

 西門に向かうと顔見知りの警備兵さんがいた。初めてこの街に来た時にいた年配の警備兵のオリバーさんと若い警備兵のニールさん。


「オリバーさん、ニールさん、おはようございます」


「おう! アスカ、今日は街の北側には行くなよ。昨日、北の街道で森にいるはずのフォレストウルフの群れが昼間から出たらしいぞ」


 えっ、フォレストウルフ?


【フォレストウルフは森にいる狼の魔物です。薄明薄暮性はくめいはくぼせいの行動――明け方や夕暮れに行動が活発で、昼間に街道まで出てくるのは珍しいです】


 ――そうなのね。


「アスカ、おはよう。今朝早くに、騎士団が街道の魔物狩りに出たから大丈夫だと思うけど、オリバーさんの言う通り北側には行かない方がいいよ」


「はい、分かりました。教えてくれてありがとうございます」


 今日は南の川の方に行きますと言って門を出た。



 ……あれって、"フラグを立てる"ってやつだよね。


「スラ君、今日はフォレストウルフが出て来るかも。気を付けようね」


 スラ君が、ショルダーバッグの中でプルルンと返事をしてくれる。


 このショルダーバッグはダミーのアイテムバッグとして買ったんだけど、スラ君が気に入っていつも入っている。


 狩りが始まると飛び出すんだけどね。ふふ。





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