第14話 ゴブリン

 ビーさんの合図で、いつでも魔法を撃てるように手を前に出して集中。


 片手剣を持った2体のゴブリンが、少し速足になって近付いて来た。


【アスカ、ゴブリンが30メートル以内に入りました】


 ――了解! 右のゴブリンに手を向けて集中。


「『風魔法C』――!」


 シュー、シュババッー!


『ギャギャー!!』


 大きな複数の風の刃が、右側のゴブリン目掛けて撃ち込まれ、スラ君が傷だらけになったゴブリンに体当たりをして、直ぐに触手を振り上げるのが見える――バチーン!


『グッフォ……』

『ギャ!? ギャギャー!』


 左のゴブリンが、スラ君が攻撃しているゴブリンを見たと思ったら、剣を振りかざしてこっちに突っ込んで来た――うわっ、来た!


 慌てて手を向けて――「あのゴブリンに『風魔法C』! 当たれ!」


 シュー、シュバババッー!


『ギャギャー! グエッ……』


 ふらついたゴブリンに、続けて『風魔法E』を撃とうとしたら、いつの間にか追いついたスラ君が体当たりしてゴブリンを倒した。


「スラ君!」


 触手を振り上げて倒れたゴブリンに――


 バッチーン!


 あっ、ゴブリンが動かなくなった……。


 ビーさんに、ゴブリンのHPが0なのを『鑑定』で見てもらってから近寄る。


 ……うっ、肌の色は緑じゃないけど、少し浅黒いと言うか褐色かっしょくと言うか……そんな肌の色をしている。


 顔はマンガに出て来るゴブリンと同じで、ギョロリとした大きな目と鼻、口も裂けているみたいに大きくて、耳の先がとんがっている。


 ――ビーさん、ゴブリンに買い取ってくれる部位はあるの?


【ゴブリンの買取りは魔核のみで、300ルギです】


 ……魔核はスラ君に取り出してもらおうかな。討伐証明に右耳とか言われなくて良かった。


「スラ君、さっきのラットみたいに、ゴブリンの魔核だけを取り出して欲しいの。出来るかな?」


 スラ君が横でプルルンと返事をして、ゴブリンの上半身を包み込むように体を広げていく。


「お腹いっぱいだろうから、ゴブリンの死骸は食べなくてもいいからね」


 直ぐに、スラ君が魔核を取り出してくれたのでポーチに入れた……ゴブリンの魔核はグレーで、スライムやキラーラビットより少し大きい。


 生活魔法の『土』を使って、ゴブリンを埋める穴を掘ろう。


「スラ君、ありがとう。もう1体のゴブリンの魔核もお願いね」


 スラ君に声を掛けて、ゴブリンの近くで生活魔法の『土』を使うと、バケツくらいの大きさの穴が掘れた。


 ……ゴブリンを埋める穴の大きさにするには時間が掛かりそうね。ビーさん、『土魔法』を覚えるべきかな?


【ゴブリンを埋める程度の穴を掘りたいのであれば、覚えるのは『土魔法E』で十分です】


 ――『土魔法E』ならスキルポイントは1Pで済むから、それなら……ん?


 スラ君を見ると、ゴブリンから離れずにプクプクと吸収を始めた。


「えっ、スラ君まだ食べるの……?」


【スラ君は、格上の魔物を吸収すると強くなることを本能で知っているのでしょう】


 ――格上の魔物を食べたら強くなるんだ。そう言えば、冒険者ギルドの受付の人が、スライムもレベルが上がるって言ってたね。


 スラ君は、2体目のゴブリンも魔核を取り出して食べてしまった。ゴブリンが持っていたボロボロの片手剣もよ……本当に、何でも食べるのね。


 それにしても、スラ君が食べたゴブリン2体はどこに消えたんだろう……? スラ君の大きさは変わらないのよ、不思議ね~。


【スラ君の体内で、凝縮ぎょうしゅくされた魔素・魔力になっています】


 ――よく分からないけど、凄そうね。


 その後はゴブリンに遭遇することもなく、スライムやキラーラビットを狩りながら西門が見える所まで戻って来た。


 ビーさんに聞いたら、まだ午後の3時頃だけど、もうMPが殆ど残ってないので街に戻ることにした。


 スラ君を抱っこして、西門の警備兵さんが朝の警備兵さんじゃなかったので、冒険者カードを見せて街の中に入る。


 ◇

 冒険者ギルドの買取りカウンターの部屋に入ると、冒険者パーティーが1組だけいる。


 窓口は2つあるんだけど職員は1人で――昨日のスキンヘッドの職員さんだ。


 冒険者たちは、買取りが終わって部屋から出て行った。


「次ー! おっ、昨日のお嬢ちゃんか!」


 低音のイケボが部屋に響く。


 お嬢ちゃん……昨日、男と間違えたから、えて言っているのね。もう怒ってないですよ。


「……こんにちは。買取りをお願いします」


 ポーチから魔核を出して、部屋に他の冒険者がいないのを確かめてから、キラーラビットをインベントリから取り出していく。


「おいおい、『収納』は隠せって言っただろう。聞いてなかったのか?」


「他に誰もいないので、もう知っている職員さんになら、見られてもいいかなと……」


「お前なー……、俺はベールズだ。おっ、ゴブリンも倒したのか? なかなかの腕前だな!」


「……ベールズさん、ありがとうございます」


 スラ君が頑張ったからね。

―――――――――――――――――――――――――――

【買取り明細】

・スライムの魔核(10ルギ)×14=140

・ラットの魔核(100ルギ)×5=500

・キラーラビットの魔核(100ルギ)×10=1,000

・キラーラビットの毛皮(500ルギ)×10=5,000

・キラーラビットの肉(300ルギ)×10=3,000

・ゴブリンの魔核(300)×2=600

―――――――――――――――――――――――――――

 合計 10,240ルギ

―――――――――――――――――――――――――――

【解体手数料】・キラーラビット(300ルギ)×10=▲3,000ルギ

―――――――――――――――――――――――――――

 合計 7,240ルギ

―――――――――――――――――――――――――――


 やった! 目標の6,000ルギを超えている。ふふふ。


 サインして大銅貨7枚・銅貨2枚・鉄貨5枚を受け取った。


 解体手数料は取られるけど、キラーラビットが1番良い買取り額ね。1日10体狩ったら宿代と食事代は稼げるから、明日も頑張ろう。



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