第11話 肉体年齢

 ちょっと落ち着こう……。


 見た目が若返って、顔が少し異世界仕様になっても……超・美人や美少女になったわけじゃない。中身アラフォーのおばちゃんは、変わらないからね。うん。


 それに、自分の顔だから「目鼻立ちがハッキリにー!」って思うけど、この世界の人はみんな彫りの深い顔をしているから、それに比べたら普通の顔だと思う。


 ……私を知っている人が見たら、内心で「整形したな!」って思いながら「あ~、せたね……」って言われそう。ハハ……ハ。


 えっ……まさか、年齢に引きずられて精神年齢も下がるとか? そんな話もあったよね……あれは転生した子供や幼児だったけど。


【個人差はありますが、精神年齢が肉体年齢に近くなるのは、ストレスを回避し自分を守る為の防衛機制の1つです】


 ……防衛、自分を守る為なのね。じゃあ私も……あっ、ギルドで心の声が乱れたり、顔を見て取り乱したりしたのがそれかもね……。


 26歳頃の私って……今と変わらない気もするけど、あの頃は……結婚していたけど仕事が大変で、数字(売上目標)に追われていたなぁ……家事も大変だったけど。


『数字を追いかけている時は楽しいけど、数字に追われたらキツいのよね~……』


 先輩が、そんな事を言っていたけどその通りで、気をつけないと……心も体もんでいくのよ。


 何か、どっと疲れた……。


 私の百面相を見て、お店のお兄さんが変な顔をしているけど気にしない。


「スラ君……宿に戻るよ……」


 スラ君が、バッグの中でプルルンと返事をしてくれる。ふふ。


 フードを深く被って店を出た。


 ◇

 部屋に戻って、18時になって直ぐに食堂へ行く。今日は、午前中におにぎりを1個しか食べていないからお腹がすいたのよ。


「スラ君もお腹が空いたかな?」


 声を掛けたら、スラ君はバッグの中でプルルンと返事をする。ふふ、反応してくれるのが嬉しいね。


 食堂に行くと、まだ時間が早いからか人が少ない。


 カウンターのはしに座ると、女将さんが料理を持って来てくれた。


「今夜の料理はキラーラビットのトマト煮込みだよ。パンはおかわり出来るからね」


 別料金でエールやワインもあるって言われたけど、無料のお水があるからこれでいい。


「いただきます」


 キラーラビットのトマト煮込みは、カレー皿みたいな深皿に入っていて、ジャガイモやニンジン・きのこもたっぷり入っている。良い香り~。


 フォークで肉を口に入れると、柔らかくて口の中で崩れていく……美味しい。あぁ、これはワインが欲しくなるなぁ。我慢するけどね。


 パンは――握りこぶしより大きいキツネ色の丸パンが、木のお皿に2個入っている。


 丸パンを千切ちぎると、周りはカリッとしているけど中はフワフワで田舎パンみたい。小説で書かれているような硬いパンじゃない……これも先輩たちのお陰かもね。


 キラーラビットのトマト煮込みもパンも美味しいけど、私には量が多いな。トマト煮込みは半分の量で、丸パンは1個でいいかな……ワインは欲しいけどね。


 丸パンを半分に千切って中をいて、そこにキラーラビットのトマト煮込みを詰め込む。


「スラ君、ご飯よ」


 バッグにいるスラ君に声を掛けると、スラ君が背伸びをして、私の手からパンを受け取った。


 スラ君はパンを体内に吸収すると、丸い形になって動かなくなる。ふふ、プクプクとパンを食べている。


「スラ君、もう半分あるからね」


 ◇

 食堂からの帰り、手洗い場でバケツとおけに水を汲んで来た。


 ――試しに『生活魔法』で水を出してみたら、バケツの半分くらい出たよ。ビーさんに聞いたら、この水は普通に飲料水として飲めるんだって。


 桶は机に置いて、バケツは机の横に置いてスラ君に声を掛ける。


「スラ君、水浴びするならバケツを使ってね」


 スラ君は、プルルンと返事をするとバッグから出て、バケツによじ登って中に入った……丸い頭がプニプニと動いているのが見える。ふふ。スラ君に『回復魔法』も掛けておこう。


 私はビーさんに教えてもらいながら、『生活魔法』の『火』を使って桶のお水を温めて、タオルで体を拭く。


 その後、また水を汲んできて、部屋でタオルや下着を洗って水はトイレに流し、洗った衣類を『生活魔法』の『風』で軽く乾かして机や椅子に広げる。


 明日には乾いているだろうけど、毎日これだと大変ね……ビーさん、体や汚れた服を綺麗にする『浄化魔法』って覚えられないのかな? 小説やマンガによく出てくる魔法なのよ。


【アスカは『風魔法B』を覚えているので、スキル『水魔法C』以上を覚えたら生活魔法がレベルアップして『浄化魔法』の『ウオッシュ』を使えるようになります。後、『聖魔法C』以上を覚えたら、『ウオッシュ』に消毒効果も追加されます】


 ――えっ、後『水魔法C』を覚えたら使えるのね。ビーさん、教えてくれてありがとう~! 消毒効果も欲しいわね……スキルを覚える優先順位を考え直さないとね。


 ステータスを見ると、スキルポイントは7Pある。


 【獲得可能スキル】を見ると――『水魔法C』を覚えるには1P+3Pで4Pいる。『聖魔法C』は3P+5Pで8P、合わせて12Pか……。


 本当は、スキルは一気にレベル『A』を覚えた方がスキルポイントの消費は少ないんだけど、ポイントを稼ぐのに時間が掛かりそうだからね。


 今回は『水魔法C』と『聖魔法C』を覚えよう。後5P……まだ倒していない魔物を倒さないと……明日、頑張ろう。


 はぁ~、今日は色んなことがあったな……ふぁ~。


 ああ、先に『水魔法C』を覚えて『ウオッシュ』を使えるようにしてもいいのか……。ふぁ~……覚えるのは明日にしようか……今日はもう眠い……。


「スラ君、ビーさん、おやすみ……」


 ……かぼちゃパンツの履き心地は、微妙。


 ……解放感はあるけど、


 ……チクチクする。


 ……Zzz




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