第10話 買い物先で鏡を見たら……

 歩いていると、時々、すれ違う人が私を見てくる……髪が短いからね。


 教えてもらった女性用の服屋に入ると、店主らしいおばさんに「プレゼントかい?」って聞かれたので「自分のです」と答える。


「えっ、あぁ……そうかい」


 おばさんはそれ以上声を掛けて来なかった。男だと思って声を掛けたから気まずいよね。


 あ、タオルも売っている。バスタオルはないけど、普通のタオルの大きさで大銅貨2枚……ゴワゴワした手触りなのに、1枚2,000ルギってイイ値段よね。


 女性用の肌着は……タンクトップとスポーツブラみたいなのが売っていたけど、大銅貨4枚~6枚もする! ビーさんに素材を鑑定してもらったら綿だった。


 ショーツは……この形はドロワーズね。提灯ちょうちんブルマの丈が長いのと短いのがあって、短い丈のはかぼちゃパンツとも言うのよ。色は白しかない。


 ……この世界の人はこれを着るんだ。えっ、大銅貨4枚~7枚もする! あぁ、この世界は布が高いのね。


 服は――綿っぽいTシャツが大銅貨6~7枚、長袖で7~8枚……高いな。私はいつも、量販店で2,000~3,000円のTシャツを買うんだけど。


 欲しい物をあれこれ買ったら、神様からもらったお金が直ぐに無くなってしまうから――最低限必要なタオル1枚(2,000ルギ)と、かぼちゃパンツ(4,000ルギ)を1枚だけ買って、Tシャツは我慢しよう。


 かぼちゃパンツのサイズは……紐で結ぶタイプだからフリーサイズかな? きっとブカブカね。


【店売りしているドロワーズのサイズは子供用とMとLで、それ以外はオーダーメイドになります】


 ……ビーさん、そんなことまで知っているんだ。


 と言うか、先輩……ゴムを作ってないの?


 ◇

 服屋で買い物を済ませて、宿屋で聞いたバッグを売っている雑貨屋に向かっているんだけど、ちょっと問題が発生した。


 タオルとかぼちゃパンツをインベントリに入れたら、インベントリの空きがなくなってしまったの。

―――――――――――――――――――――――――――――

【インベントリ(時間停止付き)】10マス×各10個:空き0

・おにぎり×8

・水のペットボトル×9

・片手剣×1

・銀貨(10,000ルギ=約1万円)×9

・大銅貨(1,000ルギ=約1,000円)×7

・スニーカー×1

・銅貨×2

・鉄貨×4

・タオル×1

・ハーフドロワーズ×1

―――――――――――――――――――――――――――――

 う~ん、銅貨と鉄貨はポーチに入れよう。これで2マス空くね。


 経験値が溜まったらインベントリのマスを買おう。インベントリに空きがないと、狩りをする時に困るからね。


 ◇

 次は、教えてもらったカバンを売っている雑貨屋で、お店の人にアイテムバッグに似ているバッグはありますかと聞いた……アイテムバッグを見たことないから、聞いた方が早い。


「それだと、肩から下げるこれかなー」


 見せてもらったバッグは、縦30㎝×横35㎝位のマチの付いた麻っぽい布の四角いショルダーバッグで、値段は2,000ルギ。これは手頃な値段ね。


 ショルダーバッグを斜めに掛けてみる。


「スラ君、このバッグに入ってみて」


 右肩に移動していたスラ君が、ズルズルとショルダーバッグに入ると、すっぽりと中に入った。


 スラ君は、外を見るようにバッグの中で伸びたり、丸くなったりしている。ふふ。


「このバッグ、買います」


 バッグを掛けたままお金を払って、お店の人にフード付きのマントを売っている店と市場の場所を聞くと、市場の方がここから近いみたい。


 ◇

 店を出て市場に向かう。


 どんなものが売っているのか楽しみね。スラ君はバッグを気に入ったのか、入ったままで出てこない。ふふ。


 歩いていると、時々、すれ違う人にチラッと見られる。ん……もしかして、見ない人は私を男だと思っているのかな?


【すれ違う人、全員がアスカを見てはいませんが、数名はアスカを男性だと認識している可能性はあります】


 ――それでもいいかな。しばらく街にいるつもりだから、「ねえ、見た? 髪の短い女の人がいたよ!」って噂になるのは遠慮したい。


 そう考えると先にマントを買った方がいいのかと思うけど、色気より食い気なのよね。市場が気になるのよ。



 市場に近付くと屋台がいくつも並んでいる。串焼きやスープ、野菜炒めみたいな惣菜を売る屋台があって、お祭りみたいね。


 値段もお手頃で、串焼きが銅貨2~5枚、スープや惣菜も銅貨3~5枚位で売っている。屋台料理が200~500ルギで買えるなんて安いよね。


 宿の食事代は、朝夕の2食で大銅貨2枚の2,000ルギだった。それだけあれば、屋台でかなり買えるから、宿は4,000ルギの素泊まりにして、食事は屋台で買えば節約出来るね。


「スラ君、ちょっと肩に乗ってくれるかな。買った物をバッグに入れるから」


 串焼きの屋台で、200ルギのキラーラビットのタレの串焼きを買うと、茶色い紙袋に串焼きが2本入っていた……串焼き1本100ルギって安いね~。


 ショルダーバッグに入れる振りをしてインベントリに入れた。これは明日の昼に食べよう。


 市場の直ぐ近くに惣菜パンを売っている屋台があった。ボリュームのあるサンドイッチやホットドッグが並んでいて、銅貨3~5枚で売っている。


 ……しまった。串焼きじゃなく惣菜パンを買えば良かった。次はこの屋台で買おう。


 市場に着くと、見たことある野菜が並んでいる。


 英語をもじったような名前で、ビーさんに鑑定してもらうと同じ食材だった。オニオ(玉葱)やキャロ(人参)とか、あっ、トマトとか、同じ名前の野菜もあるね。


 調味料も色々あって、値段は高いけど味噌や醤油まで売っている。えっ、あっちにはお米まであるよ……これはきっと、先輩の<渡り人>のお陰ね。お金とインベントリの空きに余裕が出来たら、醤油を買おうかな。


 そろそろ、教えてもらった防具屋に向かおう。マントを買うなら、防具屋のマントが丈夫らしい。


 ◇

 教えてもらった店は、冒険者ギルドの裏辺りにあるんだけど、裏通りには武器屋や薬屋もあって、薬屋のショウウインドウにはポーションが飾ってあった。


 ……ポーションだ。この世界には、何でも治るって言うエリクサーもあるのかな?


【この世界にエリクサーは存在しますが、今現在、作れる薬師はいません】


 ――あるのね。何かのスキルレベルが高くないと作れないとか?


【はい、その通りです。エリクサーを作るには、スキル『調合』のレベルだけではなく『錬金術』のレベルも高くないと作れません】


 ――ふう~ん。私のステータスにある【獲得可能スキル】には、魔法みたいに魔物狩りに必要なスキルしかないけど、それ以外のスキルもあるのね。


 あっ、ビーさん、あるのね?


【はい、他にも色々なスキルがあります】


 ――魔法のスキルがあるんだから、あっても不思議じゃない。


 薬屋の中を見てみたいけど、所持金が少ないからちょっと敷居が高い。あの飾っていたポーションは、値段を書いてなかったしね。


 もう少し稼いだら、ポーションを買いに行こうかな。


 ◇

 教えてもらった防具屋に来たけど、マントには全部フードが付いていた。


 色が黒と生成きなりの2色しかなくて、値段は9,000ルギと、13,000ルギの2種類ある。


 お店のお兄さんにどう違うのか聞いたら、高い方のマントは防水加工されているとか……マントは買うって決めていたけど、どっちにしようか悩む。


 う~ん、雨の日に狩りに行くことはないけど、途中で雨が降ってくることはあるよね……ここでケチると後悔しそうだから防水マントにしよう。


 はぁ……しばらくは節約生活ね。色は黒にして、ショートカットの黒髪を隠す為に買うからね。


 試着すると少し丈が長いけど、地面に着かないからいいか。裁縫道具があったら自分で縫い上げるんだけどね。


「このマント、買います」


 マントを着たまま、お店のお兄さんにお金を払う。


 フードを被って、髪の具合をチェックしようと店の鏡を見たら……ん?


 ……ええっ? 何……、この顔……?


【アスカ、質問の意味が理解できません】


 ……えっと、神様は5歳から10歳くらい若くなるって言っていたけど、目鼻立ちがシュッーって、なっているのよ! シュッーって!


 どこにでもいるような普通の……年相応の顔だったのに、堀が深くなっている!? これじゃあ……まるで……何で?


【神の言葉は聞いていませんが、データーには、で肉体が実年齢より若くなるとあります】


 ――あ~、神様の話はビーさんを覚える前だったね。ん? 怪我の程度……顔がこんなに変わっているって事は、もしかして……私はかなり酷い怪我をしたってこと?


【はい、そうだと思われます】


 ……そっか。


 ……ねえ、ビーさん、私の体の年齢って分かる?


【初期設定のステータスのHPが26なので、アスカの肉体年齢は26歳です】


 ええーー! 一回り以上若返っているし!


 ……自分の顔だけど、堀が深くなって別人みたいで……違和感があり過ぎる!


 知り合いに見られたら……絶対に整形したって思われるー!


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