第9話 はじめての収入
「お前……女か!?」
ムッ、イケボのスキンヘッドが失礼なことを言いやがった! お前、どこを見て! あっ……ついカッとなって……心の声が乱れてしまった。
はぁー、久しくこんなことはなかったのに……反省。声に出なかっただけ良いわよね?
【はい、問題ありません】
――ビーさんが同意してくれるのが嬉しい。
オッホン! ええ、女ですよ。髪はショートボブだけど、出る所もちゃんと出ています。
大きくはないけど……。
しっかりした分厚い革のベストでちょっと分かり
ええ、あるんですよ。ちゃんとね!
「……はい、女ですよ」
「髪の短い女なんて、この街にはいないからな。スマン」
「えっ……いえ」
髪が短いから男だと思ったの? 髪型はショートボブだけど、そう言えば……異世界物の話では、長い髪の女性ばかり出て来たな。特に貴族が出て来る話ではね。
昔の日本もそうだったけど……ビーさん、この世界は短い髪の女性って少ないの?
【はい。昔から、この世界の女性は髪を長くして、美しく
――あ~、門の警備兵や街に入ってから視線を感じたのは、日本人の顔じゃなくこの髪のせいなのね。
さっき、ギルドの受付でジロジロ見られたのも、私の髪が短かったから……。初対面で髪が短いと、男だと思われても仕方ないのか……じゃあ、許してあげます。
ジロジロ見られるのは嫌だから髪を伸ばさないとね。フード付きのパーカーを……あっ、フード付きのマントを買おう。
「あの……買取りをお願いします」
「おう、カウンターに出してくれ。冒険者カードもな」
スキンヘッドの職員さんの声を聞くと、ゾワッとする。イケボめ……まぁ、そのうち慣れるかな。
さっき作ってもらった冒険者カードを渡した。
そうだ――ビーさん、インベントリは<渡り人>だけが持っているのかな? アイテムを出す時、分からないようにした方がいいの?
【インベントリを持つのは<渡り人>だけですが、スキル『収納』を持つ人はいます。収納出来る魔道具やアイテムバッグも出回っていますので、ポーチを収納出来る魔道具だと
――そっか、分かった。『鑑定B』を覚えて良かった~。ビーさんがとっても頼りになる。
カウンターに、この街に来るまでに倒したスライムの魔核4個を並べ、2体のキラーラビットをポーチから出す振りをして置いた……魔核は小さいからいいけど、キラーラビットを出すのが難しい。
「キラーラビットはそのままか。1体300ルギの解体手数料を貰うぞ」
解体手数料の300ルギが高いのか安いのか分からないけど、私には解体は出来ないからお願いするしかない。
「……はい」
返事をすると、間もなく買取り価格を書いた明細書が出て来た。
―――――――――――――――――――――――――――――
【買取り明細】
・スライムの魔核(10ルギ)×4=40
・キラーラビットの魔核(100ルギ)×2=200
・キラーラビットの毛皮(500ルギ)×2=1,000
・キラーラビットの肉(300ルギ)×2=600
――――――――――――――――――
合計 1,840ルギ
――――――――――――――――――
【解体手数料】・キラーラビット(300ルギ)×2=▲600ルギ
――――――――――――――――――
合計 1,240ルギ
―――――――――――――――――――――――――――――
えっ、スライムの魔核が安い。1個10ルギって日本円で約10円だよね。それで合計が1,240ルギ……。ん~、初心者が1時間程で約1,240円を稼いだと思えば良い方かな。
スキンヘッドの職員さんに、「買取りはこの金額になるが、いいか?」と聞かれて頷いたら、明細書にサインするように言われた。
サインをして冒険者カードを返してもらい、1,240ルギ=大銅貨1枚と銅貨2枚・鉄貨4枚を受け取る。
……ふふ、異世界で稼いだ初めての収入よ。ちょっと嬉しい。
「おい、新人。スキルの『収納』は隠した方がいいぞ。下手過ぎて、そのポーチがダミーだとバレバレだ。大きなリュックか、アイテムバッグに似たバッグを買ってダミーにしろ。アイテムバッグなら、ブロンズ(銅)の冒険者なら殆どの奴が持っているからな」
バッグに手を突っ込んで中でアイテムを出すか、バッグから手を出す瞬間にアイテムを出すんだと言われた。
「うっ、下手過ぎ……。はい……」
バレていた。スキルは『収納』じゃないんだけど、忠告ありがとうございます。
スキンヘッドの職員さんに、従魔と一緒に泊まれる少し良い宿を聞いたら、紙に地図を書いて
◇
大通りから脇道に入って、教えてもらった宿に行くと、3階建ての立派な宿だった。
宿に入ると、
「2食付きでお願いします」
「あいよ! 代金6,000ルギは前金でもらうよ」
女将さんに宿代を払うと、壁にある時計を指して夕食は18時~21時で、朝食は6時~9時の間に食堂に来るように言われた。
――時計は日本にあるのと同じで、丸くて1から12の数字がある。私は時計を持っていないけど、時間はビーさんに聞いたらいいね。
でも、何でビーさんは時間が分かるんだろう……この世界に電波時計で使う標準電波なんてないだろうから、太陽の位置かな?
【正解です。時間を聞かれたら、現在地と太陽の位置を測って時間を割り出します】
――割り出す……なんか凄いね。
女将さんに、従魔の食事代は別料金だと言われたけど、1人前を全部食べられるか分からないから、食事はスラ君と半分こにしよう。
外で食べる1人前の量は、いつも私には少し多いからね。足りなければ、インベントリにおにぎりがある。
「従魔の食事はいらないです」
「そうだね、スライムなら公園の草でも食べさせればいいよ」
女将さんが私の抱いているスラ君を見ながら言う。
……公園の草。う~ん、スラ君が勝手に草を食べるのはいいけど、ご飯に草を食べてとは言えないかな。
宿にはお風呂もシャワーもなくて、各階にある手洗い場にバケツと
――あぁ、タオルで体を拭く
タオルのレンタルが銅貨1枚で、お湯がいるならバケツ1杯で銅貨1枚、必要ならいつでも声を掛けてと言われた。
――ビーさん、バケツに汲んで来た水を、生活魔法の火を使って温められる? 無理なら『火魔法E』を覚えるけど……。
【生活魔法を何回か使えば、バケツ1杯程度なら温められます】
――良かった。
女将さんから部屋は2階だと言われ、
まだ時間が早いから、部屋を見たらタオルを買いに行こう。値段次第だけど、フード付きマントと着替えの服や肌着、ダミーのバッグも欲しいな。
部屋に入ると、トイレ付きの8帖ほどの広さで、小さな窓が1つとシンプルな木のベッドに机と
素泊まりで4,000ルギ……約4,000円なら十分よね。
「さて、スラ君、買い物に行くよ~」
スラ君が、私の腕の中から左肩まで移動した。重くなくて収まりはいいけど、
「スラ君、肩が凝りそうだから1時間位したら右の肩に移動してね」
スラ君が肩の上でプルルンと返事をした……あっ、それ気持ち良いな。
1階で女将さんに、女性用の服屋とバッグやカバンを売っている店を教えてもらうと「細い道は入ったらダメだよ。変なヤツがいるからね」と言われた。
分かりましたと、鍵を渡して出かけようとしたら、
「髪が短くても女だってバレるからね。危ないから、暗くなる前に帰ってくるんだよ」
と更に声を掛けて来るから、振り向いて「……はい」と頷いた。
女1人だから心配してくれるんだろうけど、何だか子供扱いされているみたいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます