第8話 冒険者ギルドへ

 スラ君を抱えて<フォス>の街に入ると、街並みは中世のヨーロッパみたいな感じの石やレンガを積み上げた家が多くて、落ち着いた色合いの建物が多い。


 大通りの道は舗装ほそうされていないけど、道幅は広くて車が2台余裕で走れそう。


 あ、馬車だ。そっか、車があるのは他の国だってビーさんが言ってたね。


 人通りは割と多くて、茶髪と金髪の人がほとんど……黒髪の人もいるけど、顔は西洋人みたいな彫りの深い人ばかりね。


 チラチラと見られている気がする……あ~、日本人の平べったい顔だから、余所者よそものだと分かるのね。


 しばらく――真っ直ぐに歩いて行くと、大通りが交差する右側の角に、冒険者ギルドの看板が見えてきた。


 なぜ冒険者ギルドの看板だと分かるのかと言うと、看板には剣と盾の絵が描いてあって、絵の上にうねうねした知らない文字が書いてあるんだけど、「冒険者ギルド」って読めるのよ。


 ……これがスキル『異世界言語』の効果ね。海外旅行に行く時や、海外の映画を見る時にあったら便利よね~。


 冒険者ギルドは2階建ての建物だけど、家の近所にある少し大きなスーパーくらい敷地が広い。


 観音かんのん開きの木のドアを押して入ると、中は広いんだけど閑散かんさんとしている。静かね、時間が昼前だからかな?


【はい。冒険者ギルドでは、早朝と夕方から夜に掛けて冒険者で混み合いますが、それ以外の時間帯は人が少ないです】


 ――そうなのね。


 正面に受付カウンターがあって、左側が食堂かな……数人の冒険者風の人がジョッキを片手に飲んでいる。あぁ、食堂側にも出入り口のドアがあるのね。


 食堂にいる冒険者たちから視線が飛んで来たけど、直ぐに目をらされた。受付カウンターに目を移す人もいる。


 ――誰もこっちに来なくて、冒険者ギルドあるあるのテンプレは起きませんでした。私がおばちゃんだから当たり前か。


 右側には2階へ行く階段とその隣には部屋があって、ドアには『買取りカウンターはこちら』の札が掛けられていた……個室なのね。


 正面の受付は2つあるけど誰も並んでいない……職員は可愛いお嬢さんじゃなくて、ガッチリした同年代の茶髪の男性が1人座っている。


 ――目鼻立ちがくっきりしたイケオジだ。私だけかもしれないけど……外人さんを見ると、誰もが映画に出ているんじゃないかと思うほど、かっこよく見えるのよね。


 受付カウンターに行って、スラ君を見せるようにして男性職員に声を掛けた。


「すみません。冒険者登録をしに来ました。それと、スライムの従魔登録をお願いします」


「ん? 冒険者登録と従魔登録か。この街の者じゃねえな……」


 ジロジロと見られた。


 ……被害妄想かも知れないけど、『若くもないのに、今更冒険者になるのか?』って、思っているんでしょ。


 言いませんけど、神様が冒険者ギルドに登録して身分証を作るように言われたから来たんです。


 あ~、でも言われなくても来たかもね。異世界に行ったら冒険者登録するのが王道だから……恋愛ものの小説でもあったよ。


 あれ……何か私、挑発的かな? 知らない世界に来たから気が張っているのかもね。


【アスカ、口に出していないので、挑発にはなりません】


 ――あ~、ビーさん、そうね。


「……はい。遠くの……山の中にある村から来ました」


「ほおー、山の民か。文字は書けるか?」


 山の民……良いひびきね。ジ○リ作品に出て来そう……これからは「山の民です」って言おうかな。ふふ。


 差し出された紙を見ると、書いてあるうねうねした文字は読める……ビーさん、日本語で書いたらダメよね?


【普通に日本語で書いて問題ありません。と意識しなければ、スキル『異世界言語』が発動して、自動的にこちらの<ラヴァール王国>の文字に変換されます】


 ――へえ~、面白おもしろそうね。書いてみよう。

 ――――――――――――――――――

【冒険者登録】

 名前:『(アスカ)∀§∂』

 魔法:『(風魔法)∬ф』

 その他:『(従魔スライム)ノфωθ』……

 ――――――――――――――――――

 日本語で書いたのに、うねうねした文字になっている。変な感じ。


「『風魔法』を使えるのか、レベルは?」


 えっ、レベルを言わないといけないの? 低めに『C』か『D』って言おうか……。


【アスカ、冒険者登録でスキルレベルやステータスを言う必要はありません。騎士団や宮廷魔術師のテストを受ける際には、『鑑定』を受ける場合もあります】


 ――ビーさん、助言ありがとう。


「……ステータスは教えません」


「そうか……『風魔法』のレベルがそこそこ高ければ、パーティーを紹介してやろうと思ったんだが」


 パーティーを組むつもりはないかな。完全に初心者だし、自分のペースで狩りをしたい。


「お気持ちだけで。テイマーになるのでパーティーは組みません」


 今までの経験上、外国人にはYes・Noをハッキリと言わないといけないって思っているのよ。


 昔……かなり昔だけど、新婚旅行で初めて海外に行った時、押し売りが……遠慮がないって言うか、ひどかったからね。


 あの頃は若くて、英語も話せなかったから言いたいことの半分も言えなかった。今でも英語は話せないけど……。


「そうか、分かった。これが冒険者カードで、スライムの従魔登録も終了した。冒険者登録は無料だが、カードを無くして再発行する時は有料だからな」


 ちょっと昔を思い出している間に、もう登録が終わったのね。イケオジのギルド職員さんは仕事が早い。


 そして、ギルド登録した従魔には、必ず従魔証明の首輪やアクセサリーを付けるんだと言われた。


「だが、スライムには従魔証明の首輪やアクセサリーを付けられないから、代わりにテイマーが付けるスライム型のキーホルダーかバッジがあるんだ。どっちがいい? どっちも大銅貨1枚だ」


 それって、従魔登録は無料じゃなくて1,000ルギいるってことよねって思いながら……スライム型が気になる。


「……キーホルダーで」


 インベントリから大銅貨を1枚出して渡すと、イケオジから名刺サイズの薄い鉄色のカードと、青色の……平べったくて丸いコインみたいなのが付いたキーホルダーを受け取った。


 ――普通の丸いコインなんだけど……。どこかのゲームに出て来る、しずくみたいなスライム型を思い浮かべたけど違った……まあ、スラ君は丸いけどね。


「実績を積んだら冒険者のランクが上がって、冒険者カードの色がアイアンからブロンズシルバーゴールドに変わるからな」


 イケオジに、頑張れよと言われたけど、冒険者のランクアップには興味はないのよね。と、思いながらスライム型の青いキーホルダーを、ベストの胸元にあるポケットのボタン穴に付けた。これで見えるよね。


 冒険者カードを見ると、私の名前と『従魔:スライム』とだけ書かれていて、冒険者カードに付いていた革紐かわひもを首から掛けて長袖のTシャツの中に入れる。


「スライムも育てたらレベルが上がるぞ。そこそこ使えるようになるからな、頑張れよ」


 へえ~、スラ君はレベルが上がるんだ。それは楽しみね。


「はい、ありがとうございます」


 軽く頭を下げて買取りカウンターの部屋へ向かう。


 ……あれ? この世界では、冒険者カードに血をらさないのね。


【アスカ、カードに血を垂らして本人しか使えないようにするのは、冒険者ギルドで金貨以上の換金があり、ギルドに金貨を預ける場合に行います】


 ――金貨……10万ルギ以上稼げるようになったら、ギルドに口座を開けるってことね。


 スラ君を抱えて、『買取りカウンター』の札が掛かっているドアをノックすると、中から「ああ? 入れー」と低い声が聞こえたので、「失礼します」と声を掛けて中に入った。


 ――他に冒険者はいない。


 部屋の奥にあるカウンターに、スキンヘッドのいかつい……ムキムキした年配の男性職員が、キョトンとした顔でこっちを見た。


「ん……新人かぁ? 行儀がいいな~!」


 うわ~、声が……低音の超イケボだ……。




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