第15話 葬儀のあと、酒場にて #4
エルスウェンたちの様子を見て苦笑していたラティアは、蒸留酒の入ったグラスを傾けて、口を湿らせた。
それから、彼女は独り言のように呟く。
「しばらく、我々は迷宮から遠ざかる方がいいだろうな。ザングの死を無駄にしないためにも……あの黒い剣士に対して、なにか成算がない限りは探索をするべきではないだろう」
ラティアは次にマイルズを見て、言った。
「マイルズも、ジェイも。単独の行動は慎め。今の我々でザングの仇を討とうとするのは、勇気ではない。それは蛮勇であり、単なる暴虎馮河でしかない」
「……了解」
「承知した」
素直に、ふたりが頷いている。
次にロイドへ、ラティアは言った。
「今回の件に関しての報告書は私が書こうと思う。構わないか、ロイド。あとは、他のパーティに対する注意喚起も、私がやっておこう」
「え、ああ、うん。そういうの、ラティアのが上手だし、頼むよ」
「うむ。それで犠牲を減らせればいいが……あれほどの魔物だ。そしてあんなものが迷宮にいて、比較的浅い第三階層までやってきていた以上――他のパーティからもなにか報告が入れば、王宮からはおそらく、なんらかの対応を迫られるだろうな」
「あー……。探索に制限とか?」
「そのあたりが、妥当だろうな。王宮からの探索制限がかかった場合、指輪だけでは迷宮に入れなくなる」
エルスウェンは、訓練所に通っていた頃に聞いた説明を思い出しながら、ラティアに訊いた。
「そういう時は、王宮からの認可と、それを証明するための書類が必要……なんだっけ?」
「そうだ。書類の場合もあれば、簡易になにか許可証明のためのシンボルを渡される場合もあると聞いたことがあるが――」
ラティアは、喋りながらまた杯を呷る。
「しばらく時間ができることは間違いないだろう。その間、各自で研鑽を積むなり、考えるなりするといい。エルスもだ。……まさか、本気で私たちと袂を分かちたい、と考えているわけでは、ないんだろう?」
こちらを熱っぽい瞳で覗き込んで言うラティア。横を見るとフラウムも似たようなもので、マイルズは興味なさそうにしつつも、注意を払っていると分かる。
先ほどの、キャリスの言葉、ラティアの言葉を思い返した。ザングのことも。
自分のせいでみんなが死ぬかもしれないなら――と思った。そんな悲劇を味わうくらいなら、パーティから抜けてしまいたい、と。
そういう気持ちから、つい出てしまった言葉だった。
でも、ラティア、キャリスに言われて分かった。それならなおのこと、自分が魔法使いとしてより熟練し、確実にみんなを守れるだけの力をつけなければ、意味がないのだ。
ラティアのパーティを抜けて新しいパーティに入ったとしても、同じことを繰り返してしまうだけだろう。
ザングの言葉を思い出す。今は、まだ勉強をするときだ。より強くなり、父を超える探索者となるために。
まだ未熟な自分が成長するには、ラティア、マイルズ、フラウム、ロイドたちパーティの力が必要なのだ。
エルスウェンは、ラティアたちに頷いた。
「……うん。分かった、訂正する。パーティを抜けるんじゃなくて……考えてみるよ。あの黒い剣士に通用する方法をね」
「よし! そうこなくちゃあ!」
その言葉に、なぜかロイドたちまで笑顔で頷いていたが。
鋭い目をして、ジェイが訊ねてきた。
「当てがあるのか? 通用する方法の」
「いや……分からない。とりあえず、家にある本と――」
少し微妙な気分になりつつ、エルスウェンは言った。
「母に聞けば……なにか分かるかもしれないから。家に帰って、訊いてみるつもり」
「森人だっていう、お前の母ちゃんか」
マイルズは麦酒の大杯を傾けながら頷いていた。
「なら……妙案が出てきても不思議はねえのかもな。だが、期待はしないでおくぜ。俺は俺の剣で、あいつを叩き斬ってやる」
それはそれで、マイルズらしい。その頼もしさに、エルスウェンは笑顔を返した。
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