03 ギルド長とギルド

翌朝目が覚めるとサタキの体は昨日のおかげもあってか嘘の様に元気になっていた。

ふかふかの寝心地のいいベットから飛び起き色んな角度で体を捻り動かしてみても本当に何処もなんの問題も感じない。

うん、いい感じだな。

軽く腹筋だけでもと床へ寝転がり回数を数えていると扉をノックしてサルムスさんが入ってきた。


「体調はどうだ」

「サルムスさんのおかげです、すっかり良くなりました」

「それは何よりだ」

「腹筋もおかげでスムーズです」

「それは…ほどほどにな」


と、軽い朝食様に買ってきたという美味しそうな匂いをしたパンとネイビーの上服と黒い動きやすそうなズボンを渡された。


「ありがとうございます!」


渡された服を素直に受け取れば人目も気にせずその場で着替えた。

その後、貰ったばかりのパンを一気に口に頬張る。

そんな姿に男らしいなと言われたがサタキはパンを飲み込むのにほんの少し苦戦していたのもあり何も言葉を返せそうになかった。


「この建物内を案内しよう」

「この建物ですか?」

「そうだ、此処は私が長を務めるギルドなんだ」


まず最初に案内されたのは部屋を出て左へ曲がった廊下の先にあったベランダだった。

サタキは喜んでサルムスさんの後ろへ着いて歩くことにした。

ベランダから顔を出し下へ目を向ければ色んな人や物を載せた馬車などが多く行き来しているのが見えた。

予想していたよりも遥かに多い人の数にただただ驚いているとサルムスさんは近くで見るとより凄い事がわかると教えてくれた。

……凄い。


「先に下を案内しよう」

「わかりました!」

「こっちだ」


ベランダを後にすると長い廊下の先に階段があった。

その階段から下の階へ降りるとすぐに賑やかな声が聞こえてきた。

もうその時点でサタキは少し興奮気味だった。


「まずは、ここだな」

「……ここは?」

「受付だ、冒険者になる為の登録が行われる」

「身分証にもなる、しておくか?」

「んーそれなら…」


サルムスさんが受付の美人さんと何か話し始めた。

少しして受付の美人さんは大きな水晶玉を何処からか取り出してくると目の前にその水晶を置いた。


「はじめまして、サタキさん」


センター分けの綺麗な金髪をなびかせた美人のお姉さんはサルムスさんの後ろにいたサタキへ優しく声をかけてくれた。


「私は受付を担当しています、シェーナと言います。よろしくお願いしますね」

「シェーナさんですね。僕はサタキ、よろしくお願いします!」


イケオジと超絶美人のお姉さん…顔面がすごく強い!


「早速ですが適正を確認いたしますのですみませんがこちらの水晶へ手をかざして頂けませんか?」

「水晶に触るの?」

「はい、そうです」


ニコニコと答えてくれるシェーナさん。

シェーナさんの言う通りにサタキは手を水晶へかざした。


みるみる色んな色に光り輝く水晶。

それにあっけに取られていたサタキは呆然とその水晶を見つめる。

…紫、黄色、赤?って所か……?


「これは、闇と雷と炎…か?」


サルムスさんが声を上げた。


「何がですか?」

「サタキの体にある力とも言えるものだ」

「……力とも言えるものですか」


それでもサタキにわかるわけもない。


待てよ。

そういえば、最初ステータスって書かれたのを見た時、レベル10しかなかったよね??

それに魔法とかって確か“なし”って表示されていたような……??


「腑に落ちない表情ですね…何か間違いがございましたか?」

「腑に落ちないと言いますか、まだ色々とわからない事だらけなんですけど」

「なんでしょうか?」

「確か僕、最初は何もステータスに表示されていなくて…レベルも低くて魔法やスキルなども何も所持してなかったはずなんですが、知らない間に使えるようになるのって可能なんですか?」


シェーナさんの表情が笑顔になり僕の隣にいたサルムスさんも何やら仏教面からニコニコと変わる。


「え、僕…何か変な事言いました?!」

「いいえ、変ではございません。それはちゃんとサタキさんが強くなられたという事です」

「……僕が、強く?」

「はい、先程水晶に手をかざして頂きましたのでレベルも魔法もスキルも確認可能となりますよ」


強くなったと言われても何も実感は感じない。

ましてや変化などもない。


シェーナさんに言われた通り水晶で自分の強さを確認可能と言われたので色々説明ありで教えて貰う事にした。

まずは。


「レベルって」

「サタキさんの今のレベルは50になっていますね」


まさかの!

めちゃ上がりすぎでは?!

驚きで変な声が出そうになった。


「では、魔法とかって…」

「魔法ですね。サタキさんの体に芽生えた力は余りお目になることのない3色…“紫”、“光”、“赤”となっています」

「珍しいって事ですか…」

「これは稀です。基本2色か1色なのですよ!」


3色に光り輝く水晶。

でもこれが稀とは…。

ま、そう言って貰えるだけでなんだか鼻が高い。


「その“紫”って何魔法ですか?」

「そうですね、暗くなる気配もないのでこちらはきっと毒になります」

「え、毒ですか?!」

「ええ、毒になります。余り使える方がいないのでこちらもレアです!

少しでも暗い色が入っている場合は闇になるんですよ!」

「あ、そうなんですね…」


となると。


「他は?」

「他は、雷と炎になります。最後の一つはごく僅かな光になりますのでまだ芽生えたばかりかと」


そんな事を詳しく教えてくれるなんて、とても有難い!

シェーナお姉様々だ。


「では、こちらをご登録致しますね」


言葉がわかっても文字が書けないとサルムスさんに伝えておいたおかげでシェーナさんはテキパキと登録を勧めてくれた。

カードは明日にはできるらしい。

で、そのまま簡単に冒険者になるに連れて必要な説明を受けた。


冒険者ギルドとは、本来なら冒険者に対して講習を行いモンスター図鑑などを貸し出すなどの支援を行うのだとか。

受付や事務作業を行う裏方的存在、昇進を審査する幹部、支部を預かる支部長、そしてギルド長がいる。

大体このような組織が冒険者ギルドと呼ばれる存在なのだとか。


そして初心者には必ず入会手数料と試験が行われると聞いた。

それなのに何故か試験を受けなくてもサタキは冒険者になれますとさらりと言われてしまった。

サルムスさんにも後で話すと言ってもらえたので今は深くきないことにしておく。


必要な登録を終えた後は、説明の続きに戻る。

シェーナさんに軽く挨拶を終えると次はそのお隣へ。

道を挟んでその隣は仕事を依頼した人たちがその一部を持ち帰り鑑定してもらう場所のようだ。

鑑定後に報酬が支払われるという仕組み。

依頼はギルドの入り口すぐに大きなボードに貼られているのを一枚決めて受付へ持っていく、そこでシェーナさんに渡すのが仕事を受理してもらう決まりらしい。


ほうほう、成る程成る程。


ボードに貼られた仕事はカードに記入されたランクによって受けられるようになっている。

その為、ペイレントの町ではまだAランクの仕事を受けられる人がほんの数人なんだとか。

その上のSランクも誰もいないみたい。


「強くはなりたいです、でも気ままにのんびりと暮らしたいってのも本音です」

「正直者だな」

「いつかは家を建てて暮らしたいのもありますが、のんびりとあちこちを冒険して回りたいってのもありますね」

「サタキはまだ若い。若いうちからなんでもチャレンジしてみるといい」

「ありがとうございます!」

「そうすれば自ずと見えてくる」

「見えて、くる?」

「ああ、やりたい事なりたい者他にしたい強さ…それを時間がある限りたくさん自分の目でみて感じて掴み取ればいいさ」


サルムスさんはそう言ってサタキの頭をつかむと必要以上にわしゃわしゃと髪を乱れさせた。

サルムスさんは素敵なギルド長だなと実感した。

悩んでいた事が馬鹿らしくなるような言い方をしてくれるので、ちゃんと自分の目で見て感じると言う事をやってみたいと思わせてくれる力強い言葉に震え上がらされた。


「そうだ」

「なんですか??」

「この建物は長方形型になっていてな、受付横をそのまま進めば食事ができるスペースがあるんだ」

「それは好きに食べられるんですか?」

「基本は好きに食べられるが、Cランクより上の奴らは有料だぞ?」

「そんな決まりが!」

「初心者からDランクまでの奴らは最低賃金の依頼ばかりだからな、日替わりで食べられるものを変えてもいる。料金はさほど高くはないにしても生活がかかっている物が多いからな、ランク向上に専念してもらわないと」

「それは素敵な心掛けですね!」


次に紹介されたのはその奥の部分だ。

冒険者とは別、同じ建物だと言うのに内装が180度も変わった別の空間に来たような緊張感が広がる場所。

入口からもう別世界。

そこは、“商人ギルド”と言うらしい。

ギルドって言うからもっと殺伐さつばつとしたものだと勝手に想像してしまったけど商人と言うだけあってか人の出入りよりも馬車から運び込まれてくる物の行き来が多いなと感じた。

小さい物ならその場ですぐに鑑定をしてもらえる様だが大きいものがいくつもある場合は2階へ移動し、部屋に通されるようだ。


取り寄せ運び込んできた物を売ったり買ったり、ギルドの方を入れて情報交換などを行ったり…と自分自身には縁もない話のはずなのに凄く興味が湧き上がり胸が高鳴ってしまったのは言うまでもない。。。

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僕は、一度死んだらしい。 波崎 亨 @h626

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