02 ただ記憶をなくしただけの少年 Ⅱ

サタキは禍々しいオーラを放つ誰かが置いて行った剣を見つけるとそれを拾い上げ使い勝手を軽く堪忍するように左右に剣を振り回した。

見た目重そうだけ扱いやすそうだな。

これなら大丈夫そうだ。

て事で…借りる事にした。

二つになった剣を強く握り、怪物の方へ距離を積める。

一歩、また一歩とゆっくりと。

怪物はまだそんなサタキに気が付く様子はない。

それを良い事に慎重に詰め寄る。

押し寄せる緊張と手汗。

それに、うるさく鳴る鼓動。

 

「無茶だ、君っ!」


慎重に。

と思った矢先予想外は起きた。


…五月蝿いな、そんなの自分が一番知ってるっての。


「そこの君、戻れ。戻りなさいっ!…危険だっ!!」


いや、ごめん。本当にうるさいよお前!

てか戻ってどうしろと?

危険なのも、無茶な事も、自分が1番よく知ってる。

思いもよらぬアクシデントのおかげか何故か緊張が逸れていくのがわかった。

 

「辞めなさい、君ではきっと…死んでしまう!」


一人の男は懲りずにフラフラな体でサタキと怪物の間に立はだかった。

邪魔だなと思うけど一向にその場から動こうとしない男に何考えてるんだ?と内心イライラ。

何だよこいつ。

邪魔するなよ…。

俺は早くコイツを倒して自分がどうして記憶を持たないのか色々調べに行きたいというのにーーー。


「ねぇ…さっきからなに?邪魔しないでくれる?」

「だがっ!」

「このままだと貴方も僕も含めここに居る皆死ぬ事になるけど…」


わざとだが大袈裟に口にすれば、男はやっと状況を理解したのか化物と僕を2、3度交互に見比べると申し訳なさそうに「すまない」とその場をゆっくりと去っていった。


……よし。

これで戦えるな。


ステータスと言うものを見るからに自分はそんなに強くはない。

ましてやずば抜けた才能すら皆無。

そんな自分が戦った所でここにいる人達を守れるとは到底思えない。

そんなもの、わかっている。

きっと僕はここに居る誰よりも弱いんだろうな……。

それでも、何故か、体は、動くのだ。


剣を持ち、化物に立ち向おうとしている。


叶わないと、お前では到底無理だと思われようともやらなければならないのだ。

死ぬのが怖いわけではない。

でも、強くなるために勝ちたいとは思うんだ。


怪物が他の兵士達に気を取られている隙にサタキは怪物へと急接近を試みた。

どうやら音には反応するようで音さえ立てなければサタキに気づかないようだ。

これなら。

様子を伺いながらも着々と距離を詰めれば胴体の元まで近づく事ができた。


「はーい、そろそろくたばってくださいね〜」


借りた二つの剣を交互に左足から刺していく。

その間変なうめき声が聞こえた気がしたがお構いなく続ける。


「うわ…血が…」


切付けていった場所から紫色をした血液がドバドバと流れ出る。

気持ち悪すぎる。

でも、手は止めない。


何も考えずサタキは腕を振りつづけた。


左足の次は右足を狙う。

何度か尻尾の蛇が動きだしたきましたがどうやら他の兵士達が食い止めてくれているようだった。

実にありがたい。


こっちはこっちで集中できるなとサタキは両足の脛をめがけて剣を大きく振った。

それは見事に命中したようで化物が少しずつふらついているように見えた。

このタイミングだと思い、一本の剣を大きく振り上げ化物の尻尾付近へ力一杯突き刺した。


刺しておいてなんだけどこれはだいぶ痛いと思う。

化物がより暴れはじめた。


サタキは片手の力だけで自身の体をくるりと回転させると簡単に化物の背中へと乗り込んだ。

申し訳ないので刺したままの剣を急いで引き抜いた。


「心臓部分にある赤い結晶を壊せ!!」


叫び声がした。

その声は尻尾の蛇と戦う兵士の一人。


「それは何処にある?」

「君が立ってるその真下だ!」


中々親切な方がいたもんだ。

その兵士の教え通り、サタキはすぐ剣を二本自分が立っている怪物の腰近くへ突き刺した。


「心臓よりも頑丈なんだ!もっと力を入れないと変壊れない!」

「……ありがとう、やってみるよ」


思ったより硬いなと思ったらそういことね。


サタキは何度も何度も硬い何かに向けて抜き差しを繰り返した。

自身の体力が尽きるのが先か、怪物が倒れるのが先かを賭けて。



ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー



  ◯



「ーーい、おい、君っ!」


呼びかけと共に誰かに肩を揺さぶられた気がした。

ごめん、そんなに体を揺らさないでほしいんだ、痛いからね?

と思っていたけど…一体何事?と思い目を覚ました。


「よかったよーーっ!ようやく目が覚めたんだねっ!!」


何この人、うるさい。

声が頭に響くんですが??


眩しさに目を細めると一人の男が泣きそうな声で僕の体を揺らして来た。


あー!もう!

うるさいってば!


「なに、あんた…うるさい」


片言ではあるけれどどうやら声は出せるみたい。

だが、体は全体的に気怠い感じがする。


「うちの兵士がすまないな」


何処からか体格のいいイケオジが現れた。

そのイケオジは声も良いときた、イケオジの中のキングオブイケオジだと心の中で喜んでいると、そのイケオジはうるさい兵士の首根っこを掴むとずるずる引きずり部屋の外へと追いやった。


「これで静かになったな」


イケオジはゆっくりサタキの近くまで近づいた。


「体の方はもう大丈夫か?」

「えっと…まだ少しダルイかも…ですね」

「そうか、ではまた昼頃にでも治癒士を呼ぼう」

「あの」

「なんだ?」


イケオジと話していると頭がだんだん冴えてきた。

でも、あれ?

サタキは頭を悩ませた。

化物と戦ってたよね?

戦ってましたよね、森で?え?


頭の中が大混乱。


「大事なことを忘れていたな」

「大事な…事ですか?」


まだ混乱しているサタキに向かって突然イケオジは静かに頭を下げた。


「え、あの!え……急になんですか?!」

「ずっとお礼を言いたかったんだよ、ありがとう」

「え?お礼ですか??」


イケオジの顔がより柔らかくなっていく。


「森で部下を助けてくれた事、とても感謝するぞ」

「助けたってほどでは…」

「誰一人として欠けずに帰還できたんだ、皆君には感謝しているんだ」


気がつけばベットで寝ていたのはそのせいらしい。

詳しく聞くに、赤い結晶を壊す際に最後の抵抗をした化物の反撃にあったようで少しばかり飛ばされると大きな岩山へ背中から強打したようだ。

一瞬のことだったようで何が起きたのか皆最初は困惑したのだとか。

だが、先ほど部屋から追い出された今にも泣きそうになっていた兵士のおかげで僕は助かったようだと……。


あの兵士にもあとでお礼を言わないとな。


「元気が戻ればお前を歓迎し宴でも開こう」

「いいんですか?!」

「ああ、たくさん飲んでたくさん食えばいいさ」


願っても見ない宴の誘いにサタキは目が眩んだ。

宴は僕でも知ってる。

飲んで、食って、踊りまくるやつだ!

が、いけないいけない…その前に。

大事なことを忘れていた。


「あ、あの…」

「なんだ?」

「今更なんですけど…お名前聞いてもいいですか?」


話が進みすぎて聞くタイミングを無くしていたのでようやく聞けたとほっとした。

イケオジも忘れていたようでめちゃくすくす笑ってくる。


「この町、ペイレントのギルド長をしているサルムス=ケイドと言うものだ、以外お見知りおきを。お前さんは?」

「えっとですね…サタキと言います」

「ここらじゃ聞かない名だな。……サタキか」

「あはははは〜ま、それ以外は何も覚えてないんですけどね」


そう言って笑ってみせると、何故かイケオジ事サルムスさんが驚いた様子でサタキを凝視した。


「何も覚えてないだと?」

「はい、何もとは」

「言葉通り、なにも、ですよ」

「歳は?」

「多分10代後半?とかじゃないですか?」

「出身国は?」

「んー、なんか建物いっぱいある大きな国?に居た気がしますね」

「親は?兄弟は?!」

「さぁ…知りません」

「なぜそんなに淡々と話しておるのだ」

「焦っても仕方がないかなと…」


でも、最初目覚めた時も名前を知った時もちゃんと驚いたし不安にもなったし恐怖的なものも味わった。

それでも1人では何も思い出せそうないなとわかったので考える事を止めた。

いろんな場所へ足を踏み入れて聞いていけばおのずといつかは思い出す事ができるんじゃないかと思い…。


「それもそうだな。それなら、俺も協力しよう」

「え、いいんですか?」

「助けて貰ったお礼とでも思ってくれ」

「え、でもそれ…宴」

「貰える分は幾つ貰っても損はない」

「あ、ありがとうございます!」


まだ寝たきりの体であったが、サタキはそんな事を忘れて大きな声を出しお礼を口にした。

サルムスさんめちゃいい人〜!!


「では、またお昼に」


サルムスさんはそう言い残すとそそくさと部屋を静かに出ていった。

その数時間後、サルムスさんがまた部屋に言葉通り本当にやってきたと思ったら治癒士という方を連れてきて来てくらた。

そのおかげもあってか体のダルさや気だるい感は消え去り身体は元気を取り戻す事ができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る