僕は、一度死んだらしい。
波崎 亨
01 ただ記憶をなくしただけの少年 I
ーーー目が覚めて初めて目にしたものはどこか懐かしさを感じる風景をした緑豊かな町だった。
高台…の様な崖…のような場所だろうか?
そんな場所に僕は何故かうつ伏せのまま名も知らない町をただぼんやりと見ていた。
このままってのも疲れるので一旦うつ伏せ状態から重たい自分の体を起こし、あぐらをかく。
よし、身体は自由に動くみたい。
ほんの少し体が重く感じるがそれ以外は何も気にならないし痛みも無い。
うんうん、良し良し。
きっと自分は健康体を手に入れているのかと自負する。
こんなものかと、軽く自分自身の身体のチェックを終えた後はもう一つ気になっている事に目を向けた。
えーっと…。
僕、名前ぐらいは思い出せる、よな?
でないと不便だと思うんだけど…??
どうやら僕は、名前もどうしてここに居るのかも、何一つとして覚えてない…みたいだ。
その考えが実ったのか視界に何かが現れた。
【ステータス】
名前:
レベル:10
HP:100/100
MP:100/100
職業:なし
魔法:なし
スキル:なし
ーーーん??
なんだ、これ。
目の前にデカデカと文字が表示された。
そこには…。
は?すてーたす?
いやいやいや、マジでなんなんだ?
此処が何処かもわかっていないというのになんなんだよ、一体。
この情報量の少なさといい。
で、この名前の隣に表示されているのが自分自身の名前って事だよな???
うん、…シバ…サタキ、ね…。
やっとわかった自分の名前。
これが本当に僕の名前って事だよなって疑い半分状態。
聞き覚えのない響きのせいか、それプラス解らない事だらけのせいもあり頭の中は軽くパニック。
他にも“なし”と書かれてある職業、魔法、スキル、の文字が目に付いた。
これはこれでずっと“なし”のままなのかそれともなにかの変化がないと“なし”は変えられないのか。
模索しないといけないパターンだなこれは。
僕の中に不安はまた一つ増えた。
「「ギャァーーーーーー!!!!」」
ーーな、何事?!
そんな時、何処からか叫び声が聞こえてきた。
声が聞こえる方向は今座ってる場所の前にある淀んだ空気
それにその叫び声は一つではなく多数だ。
何かに、襲われている…のか?
武器一つ持っていないただの記憶を無くしただけの男と言うのに…サタキは、気づけばその森の中を駆けていた。
「こっ、この、怪物めっ!!」
「「個人で立ち向かうのではなくみんな一成に総攻撃するぞ!」」
「それ!かかれー!!」
思いの外先程聞こえた叫び声の割りに結構な人間がそこにいるんだなと見てとれた。
皆が囲い込んでいる真ん中にはよくわからない新種の怪物らしきものが。怪物の周りには剣?や弓?やら使って攻撃をしている者たちも居た。
うん、これは割って入らない方が良さそうだな。
衝動的に走って来て何だが…一応茂みの中に身を
それにしてもあの化物は…いったい……。
見た目はライオンにも見えるそれ、尻尾が蛇の様になっている姿は不気味でしかない。
うわ、気持ち悪い…こんな仲間相手だなんて。なんて言う名の生き物なんだよ、あれ。
掛け声や叫び声は一向に止む事はない。
血を出し倒れている者が増えていく中、指示をしていた隊長格らしき人もとうとう右足から崩れるてしまった。
やばいじゃん。
わ、まじかー。
そんなに強いって事か…。
どうやら蛇の形をした尻尾は一本ではなく二本に変化する姿が見えてしまった。
思わず声が出そうになるのを何とか堪えるも、大人数でも苦戦している意味が何となくわかった
化物が大きく口を開いた。
それが合図かはわからないが、後方にいた人たちが一斉に叫ぶ。
「「シールド!」」
その瞬間、化物の口からは炎が放たれた。
思わずおおと声が出てしまったが、その迫力の中人と化物の間に一枚の大きな壁ができていた。
熱そうな炎はその一枚の壁により誰にも被害が及ぶ事なく塞がれた僕は一安心した。そんな僕はまだ森の中に潜み傍観を決めてるだけで何の役にも立っていないままな訳で。
見て取れる最前で剣を握る人達の疲労とは裏腹にまだまだ元気そうな化物さん。
あーあ。
何だかなぁ…。
死んだわけではないにしても人が次々と倒れていく姿は見ていて気持ちのいい者ではない。
胸が痛苦しい。
もうそろそろ見ているだけは辞めよっと。
茂みに隠れたままはもう止めだ、と、サタキはその場で立ち上がった。
まだ化物と戦う人達の中へ自ら進んで行った。
「…待ちなさい、君」
どうやら1人の男が僕に気がついたらしくフラフラな体で歩み寄って来たり
見るからに服も体もボロボロ。
頬には大きな傷があり、タラタラと血を流していた。
「…此処は、危ない。君は今すぐ来た道を戻るんだ」
見ず知らずに親切だなとは思うが今はお節介だなと思う。
「忠告ありがと。でも大丈夫ですよ…僕の事はお気になさらず。貴方はもう少し後ろの方で休むといい」
サタキは、自分らしくないなと実感しながら優しい口調で微笑んで見せた。
同時に男が持っていた見栄えのいい剣が音を立て地面へ落ちる。
「…君は、何者だい……」
落ちた自身の剣よりも僕の方が気になるってか?
男からの言葉にふっと僕の口から声が出た。
「…僕が何者かって?
本当に知りたいなら…これが終わったら教えてあげてもいいよ」
そのかわり。
と言ってなんだけど…。
「この剣、ちょっと借りるね?」
「ま、ま、ま、待ちたまえっ!おい!君っ!」
落ちたままにされていた剣をヒョイっと拾い上げ、僕は男の許可を貰うよりも早くその場から離れるとまだ何か声が聞こえた気がしたけど振り返り後ろを確認する事はわざとしなかった。
僕は、走った。
化物の元に倒れたままの指示を出していた人の元に。
「おじさん大丈夫?…生きてる?」
右隣へ駆け寄ると既に息は荒く全体的に疲労が目立つが、サタキの呼び声に何一つ気がついていないようだった。
これは何かあるな。
まだ確信はできないが蛇に何かありそうなのはわかった。
だがそれをサタキがどうこうできる事ではない。いわば、何もできないに等しい。
だからと言って何もしないのは自分らしくないと思えた。
すぐに先ほど借りた見映えのいい剣を強く握るとサタキはほんの少しだけ目を伏せた。
「…おじさんごめんね、少し痛いかも」
一言そう言って、青紫色に繁殖しきったおじさんの腕に見栄えのいい剣をほんの少し掠めてみせた。
お、ビンゴ。
おじさんの腕からドロドロとした変な液が数的垂れるのを見た。
ーーーこの液が原因ってことはやっぱり気をつけなければならないのは尻尾の蛇だな。
おじさんの中から液を取り出すように、サタキは傷口へ吸い付き外へと吐き出すという作業を繰り返した。
すぐ近くではまだ変な怪物と数名の人達が負けじと戦ってくれている、その為この人はこんな所で易々と死んではダメなのだ。
おじさんの
おじさんの顔色が変な色からマシな色へと変化した姿を確認後、たまたま近くに棒立ちしていた男二人を捕まえギリ森に隠れるか隠れないかまでおじさんを運び休ませてやってとお願いしておく。
頼んだと、お願いした後すぐに男二人はおじさんをダッシュで運んでくれた。
口の中にもう液は残ってないよな?
その後は口に残るちょっとした違和感のせいで地面へ数回唾液を含んだ液の残りを吐き出した。
大袈裟だけど、仕方ない。
そう言い聞かせておいた。
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