終章

第37話 お見舞い

 翌日の正午前、パルマンはレオンネクサス地区にある総合病院に来ていた。今回の同時多発襲撃事件の被害者であるガリエラに会うために。

 昨日まで集中治療室ICUにいたガリエラだったが、現在は個室に移っていた。

 部屋に向かうと、笑顔で迎えてくれた。

「ニュースを見たよ。事件を解決してくれてありがとう!」

「それが俺の仕事ですから。それより、あなたにお伝えしなければならないことがあります」

 そこで、パルマンは自分に預けてくれた内臓ストレージも含めて、八個全てのPUDが廃棄処分になる話をした。


「先祖から代々受け継がれてきた大切な物を勝手に破壊することになって、本当にすみません」

「パルマン、それは君が気に病むことではないさ。私もあれの存在についてはずっと不安の種だったんだ。それなり理由があって決断したのなら、私はそれを尊重するよ」

 ガリエラの心の広さに、パルマンは素直に感謝の言葉を述べた。


「切断された足の具合にどうですか?」

「実は担当の医者から義足を勧められてね。今までのように二本足で生活できるし、そうすることにしたよ」

「本当ですか! それは良かった!」

 パルマンは、ガリエラがあの事件のショックや恐怖心からそれほど気落ちしていない様子を見て、心から安堵した。

「私がこうやって生きていられるのも、君が駆けつけてくれたおかげだ。無論、感謝の言葉を言うだけでは私の気が済まない。何かお礼をさせてもらえないだろうか?」

「そんなお礼だなんて――」

 ガリエラを救い出せたのは単なる偶然でしかなかった。あの日が約束の日でなければ、命を救うことは不可能だった。それなのに、お礼なんて貰えるわけがない。


「あなたが生きているだけで俺は十分です。それ以上何かをしてもらったら、それこそ天罰が当たりますよ」

「前から思ってたんだが、君はあまり欲がないな」

「そうですかね」

 パルマンは苦笑いを浮かべた。

「ああ、忘れるとこだった。私は君の力の研究をこれからも続けたいと思っているんだ。また協力してくれると良いんだがね」

「もちろんです! 退院したら、またいつでも声をかけてください!」

 そのまま少し談笑してから、パルマンは病室を後にした。


 病院を出て、空を見上げると快晴の青空が広がっていた。

 不意にスマートフォンから着信音が聞こえた。学校にいるジュリアナからだった。

「もしもし、俺だけど――」

『私よ、今昼休み中なんだけど、大丈夫?』

 昨晩少し電話したときに今日は休日になると伝えていた。

「ああ、どうかしたのか?」

『あのね、今朝、あの事件をパルマンたちが無事解決したニュースを見た親が、またあなたと二人きりで会ってもいいって言ってくれたの! それを早く伝えたくて電話したの!』

「本当か? それは良かった!」

 ジュリアナのはしゃぐ声に釣られて、パルマンも気持ちが高ぶるのを感じた。彼女の両親がもう一度交際を許してくれたことが何にも増して嬉しかった。


「じゃあ、次の日曜日にデートしないか?」

『もちろん、オッケーよ! どこに行く?』

「そうだな。まずは――」

 パルマンは心の底から湧き上がる喜びを実感していた。

 今この瞬間を大事に生きていきたい。その中で、愛する恋人と幸せを分かち合いたい。そのありのままの思いに素直に従うことにした。

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女神は血に飢えている 夙夜屍酔 @desconocido

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