エピローグ
「……あれ?」
目を開くとそこは、見慣れた風景だった。
温かい風に混じる馬糞の匂い、走り回った農道と山、見慣れた空に、行商のオッサンがした野グソの匂い。
懐かしさと微妙な不快感が、ここは天国じゃないって言ってる気がする……マジで!!??
「い、生きてるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!??」
ぶ、無事だ! なんで!? 俺、剣が何本か心臓に刺さって、『飢王』に踏み潰されたよねぇ!!?
それにさ――
「ここって、最初のセーブポイントじゃ……」
訳が分かんなかった。ひとまず状況確認をしてると、設置済みのセーブポイントから急に光が溢れて、村長の姿を映した。
『わしわし、リス? もしじゃよ』
「村長!? 胡散臭いし、色々間違えてるけど!」
『これはな、出発前にわしが記録した情報じゃ。じゃから会話は出来んぞい。そして誰を胡散臭いとほざくか!』
「聞こえてんだろジジイこら」
聞こえてんだか聞こえてないんだか……
気持ちが落ち着いた後、光の村長は語り始めた。
『すまんの。あれぐらい脅さんとおぬしはこの仕事やらんと思ってな。発破かけるために脅したんじゃが……あれ、嘘じゃ』
「…………は?」
『おぬしも死んだらセーブポイントまで戻れるぞ』
――くっ、
「く、クソジジイやりやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
これまで、死んだら一発アウトだと思って、必死になってやってきたってのに……無事で良かったけど、アホほどムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!
『試運転する時に表示上は記録から消されるんじゃが、設置人の記録もちゃあんと取られとる。じゃから安心せい』
「遅ぇよ。俺が親孝行考え始めるまでぐらい遅ぇよ」
俺の怒りを嘲笑いながら、村長は手を振っていた。
『ま、これで一安心じゃろ。それじゃ、引き続き作業頼むぞーい』
「あ、切れた。騙しやがって……まあ、ニートしてたやつが言えたことじゃねぇわな」
怒りで半狂乱になったが、落ち着くんだリス。
命あっただけマシ――
「うぅ……あれ? お兄さん?」
「え? あっ、君は!」
目線を落とすと、セーブポイントの陰にあの女の子が倒れて寝てた。
「嬢ちゃん平気か!? けっ、怪我とかは!」
「うぅ……うん。大丈夫、だよ」
「寝ぼけてる、なら問題ないか。でもどうして」
『《パーティメンバー》が追加されました』
「ん、追加?」
窓の内容を見ると他のやつらはパーティーから退出扱いになってる……あ、みんなの所属欄と現在地ステータスが元に戻ってる!
ってことは、無事にみんな帰れたってことか!!
「じゃあ成功したのか! うっわ良かったぁ〜」
もしかしてこのセーブポイントって、ワープ地点はギルドや教会側の記録も含んでるのか?
それなら、自分の家とかにワープで戻れるってことになるか。
超絶便利じゃんか~!!!!
「これで一件落着! ……っていきたいんだけどさ」
この娘、どうすっか。
「ええっと、お嬢ちゃん……とりあえず、次の街まで送ってくからさ。衛兵さんに家まで――」
「ま、まって!」
「え?」
「わ、わたし、身寄りがないんです……! お父さんも、お母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんもいないんです」
「そ、そうだったのか……」
ってコトは孤児ってとこか。
なら余計どうしたら……
「また、一人ぼっちになるの、いやっ……」
女の子は今にも泣きそうな顔で、俺の服を小さく引っ張っていた。
十歳になってるかさえ分からない子にそんな顔されたら、無理なことは出来る訳ないや。
「いや、その……はぁ、分かった。プータローしてるよりは、保護者やる方がまだマシか」
どうせ冒険するなら、誰かいた方が楽しいよな。
……ま、犯罪者扱いされたくはないから、そこだけ気を付けよ。
「俺、リス。セーブポイント設置人。おまえは?」
「レティーっ! そのままレティーって呼んで!」
「分かったよレティー。これからよろしく」
セーブポイント設置人、リスに仲間がふえた!
レティーがパーティに加わった、ってとこだな。
まー変わらず、俺は設置の旅を続け……
「って、ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「どっ、どうしたの?」
「わっ、すれてた……ここに戻ってきちまったってことは、設置するルートまでもう一回行かなきゃいけねーじゃん!!」
ここまで俺もただ設置してきた訳じゃねえ!
交通や設置予定地の兼ね合い、効率面も考えて設置してきた。
それに隣の大陸行くまで船も飛行船も借りて行ったんだ。
予算も体力もキッツキツで振り出しに……
「いや待てよ? そうだ! セーブポイントが俺も使えたってことは、ワープ機能が使える! これなら飛行船にでも戻って――」
『《権限》が付与されていません。てめぇの足で行けや、タンカス』
「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
幼女が居ようがお構い無しだ!
この腹立つセーブポイントへのフラストレーションはキレなきゃ発散できねえ!!!!
クソがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!
「はぁ、はぁ……仕方ねぇ、行くか」
キレ散らかし足りないけど、まだ街まで遠い。
村に戻ったら誘拐犯として追い出されそうだし、このまま歩ってくか。
「ねぇねぇリス。セーブポイントってどこまで設置しにいくの?」
「世界の果てまで……」
「え゛」
「なんでちょっと嫌そうな顔すんだよ!!?」
旅は振り出しに。ちょっとばかしの勇気と、幼女一人のおまけがついてきて、あとはプラマイゼロの設置作業が再開。
幼女の手を握りながら、太陽の方角まで向かうとしよう。
まだ先は長いけど、村に戻ったらやることは決めた――――
ちゃんと、就職活動しよ。
-Fin
セーブポイント設置人さん! 冒険者のためにセーブポイント設置の旅に出たけど、俺自身は死んだら一発アウト!? 白神天稀 @Amaki666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます