みんなで分けようセーブポイント!
『飢王』の城の窓辺に、俺達は立ってた。
窓から一歩踏み出せば、何千メートルも下まで地面はない。視界は黒の霧で見れたもんじゃないな。
正直、床に立ってる今でも足が竦む。けどこの方法しかない。
この攫われてきた人達を逃がせる逃走ルートはな!
「みんな、一個づつ持ったか?」
全員、俺が渡したセーブポイントを抱えて集まってた。頷いてはいるけど、不安そうな顔してるな。
ま、この高さありゃ当然だよ。
「怪我してた人! 走って飛び降りれそうか?」
「完治はしてないが、自分で歩ける程度は問題ない!」
「ナイス! バッチリだぜ!!」
このセーブポイントは非正規冒険者の俺でも回復効果があったんだ。
未設置状態で起動させたセーブポイントを抱えたんなら、即死攻撃でもされない限り、ほぼ無敵で逃げ切ることができる。
怪我人もこうして動けてんだ。多少の傷も許容範囲内だ。
「よし、ここから飛び降りるぞ」
「ほっ、本当にこの高さから飛び降りるのかい!?」
「無謀だ、自殺行為だ!」
「たとえ回復があったとしても……」
「セーブポイントを途中で落としでもしたら」
出るとは思ったが、いざとなったら皆怖気づいてんな。
ま、それも織り込み済みだけど。
「大丈夫だぜ、考えがある! この中に冒険者か、ギルド関係者はいるか?」
「わ、わたしはギルドの職員だが、どうしてだい?」
「おお助かる! アンタには、この『ショップ機能』を使ってほしい」
俺にはない権限も、正規のギルド職員なら元々付与されてるって訳だ。
読み通り操作できた職員のおっちゃんに、俺はセーブポイントのショップで人数分の『寝具類』を購入させた。
目の前にポンと出て来た大量の布を、また一人一人へ配る。
「寝袋や絨毯を一つづつ使って、翼みたいに広げて滑空すれば安全に着地できる。モモンガと同じ原理でな」
「でも、それじゃあ着地が……」
「それも想定内。ここは魔力が濃過ぎて使えないけど、こうすれば誰かが『飢王の城』の範囲から出た瞬間にワープでみんな安全地帯へ行ける」
セーブポイントをさらに操作して『ステータス機能』を呼び出す。
前に暇つぶしで発見した機能がようやく起動されるぜ。
『《パーティメンバー》を追加。チーム《だっしゅつし隊》が登録されました』
「パーティーにしちまえば、誰かがワープ発動圏内までいったら発動。仲良く安全地帯まで生還って流れだ」
全員が固唾を飲んで不安と恐怖を感じてる。ああ、俺もまったく同じだ。
だからこそ、俺はビビりながらも先陣切って飛び降りてやるのさ。
「逃げようぜ、みんなで。生きて……!」
「――ほう、我がそれを見逃すとでも?」
その声は、地面が平伏したみたいに響く悍ましい音だった。
声の気配だけで理解した。コイツがなんで恐怖の象徴なんて言われてるのかを。本能から震えあがるこの感覚がな。
「あ、ああぁ……あれは」
振り向いた先には、人の四倍は背のある巨人がいた。
焼け爛れた皮膚がベットリついた鎧に、胴体は無数の頭蓋骨で出来てる。手足はそれぞれ四本の腕の骨を一本に纏めて付いてて、焦げた肉の匂いが全身から漂ってる。
暴牛の角の生えた、薄ら笑った女の顔。髪も眉毛もなくて、下手に人間に近いから余計不気味に見える。
男みたいな声で語りかけて来たその魔物は、俺らを見るなり舌なめずりしてた。
「『飢王』!!」
ビビった。本能的に退きそうになったし、小便はもうチビってる。
間違いなく殺される恐怖があった。
けど堪えた。堪えて、部屋の中に戻って、他の人達から窓の向こうへ行かせた。
「飛び降りろ!! みんな、逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」
勢いついた皆は布団を広げて次から次に逃げ出した。
横目で皆が無事に滑空していくのを見て、ほんのわずかな時間だけど安心できた。
それでも、目の前から近寄って来る『飢王』の怖さで全部塗り潰される。
怖い、もう逃げたい。誰か盾にしてでもな。だけど、逃げらんない。
だってコイツを止められるヤツ、今は俺しかいないんだから。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺はセーブポイントから大量の武器を生み出した。
『鍛冶機能』使って、ありったけの刃物を出してやったら流石の魔族も一瞬はビビったらしい。その足が少し止まったぜ。
「ムゥッ!?」
「さっき拾っといて正解だったぜ、貴重な『飢王の城』の素材をなぁぁぁぁぁ!!」
隠し持ってたんだ。トラップ避けてる間、使われてた素材や冒険者たちの持ち物をな!
死者のモン使うのは気が引けるが、今だけは許してくれ!!
俺が生み出したのは武器は低級でナマクラばかり。でも物量がある! 素材に対して武器のランクが低いから、材料には困らない。
武器は天井まであっという間に増えて、『飢王』の動きを止めた。
「そんでえ、セーブポイントバリケードじゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一定範囲内に複数のセーブポイントは置けないから、固定で設置は無理。
でも武器の隙間に挟まるぐらいにはなる。
道具袋の中からセーブポイントを吐き出させた。
結果、セーブポイントと武器がビーバーのダムみたいに壁を作って、『飢王』と俺達を完全に分断した。
「よし来たぁぁぁぁぁ!! 俺で殿だ――――」
「きゃあ!」
「ッ……!」
飛び降りようと思った瞬間、俺を呼んだあの女の子が目の前で転んだ。
セーブポイントがこの娘には重すぎたみたいだった。脚が滑って派手に横転してやがる。
「ッ、嬢ちゃん、俺のセーブポイントを!!」
「待たぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一緒に抱えて飛び降りようとしたんだ。
けど同時に、『飢王』がセーブポイントのバリケードを突破しやがった。
パワーだけであの壁を押しのけて、武器とセーブポイントを弾き飛ばす。
刃物が何本も、俺らの方に飛んで来るのが見えた。
「あぶねっ――――」
――――気が付いたら、俺は自分のセーブポイントを、女の子と一緒に窓の外にぶん投げてた。
間に合わないって、咄嗟に分かったんだろうな。
飛んできた剣が何本か、俺の胴体に突き刺さってた。
……やっべえな、心臓やられた。
「死ねい。凡人が」
ブチギレた魔族の王様が、虫を踏むみたいに足を上げやがった。
シミになるんだったら、そんな汚いとこは勘弁したいけど、仕方ないか。
……ああ、大人しくやられてやるよ。
「けど、これだけやってからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最期の力を振り絞って、道具袋からセーブポイントを外に向かって放流した。
誰かセーブポイントを手放しちゃっても、拾えるかもしんねーし。
最後に飛び降りた女の子が、セーブポイントの滝に乗って逃げやすくなるかもしんないしな。
「ちゃんと逃げろよ」
デッカい足の影が降ってきて、そのまま視界は真っ暗になる。
――――そして俺の意識は消えた。
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