えぇ……旅の終点ですやん

来ちゃった来ちゃった来ちゃったヤバいヤバいヤバいヤバい終わった終わった終わった!!!!!!


悲報。セーブポイント設置人さん、世界トップクラスのSSS級危険地帯に置き去りにされた。


闇と霧で覆われた霊峰ヴァルステル山。その頂上に違法建築されてる巨大な城の一部屋に降ろされちまった。



「おっちゃんの善意だったから断れなかったけど、よりにもよって『飢王の城』かよ!!!!!」



――『飢王』。それはこの山と城の主の異名。

これまで多くの冒険者や軍を屠ってきた大魔族の一人。勇者が生きてた時代最後の生き残りだとか、また伝説級の戦士が生まれない限り倒せない存在だとか。


現代の『魔王』の名を欲しいままにする残虐非道な魔物の王。恐怖の代名詞ってモンスターだ。


普通なら、いや普通じゃなくてもこんなとこから一刻も早く逃げたい。だってこれまでと比較になんないぐらいな危険地帯なんだもん。

ここに立ってる時点で最恐のギャンブルだっての!



「でも、ここも設置場所なんだよなぁ……」



……かみちゃま、たちゅけて。



「早く、早く、早く設置しちまおう。幸いここは三か所だけなんだ。一時間も――――」



そう思って部屋の奥に進もうとした時だった。


鋭い刃物が目の前スレスレを落ちてきやがった。



「ヒィ!!!??」



ギロチン波に研がれた斧だった。何かしらのトラップが作動したみたいで、殺意マシマシな戦斧がスローモーションで通り過ぎてくとこを見た。


オーバキル過ぎるだろ、地面にモロ突き刺さってますやん!!!!



「しっ、死んだ父ちゃんの顔みえた……死んでも懲りずに酒酔っぱらってた気がする」



こんなとこで死んでられっか!!!!




――そこから、人生三回分ぐらいの運を全消費して『飢王の城』中を走り回った。


幸運なことに、『飢王』の性質が味方した。

ヤツは人も獣も魔物も等しく食うほど暴食らしい。モンスターの気配は城にまったくなく、昼寝か留守か『飢王』自身もいる気がしない。



まあ代わりに、即死級のトラップだらけだったが。


武器が雑に飛び出してくるやつ、パズルとかないと進めない場所、炎や毒の仕掛けに、水がいきなり襲って来る迷路……要らない努力をしないでくれ。


『飢王』じゃなくて『器用王』で良いだろ。いやらしい位置にトラップ作ってる時点でマメなんだよこんちくしょう!!



「こ、れ、で、最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



おそらく『飢王』の部屋らしき場所の前にセーブポイントを置いて、この城の設置予定地は全て制覇した。



「終わった! 終わったぞ! ずらかれずらかれ……って、どうやって降りよう」



問題はここが世界最高峰の高さにある城ってことだ。

『飢王』の城に交通なんかあるわけねーし、何千メートルも切り立った山の上。独立峰だから山に沿って降りることもできない。


空からじゃねーと侵入できないとこなんだよ。マジでおっちゃん、覚えてやがれ!!



「ヒコウセンのおっちゃんは行っちまったし、どっか地上へのルート見つけねーと」


「お、お兄さん、だれ?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!??? ……って、あれ?」



『飢王』にバレたかと思ってタマヒュンしたら、いたのは俺の身長半分ぐらいの女の子だった。


汚れたワンピース姿で裸足。そんでもって今にも泣きそうな面してら。



「女の子? どうしてこんなところに」


「た、助けてっ。わたし、気が付いたらここに連れてこられちゃったの」


「マ!!??」



そういえば人間攫って食ってるって噂あったわアイツ!

どこまで食い意地張ってんだクソデブ!!!!


でも良かった。ここで子どもが一人助かんなら万々歳だ。



「よし、嬢ちゃん逃げるぞ! 大丈夫、一人ぐらいなら……」


「こ、こっちきて!」


「ちょっ、そっち出口と反対側!」



嬢ちゃんが俺の言うことも聞かずに手を引いて連れて行った。


何回か焦ったけど、子供の勘の良さでトラップも上手いこと避けて、俺達はある部屋に向かったんだ。


――そこは何十人もの人が収容されてた、牢屋だった。



「み、みんな!」


「えっ、これって……」


「ここの人達、みんな攫われてきたの」



戻ってきたこの娘と俺の顔を見た瞬間、助かりたい一心でみんなが騒ぎ始めた。



「たのむぅぅぅぅぅ!!」


「助けて! ここから出して!!」


「お願いだ、俺にはまだ家族が……!!」


「ととっ、とりあえず落ち着こうぜ皆さん!」



いや、無理だこの人数……


牢屋の中は女子供に老人まで入れられてる。大怪我してるやつもいるじゃん。


この娘一人だけなら一緒に逃げられたけど、流石にこの人数。

助けてやりたくても……



「あ」



――名案、来ちゃったかも



閃いた俺はリュックの中から道具袋を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る