平和が一番
ゆらりんご
平和が一番大事ってこと(2回目)
舞と健太は高校生カップルであり、高校生にしては珍しく、双方ともに一人暮らしである。この設定を理解できないと、読者に混乱をもたらすであろうから、寛大な読者の皆様は、このように唐突な始まり方をさせてしまった筆者をどうか許してほしい。
この話は高二の夏休み、健太の家に舞が来たところから幕を開ける。
舞はドキドキしていた。健太の家に行くのは初めてだ。そもそも、異性の家なんて行ったことがない。嬉しさと緊張で脳がパンクしそうだ。きっとこれから始まるであろう、健太とのロマンチックな想像に期待を膨らませていた。
「ねえ、舞」
「な、なに」
緊張で声が弾む。舞が来てまだ数分しか経っていない。これが普通の恋愛小説であれば、半数以上の女子がきゃあきゃあ叫ぶ甘酸っぱいカップルのワンシーンが描かれるであろう。しかし、物事はいつだって思い通りにいかない。この話だってそう。舞さえも予想していなかったセリフが健太から発せられる。
「アロエをこねて石鹸を作ろう」
五分間の沈黙
のち
「は」
舞ののどから信じられないほど間の抜けた音がでた。
長く険しい戦いが始まった。アロエをこねる?石鹸にする?クエスチョンだらけの茨の道である。しかし、何度も話し合いを重ねたこと結果、学年トップを常に競う彼らの脳内には着々と勝利への方程式が見え始めていた。舞はその間ずっと健太の家に泊まり、熟考していた。初めて家に来た時のあの緊張はもうどこにも、ない。
「よしやろう!」
そう言ったのは一体どちらだったのか。いよいよ、アロエ石鹸づくりの実験が開始された。二人ともアロエ石鹸に対しそれぞれのこだわりがある上に、職人気質で頑固だ。喧嘩も多発した。ある日、健太が早めにアロエを冷蔵庫から取り出してしまい、上手く固まらなかった。
「だから、明日にしろって言ったじゃん!」
舞の一言で今まで溜まっていた健太の鬱憤が爆発。大乱闘となった。試行錯誤の日々まだまだ続く。アロエをこねる時間、休ませる時間、冷やす時間。考えることは山積みだ。アロエの素材にもこだわった。わざわざ二人でアマゾンの奥地にまで旅をしたときのこと。
「アロエどうだ」
健太が殺虫剤をまきまくって、舞を守りながら、尋ねる。
「質がイマイチ」
「アマゾン、ダメだったかな…」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。舞が健太を励まそうと口を開きかけた。その時、健太が世にも恐ろしいことを口走った。
「ところで、玄関の鍵閉めたっけ?」
突如、凍りついた空気。二人の背中に戦慄がはしる。猛ダッシュで家に帰った。結局、日本でネット上のア○ゾンからポチることになった。
結局、二人は夏休みをまるっとすべて使って、アロエ石鹸を完成させた。アロエ石鹸を作る様子はライバル同士が夢の共同戦線を張るアツい展開のような感じではあったものの、筆者的には残念なことに、恋人同士の甘い雰囲気ではなかった。だがしかし。二人が納得のアロエ石鹸ができたことは非常に良いことである。
「できたね」
「おう」
感動のあまり、二人は熱い抱擁をした。さながら、それはロケットが無事に飛び去るのを見て歓喜する研究者のようであった。恋人同士ではなく。
「あのさ、これは舞がつかって」
「いいの?」
「うん、俺らの夏の思い出だろ」
「そうだね。ありがとう」
舞はより一層、健太を愛しく思った。なんて幸せなんだろう。もう、何も怖くない。この石鹸を使って、肌の保湿力高めてやるわ…。しかし、舞はこの時気づいていなかった。恐るべき脅威が目の前に近づいていることを。
…だから今土下座して宿題を見せてくれとほざいているわけか」
「はい、その通りです」
「私は彼氏といちゃついてたやつのために、必死にやった宿題を無償で見せないといけないの?」
「そこをなんとか」
「都合よく私を頼るの?」
「お願いします」
「夏休みの遊ぶ予定、全部キャンセルされたのに?健太を選んで私を置いていったくせに!」
「その節は誠に申し訳ございませんでした」
唯は大きなため息をついた。
「舞、二度あることは三度ある。仏の顔も三度まで」
「?」
「人間もさ、三回までならミスするから、許してやってもいいよってこと。でもあんたはこれで累計四十九回目。宿題やってないのはずっとあんたが怠惰だったから。因果応報よ。今回は自分で何とかして」
「そ、そんなあ…。ゆいいいいい」
泣きつく舞。それを無視する唯。そして、なんだかんだ宿題を終わらせていた健太。今日も地球は平和です。
平和が一番 ゆらりんご @elecatoyurari
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