第8話 お世話になりました

「お世話になりました。ありがとうございました。私は旅に出ます。探さないでね!」

一枚の書き置きの手紙がテーブルに置かれていた。手紙を書いたの者の名前は書かれていなかったが、なんとなく誰からの手紙か分かった気がする。

たぶん、ぬいぐるみのアイツ。


再会直後は、ちょっかいやイタズラをして戯れようとしていたが、仕事で慌ただしくしていたのを見てからか、徐々に絡んで来ることは少なくなった。

時に、仕事の愚痴の聞き手に付き合ってもらったりして精神的にいろいろと助けてもらった。体全体を使った身振り手振りで解決策を一緒に考えてくれたりもしてくれた。


それはそうと、今さらながら気づいたことがある。

「アイツ、字が書けるんかい!」

手紙はたぶん、アイツが書いたものだと思う。そして、達筆な字。

「アイツの推定年齢を考慮すれば、こう言った字は書きそう」

他の動物と同様に日々成長をして、年齢を重ねるのであれば、アイツは人間換算でだいたい老人くらいの年齢になる。

ただ、アイツのこれまでの行動を見ていると、どことなく「子ども」のようなたち振る舞いをしているので、「老人」という表現はもしかすると間違っているという可能性もある。

まあ、確認するにしてもぬいぐるみが急に動けるようになった理由を知っている人なんていないので分からないが…



アイツが家を去ってから数週間後、家のポストに一枚の手紙が入っていた。

「お久しぶりです。体調お変わりないですか?私は新しい地でのんびり過ごしています。風邪引かないように!」

その手紙に押されていた消印の郵便局はここから数百キロ離れた場所だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この子がとにかくうるさい! @noritaka1103

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ