第56話 神楽副会長
ㅤ学生会の神楽に葡萄と雫は呼び出された。
「この前の騒動から、飴川くんが妖精であることが一般生徒らに露見しつつある。
ㅤというか、もう何人かは知っているようだが……魂魄鎧の基本効果は身体感覚の拡張とマテリアルの顕現だ、水だか煤だか結晶を生身で顕現することを言わないだろう、もっと細心の注意を払って欲しいな。
ㅤじきに竜狩学園の生徒を招いてセッションがある、うちと違って神秘種の混血など以ての外という輩だぞ」
「せめてその間は大人しくしてろと――授業でもなければ、問題ないと想いますが」
「あのなぁ」
ㅤ神楽は一之瀬ほど豪胆とはいかないようだ。見るからに苦労人って感じだしな、会長があのように奔放だと調整役に負担がいくのは自然かもしれぬ。
(他校とのセッション、交流戦とはまた別件なんだろうか)
ㅤあるいは交流戦そのものの調整のためかもしれないが、雫だって目立つことは避けたい。
「俺は一般学生ですよ?
ㅤこの前まで目も見えずなにもできなかったやつが、そんなイベントへ安易に巻き込まれるわけが」
「そう言っても、現に坪内さんに殺されかけていただろうに」
「他校生がこんな狂犬とは限らないでしょう」
「いざなにか起きたら処理するのは、こっちなんだからな。
ㅤそれだけはよく覚えていてくれよ……それで、長由利黄精の手下の男は解放した。
ㅤ彼女や個人的な報復とか、大丈夫なのか」
「そのときは返り討ちにしますよ」
「そもそも諍いを起こすなと言う話だ!」
「あぁ、はい。
ㅤとかく彼女が狙うべき神秘種なんてほかにいくらだっているはずですよ。
ㅤ昔から世界あちこち飛び回ってるそうですし」
ㅤ長由利に対する懸念があるとすれば、自分より寧ろ葡萄のほうだろう。
ㅤ彼女はあの女へのトラウマを克服できていないのだから。
「わざわざ学園とことを構えるつもりもないはずです、俺はその間寮に引き篭ってでもいればいい」
「その発言あまり褒められたものではないんだが……まぁ注意を払ってくれるなら、それ以上こちらから言うことはないよ。気をつけたまえ」
「はい」
ㅤ重ねがさね言われた。そんなにいい加減な風に見えたろうか。
「……直す気ないでしょ、あなた」
ㅤ神楽が立ち去ってから、葡萄に言われてしまう。
「いや、直しようがないんだが。
ㅤ俺が喧嘩を吹っかけたわけでもなければ、いずれかというとお前に付き纏われたために起きた自体だし」
「それは、ごめん」
「済んだことだからいいよ。魂魄鎧や知覚の弱みも教わった、それをどうカバーして動けるかも今後の課題だ。また考えることが増えたけど、暇しなくて助かるよ」
ㅤ彼女は訝しい顔をする。
「そんな考え方、あるんですね」
「ダメか?」
「いいえ、個人的な問題かもしれませんけど。
ㅤ長由利さんに負けたくなかったんです、あの人の言葉に、いつも。
ㅤ私の勉強とか努力とか、ただ苦痛からの裏返しというか」
「――」
「だから楽しいだとか言って没頭してるあなたが……正直、まったく理解できない」
「本当に正直だな」
「でも今日は少しだけ、肩の力を抜いてもいいかもしれない。
ㅤそう思えたから、ありがとう」
ㅤ葡萄の礼を聞いて、雫はなんだか面映ゆかった。
フェアリーダスト・ドロップ ~俺をクズ呼ばわりするクラスの女子が眷属に堕ちたんだけど?~ 手嶋柊。/nanigashira @nanigashi
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