第31話 傷あるティバルラ
天候が崩れることもなく、途中野盗に襲われることもなく、なんの被害も被らずにラフィリヤ騎士団が高原に到着した。そのうえ、陽もまだ落ちていない。こういったことは稀有なことらしい。陽が完全に落ちる前に、騎士様たちは翌日の布陣と行動を改めて頭に叩きこむ。
「大蛇は先日の遠征によって、片目を潰されているはずだ。さすがに完全回復はしていないだろう。そこで今回はその死角を利用する」
ティバルラ様が今回の討伐戦について天幕の中で会議されている。
俺は戦うわけではないから物資を運ぶ手伝いをさせていただくことになった。想いの庭の精霊によって盗み見た情報だと大蛇はとにかく体が大きい。とにかく外の鱗が硬そうだ。剣が通じるのかも見た感じ怪しそうだが、それは俺が判断できることではない。
今回のラフィリヤ騎士団の人数はおそらく前回よりも若干少ない。少数精鋭部隊に切り替えたのかもしれない。
天幕から出てこられた騎士様たちが武器を次々と運んでいく。その間に俺は食事を作る手伝いをする。できた食事を渡し、各自食べ終えられた器を集める。汚れた器を布で拭き取ってから少量の水で洗い流す。
すると、ひとりの騎士に肩を叩かれた。
「ススラハ殿、団長がお探しです。お休みになられますので、それでかと」
礼を言って、給仕からティバルラ様の従者に戻る。ティバルラ様がいるであろう天幕に駆けつけると、ティバルラ様は既に天幕の中にいらっしゃって「入ってくれ」とだけ伝えられる。許可を得た俺は、「失礼します」と言いながら中に入った。
中に明かりは灯されておらず、真っ暗ほどではなかったが暗かった。月明りでティバルラ様の顔がほのかに見えるくらいだ。
「悪い。灯りはあまり得意ではなくてな」
「いえ。問題ないです」
ティバルラ様は、そっと出入り口付近で剣を抱きしめるように座り込んだ。
「見張りは私がしておく。お前は後ろで眠るがいい」
「えっ、いや、さすがに」
「いいと言っている」
「でも」
「許す」
確かに俺が見張りをやってもほぼ意味がないのは残念ながらわかる。
「守らせてくれ」
そう言われると、折れる他あるまい。俺は、その場に寝転んでティバルラ様の背中を下から見つめた。大きい背中だ。きっと多くの傷がティバルラ様を護っているのだろう。傷ついたぶんだけティバルラ様は傷にその身を任せたんじゃないかなと勝手に思う。
俺は貴方の傷になりたくないし、傷にしたくもないですよ。
そう伝えたかったのに、俺はすぐ瞼を閉じてしまった。
⁂
大蛇討伐当日、目撃情報があった草原まで移動する。俺は騎士団の後ろの方でティバルラ様の馬にまたがっていた。前よりも乗り心地というか揺れを感じることは少なくて、俺はいろんなことに恵まれているんだと思い返しては感謝するようにたてがみを撫でた。
ティバルラ様は竜に乗って、上空から大蛇を確認しながら列に合図を出す。
いい天気だ。竜が青空の中を飛ぶのがよく見える。すると、前の方でザクリヤ様が声を荒げるのがわかった。止まる前列に気づいて馬も立ち止まった。
空気が一瞬で殺気立ったのがわかる。
「――全員、構えろ!」
ザクリヤ様の声が確かに聞こえて、俺は生唾を飲む。戦いが、始まる。するとティバルラ様の馬が突然後ろを振り返り、離れるように来た道を戻る。馬はただひたすらまっすぐに来た道を戻る。まるでそれが命令であるかのように。
「待って、なんでっ」
後ろからわずかに声が聞こえる。
「二体とか聞いてねえぞ!」
大蛇が、二体いる。
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