第23話 療養椅子のザクリヤ



「なるほどねザクリヤがススラハを見つけてきたのかぁ」

「いや、前も言いましたよね!?」

「改めて感謝するぞザクリヤぁ」

「傷口開くんでもう喋んないでいいですか!?」


 アリシャラ公とザクリヤ様の掛け合いを見ながら、ティバルラ様から説明を受ける。


 ザクリヤ様は先日の討伐遠征で大怪我を負った。しかし、致命傷だったにも関わらず順調に回復している。しかし前線にすぐに戻ることは難しいため、今はアリシャラ公の下へ戻って療養している最中だったという。


 すると部屋の扉が勢いよく開けられた。現れたのは、黒い身なりをした黒髪の女性だった。


「ずいぶん賑やかですねアリシャラ様」

「ア、アシュリタ……」


 アリシャラ公の奥方だなと一瞬で察した。奥方が一歩だけ前進するとアリシャラ公はザクリヤ様から離れて後退りする。その足取りに合わせるように奥方はまた一歩一歩とアリシャラ公に近づこうと足早になっていく。


「そのご様子では西の森の偵察についての判断も下されたということですね」

「いや、その、まだ……で……」

「はい?」

「えと……ちが……」

「なにがどう違うのですか。お隣の部屋で詳しく教えてくださいませ」


 アリシャラ公がバッとザクリヤ様の方を向く。合わせてザクリヤ様はさっと視線を逸らした。次いでアリシャラ公はティバルラ様を見る。ティバルラ様はというとアリシャラ公に背を向けてすっと俺の前に移動された。


「ティバルラッ! お前っ、それはずりぃぞ!」


 すると奥方は肩をすぼめて小さくため息をついた。


「ホルーリア」

「存じておりますアシュリタ様」


 名を呼ばれたホルーリアは扉を両方とも開けて隣の部屋の扉も開けに行った。アシュリタ様は壁に追い込まれたアリシャラ公に近づいて、手を取った。


「さあ参りましょう」

「ぅ、あ……はい……」


お顔を真っ赤にしたアリシャラ公を連れていくアシュリタ様が俺に顔を向けられる。じっと見つめられるが目を逸らすのはさすがに無礼だからその視線にひたすら耐える。


「……ティバルラ」

「はい」

「その様子だとまだお伝えしていないようね」

「……はい」


 少しだけティバルラ様の眉間に皺が寄る。怒ってはいないが少し不満な時のお顔だ。

 なんの話をしているのか俺にはわからないが、当人たちには通じ合えることらしい。アシュリタ様は再び俺の方を向き、にこりと微笑まれた。


「ススラハ」

「はいっ」

「あなたに此度の討伐遠征に同行してほしいの」

「はいっ……え?」


 ティバルラ様の遠征に同行すること。戦力にならないであろう塗爪師の俺の同行をアシュリタ様がなぜ求めているのか、俺にはわからなかった。

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