第三章 四大諸侯のアリシャラ公
第12話 幸福なススラハ
あれからティバルラ様と顔を合わせないまま遠征に行ってしまわれたから、この後が少し心配でもある。心配ばかりしても意味がないのは知っているから、とにかく体を動かすことにした。もちろん無理のない程度に。
稀に身体に負荷がかかる時がある。ということはそれなりにティバルラ様から信用されているのだと思う。俺が受け持っている負荷がどれだけ負担が大きいのか、それとも小さいのかはわからないけど、少なくとも簡単に意識を手放したくなるくらいの大きな負荷はかかっていない。そういう時は素直に安静にすることを覚えたし、今のところは順調だ。
強化付与の発動は主に対象者の意識と連動するように紐付けられている。だから対象者が自由に使用できるようになってはいる。でも、塗爪師の方から制約を加えている部分もある。それが加護の上限の制御だ。
対象者が強化付与の加護を乱用することで負担がかかるのは、当然一方的に力を授ける側の塗爪師の方だ。行き過ぎた使用で過去に塗爪師の死亡例もあったと習ったことがある。負荷を受け持つ塗爪師が倒れたり、負荷が大きすぎて死んだりしては塗爪は意味がない。
だから塗爪師には専用の学舎があるのだ。そこで一番初めに学ぶのが自分の体力のおおよその限界だった。同時に精神力も大事だ。健全な身体と健全な精神を持つ者に、塗爪師の加護は微笑む。
自室を出てふらふらとあてもなく廊下を歩いていると、洗濯室で同僚が大量の洗濯物を二つの籠に入れている最中だった。
「ススラハ、いいところに。暇だったらこれ干してきて」
「はい暇でーす」
渡された洗濯物を持って南の部屋へ向かう。南の部屋の外には物干し場がある。そこにぶら下げてある紐を取り外して、服を横向きにして片袖に紐を通していく。多めに紐を余らせて近くの窓辺の出っ張りに引っかかる。多く服を吊り下げると紐が切れてしまうから、間隔をとって少なめに干す。それを五回ほど繰り返す。
洗濯物が入っていた籠二つを重ねて洗濯場に戻る。この屋敷は水が豊富に流れているから水に触れる機会が他より多い。洗濯物が毎日出せるところはラオドーラ国ではとても裕福だ。
今の俺は仕事も寝るところもあって、学ぶことがまだまだたくさんあって、とても幸福だ。だからこそ、もっとティバルラ様の役に立ちたい。
洗濯籠を置いて次なる仕事を求めて作業長の元へ向かっていると、誰かに名前を呼ばれる。作業長だ。廊下の曲がり角から俺を見つけて、こつこつとこちらに向かって歩いてきた。
「ススラハ、あなた体は大丈夫なの?」
「おかげさまで」
「旦那様が帰ってきたらあなたも遠出よ。今のうちに体をしっかり休めておきなさいね」
「え?」
遠出、その言葉の意味がわからなくて間抜けな声が出る。買い物は遠出ではないし、どこかに行く予定を俺は知らない。
そんな表情をしていたのだろう、作業長が「ああ」と言って懐から一枚の手紙を出した。どうやら、ティバルラ様が送られたもののようだ。
「先程手紙で託けられたの。旦那様がご帰還されたらさっそくだけどアリシャラ公にご挨拶よ」
「アリシャラ公? あの四大諸侯のアリシャラ公ですか? でも、なんでです?」
すると作業長は首を傾げて当たり前のように話す。
「なんでって、そのアリシャラ公が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます