第6話 二重捜査
「—―芹沢蓮華の、調査もするんですか?」
「ああ。水嶋修二の依頼も、正式に引き受けたところだからな」
司が慌てた様子で、
「い、いいんですか?そんな二重スパイみたいなマネ。それって、依頼者の芹沢蓮華を裏切ることになるんじゃ?」
「むしろ、好都合だろう。私の仕事はあくまで、不倫調査。どっちの味方とか、そういうのはない。修二と蓮華の2人を、あくまでお互いの調査のために、それぞれの腹を探る。その方が、両者の捜査が効率よく進むだろう」
タバコの箱から一本咥えると、しゅっと引き抜いて火をつける。
「それに、修二の不倫は確定しているが、蓮華の方は、まだ何とも言えない。托卵だって、杞憂かもしれないしな」
この言葉には、僅かに遥希自身の希望も含まれていた。
杞憂であってほしい、というのが彼女の気持ちだ。あんな気持ちを、これ以上味わいたくないし、味わわせたくもない。
「あ、またタバコ吸ってる」
「そうだよ。悪いか?」
「悪いですよ。美容にも健康にも」
自分が借りた事務所で、タバコを吸って何が悪いのだか。
さっきは大人しくベランダで吸ったが、なんで自分が新入りバイトの言うことを聞かなきゃならんのだという気持ちになった。
わざと、ふてぶてしい態度で、ぷーっと司を煽るように副流煙を吐き出す。
それを見た司は、怒りを通り越して呆れた表情で、
「アロマディフューザー1個じゃ足りませんね」
「私がアロマディフューザーになろうか。ま、ヤニの香りだけどな」
おちょくるように笑う遥希に、司は意外にも悲しそうな顔になり、
「それに、もったいないです」
「なにが?アロマディフューザー買うのがか?」
「遥希さん、せっかく可愛いのに」
「!?」
思いがけず、タバコを落としかけた。
「髪だってさらさらだし、足も細くてスタイルも良いし、顔だってすっぴんなのが信じられません」
「あんまり軽々しく言うことじゃないぞ、それ」
「だって、悔しいんですもん。せっかく素材に恵まれたのに、こんな不摂生してたら、すぐに髪はチリチリのシミだらけのブサイクなおばさんになっちゃいますよ」
「お前、友達から無神経って言われるだろう?」
余計なお世話だ本当に──と思いながらも、タバコの続きを、吸う気にはなれなかった。
醜くなる。
それはある意味、容姿だけは良いクソ両親に対する復讐にもなる、そう思っている。
あんなろくでなし共の血を自分が引いている。それだけでも寒気がする。
この家系を根絶やしにして、醜く生きて醜く死ぬ。
それでいいんだ。
いいんだ——けど、
「……」
司の捨て犬のような顔がちらつく。
遥希は大きくため息をついて、まだ長い吸殻を灰皿に押しつぶした。
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カッコウの餌食たち イカクラゲ @akanechankonabe
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