魔力の回復で


 話し合いは当番終了後に、俺の自宅でふたりきりでおこなった。


「一人暮らしなんで、おかまいはなにもできないけれど」


 お茶を出すだけかな。あ、モナミさんが持ってきてくれたいきなり団子があったな。


 妻が亡くなったことを話すと、ユミさんにお線香をあげてくれた。100円は出さなかったから東日本の出身?


 芦田陸将補が口を開いた。


「早速だが、まずは私のことから話そう。詳しいことは教えられないが、現在は各自警団を指導して魔物、魔物でわかるよな。魔物討伐を進めさせる仕事をしている。素材を手に入れるのが最重要なんだ」


 うなずけることだな。


「本来の階級からすると幹部としての仕事をするんだが。……これは教えてもいいだろう。大混乱の後だ。湧き穴の調査で部隊が壊滅した。生き残りはわずか。陸海空問わずに同様の事態がおきた。自衛隊全体が損耗している。そこで、立て直しを図っているんだ」


 おいおい。


「自衛官が足りないんだ」


 ありゃ、お誘いの方向にか。


「俺に、自衛官になれと?」

「ああ、そうだ。……ケントは……実戦経験があるな?」

「……」

「イギリスのSAS(※)の訓練に参加したことがある。ヤツラと雰囲気が似ている。実戦経験者だな?」

「……」

「ほとんどの自衛官は、実戦、対人戦の経験を積むことがない。私は訓練名目で英軍に、SASには非公式で出向した。その時と大混乱の時に、経験した」


 聞かなかったことにしていいですか?


「ケントは殺すことへのためらいがない。自警団が最初に乗り越えなければならないのは、ゴブリンが人に見えることだ」

「もしかしたら犯罪者、殺人鬼かもよ」

「そりゃないな。流派はわからんが、修練を積んだ足さばきだ。単なる犯罪者が修行するか? 自衛官の補充が急務。実戦経験者なら願ってもない」


 だろうな。まあ、想定内なんだけどなぁ。困ったな。


「んー、我流なんだがね。で、お誘いだけ?」

「……知りたいことは山のようにある」

「うん、俺もね。さっきはああ言ったけど、考えがキチンとまとまってるわけじゃない」

「……」

「俺はついこの間帰宅したばかりでね。行方不明扱いだったんだ。実際、ここ7、8年の記憶に抜けが多い。正直なとこ、今は整理するだけで手いっぱいだ」

「行方不明? どこで、どうしていたかわからないってことか?」


 そんないぶかしそうに見られてもな。話していいかどうかはまだ判断できない。あんたをよく知らんからな。まあ好ましい男ではあるがね。


「自警団の当番には参加を続けるが、先のことはまだ決められない」

「……わかった。それなら剣と……魔法については」

「それも整理させてくれ。武器と魔法については役立つ提案ができると思っている。ふふ、芦田陸将補が考えているよりアニメとゲームの知識が役立つよ。そんな世界になってるようだから」


 これからも話しをする機会を作ること。できる限り討伐に参加すことを決めた。

 俺からもいくつかお願いをして、芦田陸将補は帰っていった。



 昨日は当番時間の終了近くに、半導体メーカーがゴブリンの死体の引き取りにきた。

 冷蔵機能のある新しいトラック、コンピューター制御の器材が使えるようになってきているらしい。

 ひとりで倒した十匹分は、自警団で倒したのではないと遠慮されてしまった。個人からの買い取りにしてくれるそうだ。

 ゴブリン二匹分は、自警団の監視経費と環境整備経費として受け取ってもらったけどね。



 報奨金と湧き穴の手当で、和紙を大量に買うことができた。

 火の国とよばれる熊本県は「水の国」でもある。

 豊富な湧水のめぐみがあるから、玉杵名市の近隣でも良質な和紙を生産していた。

 購入できるツテはない。

 サエさんに聞いたところ、知り合いの元工房を紹介してもらえた。流通が絶たれ需要もなく、在庫を抱えて困っていたので全て買いとった。


 ハズラック王国で諜報魔法を開発した。

 アニメでみた魔法使いの使い魔とか、陰陽師の式神とかが実現できないかなという単純な考えだったけどね。

 俺の領地の産業として製紙技術を広めて、紙は高価ながらも手に入れることはできた。その紙で形代かたしろを造り、魔力をこめて仕事をさせる。

 それをここでも再現する。和紙なのはもっぱら気分の問題だけどね。


 和紙を人形ひとがたに切り抜き、魔力を込める。魔力は十分に回復している。

 認識阻害と感覚同期、録画機能、自律稼働などを付与する。

 式神くん完成―!

 試しに隣の閉店したファストフードのチェーン店に送り込む。人気のない店内や調理場を自由に移動できた。


 さらにいくつかの式神くんを放って、近隣に潜り込ませた。

 式神くんが見えてるはずだが、存在を気づかれていない。

 うん、気まずい場面は録画消去。ピーピング・ケントってあだ名は願いさげだな。




 翌朝、また一班で湧き穴にいく。

 二班、三班の時にはゴブリンは散発的に湧いたが、二匹を超える群れは出なかったそうだ。


 俺のときだけ群れで湧くってないよな。南無フラグ大明神。


 到着直後から、みんながみてくる。華奢な美少年、うるうる目で見てきてないか?

 今朝も芦田陸将補が来ている。指導自衛官は顔ぶれが変わっているが、付録がいるんだよね。

 迷彩戦闘服じゃなく、現場に常装? 視察なの?


 交代の申し送りで、発言させてもらった。


「昨日見てたなら俺に期待してるんだろうが、参戦するのは群れで湧いたときだけだ。雑魚は自分たちで狩れ」

「え?」

「一匹、二匹は自分たちでやれ」

「ばってんあたなら簡単に倒するやろう?」

「ああ簡単だ。だが昨日の程度では運動にもならん。弱すぎる。俺は強いから、死にそうになったら手を貸してやる」

「……」


 期待の目が不満げなものに変わる。


「お前たちは弱い。死にたくないなら強くなれ」

「新入りん年下んくせに態度でかかね」

「だ、だが、あたん剣なら倒する。おれたちには武器がなか!」


 フンと鼻で笑ってやった。


「くるぞ! ゴブ一匹!」


 おっさんが声をあげる。俺に文句をいった男はゴブリン剣を持っている。ちょうど良い。


「その剣を貸せ。使い方を見せてやる」


 しぶしぶ渡してくるゴブリン剣を二、三度振る。刃先を確認する。鋭さがなくなって、なまくらになってるなぁ。


「手入れぐらいしろ」


 湧き穴に向かって歩きだした。

 おっさんの警告より前に、ゴブリンを探知していた。おっさんは奥まではわからないようだな。


 一匹のゴブリン。俺を見つけて威嚇の声をあげて走ってくる。

 身を低くして脇構え。すれ違いざまに胴を切る。素早く振りかえって唐竹割り。

 ゴブリンは四つになった。


 残心して、布でゴブリン剣をぬぐってから返す。


「この剣でもこれくらいやれる。強ければな」

「……」


 美少年、熱い目で見ないで。モナミさんも。




※ SAS:Special Air Service 英国陸軍の特殊空挺部隊。現代戦では世界最初の特殊部隊。

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英雄の帰還 ほどほどでいくけど、復讐はキッチリやらせてもらいます。 ヘアズイヤー @HaresEar

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