群れの来襲


「どのくらいだ! どのくらい来る!」


 芦田教官の叫びに答えが帰ってきた。


「十はいる! でかかとが二! まずかっ!」

「そぎゃんか!」

「二匹超えたことなかぞ!」

「無理だぁー!」

「やばかぞ!」


 ほっ、安心。「まずかっ!」って言うから、千か万でも来るのかと思ったよ。そうだ確認しておこうっと。


「くっ! 総員戦闘準備!」

「でも、数が」

「大丈夫だ。一匹ずつやればいいんだ」

「やれる! 君たちならやれる!」


 自衛官がみんなの士気を鼓舞しようとしてるな。


 さっきのゴブリンの死体までいき、抜剣して斬りつけた。

 うん、兵士用の剣でも斬れるな。次は魔法だが、燃やしたらまずいよな。素材だし。

 氷か?

 氷槍アイス・スピア、いや氷弾アイス・ブレットでまにあうか。魔力は節約しないとな。


 魔法は詠唱を必要としない。

 少なくとも俺は。

 詠唱はイメージを固めるためのもの。効果や威力を決め、標的を照準するためのもの。

 正しいイメージができれば、発声はいらない。

 声を出して詠唱もするが、それには理由がある。味方と連携するのに、こちらがどんな魔法を使うか知らせるためだ。

 今ここでは連携は必要とされないから。

 

 氷弾アイス・ブレット


 イメージし、無声で発動する。

 俺の眼前に一個の小さい氷の塊が現れ、ゴブリンに向けて撃ちだす。速度はあげられないが、照準通り額の真ん中に穴をあける。

 良し!

 剣も魔法もこいつらに通用する。こっちに戻ってきても戦闘力は落ちていないってことだな。魔力も半分は回復した。


 顔をあげると、芦田教官と目があった。

 ずっとこっち見てたの?


 俺の武器が魔物に通用し、倒せること。魔法でも戦えると知られれば、何が起きるか。

 簡単だ。取り込もうとされる。


 攻撃要員として湧き穴に縛りつけるか?

 なぜ戦える剣を持っているのか吐かせるか?

 魔法の力が欲しくて拘束するか?


 どこでも同じだな。

 飲み込もうとして、俺に飲み込まれたハズラック王国と同じだ。

 はぁー、面倒なことになるが、仕方ないか。人死を見るのは好きじゃないし。

 また一番上まで行き着くしかないかな。繰り返しとは、なんと面倒な。


「芦田教官、みんなを下げて。俺がやる」


 じっと見つめてきてるけど、にわかには信じられないんだろうな。

 だけど、さっき徽章を見たときに階級章も見ているんだ。

 なぜこんな現場にいるのかわかんないが、「陸将補」って、二つ桜の略章をね。少将なんだね、芦田教官。将の判断ができるものと期待するよ。


「倒せるのか?」

「ああ」


 湧き穴の方に歩きだす。途中で罪人の若者と目を合わせ、ニヤッと笑いかけた。


「俺の戦いを見てろ。見逃すなよ!」



 最前部で矛と槍を構えている自警団員の間を抜ける。


「おい! まて!」


 軽く手を上げて振っておく。

 先ほどの戦闘位置で、抜剣する。


 穴からの魔力が強くなったのを感じる。といっても魔帝たちと比べれば、ごくわずかに濃くなったかなぁ程度だけど。



 闇からバラバラとゴブリンが湧く。数は八つ。

 駆けてくる先頭を袈裟懸けさがけで両断。左に踏み込んでクルリと体を回転させて、二匹目の胴をぐ。

 右に一歩踏み込み、二匹一緒に首を飛ばす。

 再び左に進んで、左右に剣を振り二匹を屠る。

 下段に構え、右を切りあげ、左に切りさげる。

 これで八つ。


 で、残り二つ。

 ゆっくりと穴から出てきたもの。3mはないな、このオーガたち。

 こちらからちょっと小走りで近づく。不審げな表情をして、人の背丈ほどの剣を振りあげる。


「遅い」


 相手の剣先が頂点にとどく前に一足飛びに踏み込み、横に一閃。革鎧をつけた胴を二匹まとめて両断した。


 残心したが、後続はこないようだ。

 穴からの魔力で奥までは探知できない。せいぜい20mぐらいまでか。あ、さっきのおっさんはどのくらいまでわかるのかな。


 腰の小物入れから布を取りだして、剣をぬぐい納剣する。全部倒すのに一分かかってない。返り血も浴びてない。


 

 ポカーンとしている自警団員たちに向かって歩いていくと、芦田教官が出てきた。


「……話がある」

「でしょうね。あ、少し待ってね」


 そう言って罪人の若者の前まで歩いていく。

 驚きに目を見開いている。


「見てたか? 俺とお前たちでは強さがまるでちがう。アホウなことをしたと思いしれ」


 そう言って芦田教官のところに戻った。



 みんなから離れて芦田教官と向き合う。視界に湧き穴をいれている。


「で?」

「なぜだ?」

「なにが?」

「……お前の剣はなぜ斬れる?」

「聞きたいことはそれ?」

「……いや。どうしてそれほど戦える?」

「話せば長い。信じられないようなことだしな。でも、本当にそれを聞くのが望みか?」

「……」

「そこは、『自分たちはどう戦えばいい?』だろ?」

「……」

「状況を変える方法が知りたいんじゃないの?」

「そうだ。ここ、いや日本全国で苦戦している。俺たちの武器じゃ倒せない」

「武器ねぇ。それだけじゃあダメだろうな。いくつか仮説はあるが、世界は根本から変わった。順応しなくては生き残れない。全てにおいてね」

「順応か……」

「戦争はもうとっくに始まってるんだ。ぼやぼやしていれば滅ぶぞ」

「戦争……いや憲法で」

「あそこで死んでいるゴブリンにいえよ。憲法で戦争はしないことになっているから帰ってくださいってな」

「……」

「こっちも情報が足りてない。芦田教官、いや芦田陸将補。お互いが何を、どこまで協力しあえるのかを話し合う必要がある。この戦争に勝つためにはね」

「……」


 ちょっと焚きつけすぎたかなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る