俺の初恋はBLか否か

うめつきおちゃ

第1話 出会い

出会い

 まず最初に伝えておかないと良くないと思うので言っておくと――。


 

 ――この話は楽しいものでないと思う。

 人によってはありふれたものだし。

 人によっては虚飾にまみれた、くだらない創作話でしかないかもしれない。

 辛いだけの物語に見える人もいるかもしれないし。

 安っぽいと思われるかもしれない。


 個人を特定されても困るので色々と変えてはいるがほとんど事実だと思って読むと……嫌な気持ちになるかもしれないのでフィクションとして受け入れて欲しい。あぁこんな人もいるんだ、くらいがありがたい。


 だが、せっかく書いたからには最後まで読んでもらいたいので敢えてオチを先に書こうと思う。


「俺はこの気持ちが初恋だったか今もわからない」

「果たしてこれはBLなのか」

 この二つの疑念が今も俺を苦しめているし、この先も一人で悩み抱えて生きていこうと思う。

 


 ――――


 そいつとの出会いは小学校五年生の時、同じクラスになった時へとさかのぼる。

 

 平成が二桁になった頃、小五なので俺の名前は適当に『ショウゴ』とでもしておこう。

 俺の通っていた小学校は当時、小三と小五のタイミングでクラス替えが行われていた。一学年四クラスで同級生はだいたい百人ちょっといたと思う。

 姉の時はもっと多かったらしいが当時は少し子どもが減り始めた時期なのでこんなもんだったはずだ。

 だから同性の同級生でも話したことのないヤツや顔すら知らないヤツも平気でいた。


 でもそいつは有名だった。 


 そいつは『アカ』と呼ばれているアメリカ人とのハーフで『アカ』というのは本名と見た目を捩った、今なら到底、許されないであろうあだ名で呼ばれていた。


「アカちゃん」

 

 色白な肌といつまでも幼い雰囲気、赤みがかった髪の毛。そして後に知ったが母親の意向で背負わされた赤いランドセル。それらが複合的に絡み合いいつの間にからか、そんな風にからかわれていることで有名だった。

 多分低学年の頃にはそんな呼び方を聞いたことがあったと思う。

 周りはイジりであり本人はイジメである残念ながら小学生らしい典型的なパターンだ。

 本人からしたらたまったもんじゃあないだろう。

 

 今でこそ色とりどりなランドセルを背負うのが当たり前だが当時は今と違い男子は黒、女子は赤のランドセルなのが当たり前だった。

 六年生になる頃にはランドセルより手提げカバンがオシャレみたいな風潮になってたのも思い出した。

 

 だけど、そいつは六年間赤いランドセルを背負い続けていた。

 

 俺は幸い同じクラスになったのが遅かったのでそのイジメには加担していなかったが、もしもっと幼い頃に出会っていたら……どうなっていたかわからない。


 とにかくクラス替えを経て俺はそんな『アカ』と出会ったのだ。

 本当の意味での初対面は低学年の頃校庭で遊んでいる時に見かけた、とか通学路で見かけた、とかそんなものだろうが覚えてない。

 実際まじまじと見たのは小五になってからだった。


「男が女かわかんねぇ」

 それがこの時の印象だった。

 目の色は薄いし肌も真っ白。

 周りと違い髪も長いし肩も小さかった。


「仲良くなりたい」

 自然とそう思っていた。

 多分自分とあまりにも違う神秘性みたいなものに惹かれたんだと思う。


 俺は残念ながらはっきり言って真逆の人間だ。

 両親はスポーツ大好きで二人とも小学校から大学までバスケをしていて高身長。

 俺もその遺伝子を受け継いでいて小五で周りの大人と同等くらいの身長には育っていたし、一年後の小六時で百八十センチ近くになっていた。


 それに対してアカはとにかく小さかった。

 その後も伸びなかったし当時は本当に小さくて、同学年のどの女子よりも小さく、弱そうに見えた。

 虐められていたのもあったのかいつもビクビクしていたイメージだ。


 そして誰よりも可愛かった。

 本当に綺麗で、本当に本当に天使みたいだった。


 当時まだ俺はBLなんて言葉は知らなかったし、界隈に詳しくないのでもし違ったら申し訳ないが、もしかしたらまだなかったかもしれない。

 

 本屋で見た某少年漫画の主人公たちが抱き合ってるアンソロジー本とやらを公式のものと勘違いして立ち読みして「うげー!」とか言ってたくらいだ。


 でもたぶん俺はアカに始めて会ったときから惹かれていたと思う。

 

 思春期特有の『女子に興味あるけど恥ずかしいからマトモに話せない』という状態だった俺のちょうど捌け口だったかもしれないけど……。


 今と違い怖いものなんて何もなかった俺はグイグイ話しかけていた。

 なので五月になる頃には当たり前に連んで常に一緒にいて楽しかった記憶がある。

 ゴールデンウィークとかの長期休暇になると俺は家業でやってる……まぁ自営業の商店って考えてもらえるといいんだけど、そこをずっと手伝わなきゃならなくて、遊んでる暇がなかった。


 俺は当時ミニバス(小学生のバスケチーム)とソフトボールを並行して習っていたんだけど、それ以外の時間は店に出てた。

 だからゴールデンウィークの間は誰とも、アカとも会わなかった。


 ゴールデンウィークが明けて久しぶりに会ったアカは腕を吊っていた。

 転んで骨折したとかで真っ白な腕に真っ白なギプスを嵌めていたのを『ロッ⚪︎マンみてぇだ』って羨ましがった記憶がある。

 うーん、我ながらアホみたいだわ。


 当時の俺は本当の理由を教えてもらえなかった。

 後になってそれが母親から受けた虐待の傷だと知った時は自分のアホさ加減に激しく後悔したものだ。


 アカは笑って許してくれたし、なんなら当時「転んで受け身に失敗した」という嘘の言い訳をしたことも謝ってた。

 謝らなくていいことも謝るのがアカの良くないところだって俺は言って聞かせたが、今になって思うと良くないところ、なのではなく悲しいところだった。


 ほんの少しの言い方の違いで受け取り方が違うのに俺は関係性に甘えていた気がする。


 俺と仲良くなってからアカのことを『アカちゃん』とバカにしたような呼び方で呼ぶヤツはいなくなった。というより正しくは呼ばせないようにした。

 恥ずかしくも偉そうな思考だが『守ってやった』と思っていたし、事実だったはず。


 小五のいつ頃だったか忘れたが二人でいる時に一つ上の先輩に「おホモダチ」ってバカにしたように言われたのを思い出した。

 体格に優れていた俺はそいつをボコボコにして先生や親からもの凄い怒られたのも覚えている。

 どれだけ理由を説明しても全て俺が悪いんだって当時の俺は理解した。


 今、思うと暴力をふるった俺が悪いんだけど当時の担任は「ショウゴくんは他の人より大きいんだから暴力はダメだよ」とか言ってた気がする。

 だから俺は『背の高い俺は常に悪者になる』ってアホな思考をして、その結果『だったら最初から悪いやつの方が得だわ』って不思議な結論を出していた。

 


 そんなこんなで卒業まで俺たちは普通の小学生として楽しく過ごしていた。 

 

 卒業式の直前、最後にランドセルを背負って登校した日の帰り道、赤いランドセルに石をたくさん入れて荒川へぶん投げたアカの姿は今も覚えている。


 そして次の日、卒業式にアカは来なかった。

 

 

 

 

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俺の初恋はBLか否か うめつきおちゃ @umetsuki_ocya

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