第5話♡「ごきげんよう、お兄さん」

「あっ。お兄さん」


 高校からの帰り道、呼ばれて振り返ると、清楚なストレート・ロングヘアの女の子がいた。

 割と見知った顔だ。


「ごきげんよう、お兄さん」

「詩織ちゃんじゃん。偶然だね。元気?」

「はい。おかげさまで」


 中学校の制服姿で、詩織ちゃんは淑やかに微笑んだ。

 ふたりで並んで歩くことにする。


 詩織ちゃんは瑠璃の幼馴染だ。ふたりは同い年で、「しぃ」「瑠璃ちゃん」と呼び合う関係。瑠璃が小学生の頃からふたりは仲が良く、いつも一緒に遊んでるという印象がある。活発な瑠璃と大人しい詩織ちゃんは対照的だけど、なぜか意気投合していて……友達関係って不思議だよなあ。


 詩織ちゃんと俺とは、別段すっごい仲良しというわけではないが、瑠璃つながりで話すようになった。会えば話す、みたいな感じ。

 お互い瑠璃が好きなので、兄目線と親友目線それぞれの〝瑠璃かわいいエピソード〟を交換し合い、尊いな……尊いですね……なんて語らうこともある。


「詩織ちゃんも学校帰り?」

「ええ。あと、途中でたこ焼き屋さんに寄りました。一個、いりますか?」

「お! いいの? 嬉しい。ありがとう、じゃあ一個もらっていい?」

「もちろんです。はい、あーん」


 詩織ちゃんは道で立ち止まり、たこ焼きの容器を取り出すと、つまようじでたこ焼きを差し出してきた。まさかの、あーん。詩織ちゃんは美人さんだからすこし緊張する……。


「あ、あーん、ぱく、もぐ」

「いかがでしょうか?」

「あっふ、はふ、あふい、おあふ」

「フフ。たこ焼きは熱いうちに食べるのが一番おいしいですよね」

「ほあっふ」


 思ったより熱いんだけど!?

 詩織ちゃんは口のなかを火傷しそうな俺を、にこにこしながら眺めている。あと、ちょっとだけうっとりしてる。

 そういえば詩織ちゃんって、Sっ気があるんだよな……。瑠璃と一緒の時も、瑠璃をからかったり困らせたりして楽しんでいる節がある。丁寧で柔らかな物腰で中和されてるけども。


 と思いつつ、俺は詩織ちゃんが容器のたこ焼きをひょいぱくと食べて平然としているのを見た。これ俺が猫舌なだけっていう説ある?


「お兄さん。最近は、瑠璃ちゃんとはどうですか? 仲良くしてますか?」


 俺があつあつのたこ焼きをやっとの思いで飲み込んだ頃に、詩織ちゃんから鋭角に質問が差しこまれた。


「あー。うーん。う~~~~~ん」

「やっぱり、険悪なのですか?」

「そうだね……。って、知ってるの? 瑠璃が俺に最近冷たいの」

「ええ。瑠璃ちゃんからある程度は聞いています。瑠璃ちゃんはお兄さんのことを、可愛いとかキモいとか、好きとか嫌いとか言っていました」

「どっち!?」

「この前は瑠璃ちゃんが残したハーゲンダッツの最後の一口を、泣きながら、ゆっくりねっとり味わって食べていたそうですね、お兄さん」

「語弊がありすぎるよ? てかそのシーン瑠璃に見られてたの!?」


 終わった……。また瑠璃にキショがられる……。

 この前オカエルィウス・アントニヌス(※「おかえり」という意味だと信じたい)って言ってくれたからちょっとは距離感が昔に戻ったのかなと思ったけど、あれから特に何もないしなあ……。


 うなだれる俺を見ながら、詩織ちゃんは「フフッ」と笑みをこぼす。


「お兄さん、大丈夫ですよ。きっと瑠璃ちゃんは今でもお兄さんのことが好きです」

「うーん……そうだといいけどなぁ……」

「お兄さんの方は瑠璃ちゃんのことは好きなんですか?」

「もちろん!」


 俺は即答した。


「大事な大事な妹だからね。どれだけ冷たくされたって、瑠璃のためなら何でもするよ。瑠璃をたくさん喜ばせたいし、もし悲しんでいたら地の底へだって駆けつけて元気づける! 瑠璃が産まれた時からずっと変わらない。命だって、何だって懸けられるよ」


 と、そこまで言って俺は、さすがに引かれるかな?と思って口を噤んだ。

 詩織ちゃんの反応を見る。


 詩織ちゃんの表情は薄く、読めない。


「……そうですか。でも、それはあくまで兄妹としての……」

「?」

「何でもありませんわ。ところで」

「ところで?」

「あちらにいるのは、瑠璃ちゃんでしょうか?」


 詩織ちゃんの指さす方向を見るより先に、俺は瑠璃の姿を見つけていた。


「そうだね。瑠璃なにやってんだろ」

「なにか、男の人と話していますね」

「誰だろ、知らない男だな。友達? 塾の先輩とか?」

「わたくしも、あんな金髪で長身の男は知りません」

「塾の先輩にしてはなんかチャラそう」

「浮ついた輩に見えますね」

「なんか瑠璃、顔をそむけてる?」

「何かを断っているようにも見えます」

「あ、瑠璃が歩き出した」

「男が回り込んでいます」

「困ってないか瑠璃」

「あれは……もしかすると」

「詩織ちゃん。ちょっとここで待ってて」

「いいえ。わたくしもゆきます」

「危ないかもしれないぞ」

「知ったことではありません」


 俺と詩織ちゃんは目元に影を差し、ギラリと瞳を紅く光らせ、自らに黒い炎のオーラを纏わせた(※イメージです)

 そして次の瞬間ッ!

 黒炎の〝氣〟を「バシュウン!!」と噴射し、俺たちは音速で跳躍ッ!(※イメージね)


「い~じゃ~んちょっとくらいお茶しようよォ~」

「だから、お断りしますってさっきから言って……」

「テメエエエエエエエ!!!!!!!! なに人の妹にナンパして困らせちゃってんだコラアアアアアア!!!!!!!!!!!」

「わたくしの親友に手を出すなーーーーー!!!!」

「うわあああああああ誰と誰ええええええええ!?!?!?」

「助けに来たぞ瑠璃イイイイ!!!!」

「お、お兄ちゃんっ!?」

「一緒に逃げるぞ瑠璃イイイイイイイイイ!!!!!!!!」

「あっ助けるってチャラ男を倒すとかじゃないんだ。ひゃわっ!? 引っ張んなクソお兄ぃ、手を握られなくても走れるってば!!」

「逃げますよ瑠璃ちゃん!! しっかりこの手に掴まってっ!!!」

「てゆーかしぃまでいるし!! しぃまで引っ張ってくるし!!」

「右へ行くのが俺たちん家への近道だ!!」

「左に曲がれば大通りだから人目が多くて男も追ってこないはず!!」


「右いくぞ瑠璃!」「左いきますよ瑠璃ちゃん!」


「ぎにゃーーーーーーーーー!!!!!?!?!!?!?!??!?!」

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催眠アプリで反抗期の妹を好き放題しちゃう話 かぎろ @kagiro_

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